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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第五章 墓場迷宮編 少女は月に手を伸ばす
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魔導錬金

「退避ですっ!」

「うん」


 かれこれ一時間を超えるレッサーベヒーモスとアカリたちの戦い。

 一見ワンパターンを繰り返しているように見えるこの攻防も少しづつ形が復元しなくなってきているレッサーベヒーモスによって確実に終焉が近づいてきていた。

 途中、半分に分離したり大きく跳ねたりものすごい勢いで突進してきたりとレッサーベヒーモスの側も多少は手を変えてはいたが、その都度アカリから飛ぶ指示によって沙羅(さら)はきちんと回避し、むしろ行動直後の動けないすきを狙って沙羅の持つ櫂が直撃、リーシャとの共同作業による我田引水(がでんいんすい)によるMP(ムーンピース)減少が進んでいった。


 ブモッ、ブモッーーーーーーーーーー!


 そろそろ限界が近いのか声量の小さくなったレッサーベヒーモスの()き声が部屋にこだまする。


『ないているのです』

『せやね』


 私を見上げる(さき)月音(つきね)


『おねーちゃん、あの子って……』

『んー、妹転換かね』

『はい』


 私を見つめる二人の妹に対して月音の膝上に座り込んでいる月影(つきかげ)はアカリたちの攻防から目を離さない。


『どうかなぁ、どちらにしろ今はアカリたちの攻略なのよ。割り込むわけにもいかないでしょ』

『それは……そうなのですが』

『意外です』


 月影に視線を戻した月音。


『おねーちゃんならルールとか無視して突っ込むかと思いました』

『そりゃ状況によってはね。でもさ、二人もよく見てみるといいさね。あのレッサーの子の目』


 あの目は怪獣というより獣、それも自身の存在にプライドを持ってる生き物の目だわね。


『あの子はあきらめてないのよ。多分最後まで駆け抜けるんでしょ、セーラみたいに』

『ねーちゃん、オレはいいのかよ』


 姉妹通信(シスターサイン)越しに聞こえたナオの声。


『ナオの場合は半分こっちの我儘(わがまま)で引き込んだだけだからね。基本命のやり取りは(せつ)ないもんよ』


 静かになった妹達とは裏腹に現地でのアカリたちの戦闘音と掛け声、そしてレッサーベヒーモスの鳴き声が響く。


『殺したら食え。食えないものであったとしても頂いた命を粗末(そまつ)にするな』

『シス神の教えでありますな』

『……あたし、言ってないんだけどな。それ』


 間髪容れずに相槌を打ってきたエウとぼやく幽子(ゆうこ)


『大体にしてみんな食べてるじゃん、命。ウサギに魔獣(まじゅう)、米に麦、イナゴに野菜、それとウマウナギ』


 あの田んぼにふいに出現することのある謎UMAがどういう生体なのか私にゃ未だよーわからんけどさ。

 あの動きってどっちかというとタウナギよね。


『アカリたちが勝ったらレッサーベヒーモスの石鍋とかで煮込みうどんとかよさそうじゃね? いい色合いだし仏飯器(ぶっぱんき)もありかな。つーことで作ってもらおうか、アカリに』


 仏飯器ってのは仏壇にある仏様用のご飯をお供えする器のことだわね。


「うっさい、仕事増やすなっ、この馬鹿姉っ! あっ!」


 瞬間バランスを崩したアカリがリーシャともどもレッサーベヒーモスの前に落ちかけた。

 そのアカリの胸元でぶにゃと鳴いたツチノコ。

 それが何の意味をなしたのかは不明だがレッサーベヒーモスが一瞬だけ止まった。


魔導再起(リブート)っ、再構築(リストラクチャリング)っ! 緊急上昇(エアロバースト)っ、沙羅姉、距離をとってください」

「うんっ!」


 再びリーシャを載せられるだけの十分な大きさのフローティングボードを組み上げたアカリが上昇によってレッサーベヒーモスとの距離をとった。


「ふー、危なかった。二人とも無事ですか」

「うん、私は大丈夫。沙羅ちゃんっ! そっち大丈夫っ!?」


 アカリにしがみついた状態のリーシャがさらに声をかけると沙羅が大きく手を振った。

 大丈夫みたいやね。


『集中が切れましたね、アカリ。そろそろインターバル(きゅうけい)を挟まないとあなたが限界でしょう』

「シャル姉に言われなくてもわかってますよ」


 やっぱ一時間を超えると疲れるか。

 そりゃそーだわな。


「ここまで削れれば上出来です。最終段階に入ります。二人とも、準備はいいですか?」

「「いつでも」」


 おっとそろそろ決着をつけるんか。


『あのレッサーちゃん固いよね、どうやるのかな』

『さあね』


 さて、どんな手を見せてくれるんだか。


     *


 動きに精彩を欠いてきたレッサーベヒーモス。

 最終段階といいつつもアカリや沙羅の動きは変わらない。

 ただ、それまでと違うのはアカリたちが飛行している位置が沙羅に近くなったくらいかね。

 沙羅の移動に合わせてその多少外側を移動してるみたいだけど。


『柱と沙羅の中間を位置取ってますわね』

『あー、やっぱりそうなんか』


 レオナと一緒にこの怪獣と戦ったチューキチ、今の吉乃からアカリが聞き出したギミック関係かね。


『何が起こるの?』

『さー、私も聞いてないからよーわからんよ』


 アカリ達三人によるレッサーベヒーモスからのMP強奪がさらに進んでいく。

 それが原因なのか胴体や四肢の各所が徐々にひび割れぽろぽろと剥がれ落ちてきているのが見え始めた。


『怪獣としての基礎を維持するためのMPを割り始めましたわね。場当たり的に融通をしているようですがそろそろ躯体が維持できなくなるでしょう』

『ふえっ!? 毎回あんだけ苦労してる怪獣がこんなに簡単に弱ってくるの?』


 これまで相手した怪獣というとみーくん、スネークイーン、チューキチととことんまでどつきあいになった後で倒してるから幽子がそういうのもわからんでもない。


『条件が違います。育成迷宮は外と違ってMPが常時補給はされません。何度でも復活してきて倒せないのでは育成にならないのです』

『それもそっか』


 ソータ師匠はいろいろと手の込んだトラップを仕込んでたみたいだけどできる範囲に縛りがあるってことか。


『それに育成迷宮自体の維持にもMPが必要ですので。魔獣などはフロア単位での討伐数キャップがあります』

『ほー。無限にわいてくるわけじゃないんだ?』

『はい。魔導ですので制限があります。魔獣についてはバックヤードにある養獣施設(ファクトリー)で育成されたものが配置されています』

『わざわざ育てて殺すの?』


 月音が何とも言えない表情をしながらシャルに問いかける。


『ええ。家畜(かちく)ですから。採集した肉や羽、皮、骨材などは適切に処理され商品となり流通されます。冒険者の育成のための迷宮とは銘打っていますが、重要視されるのは経験を積む修練場としてよりも都市を維持するための食料や部材の供給所としての役割です。テラと違い耕作地や素材の採集場が怪獣に荒らされることが起こりえる私たちの世界では古くからシークレットガーデン、隠れ里と呼ばれる異空間が人々の生活を維持する生命線として機能してきました。育成迷宮は赤龍機構(せきりゅうきこう)が作り上げた人工の供給所でもあるのです』

『なるほどねー。そんじゃ怪獣を中に閉じ込めてるってのは珍しいかな?』

『いえ。星神(ほしがみ)との共生を選択する怪獣もいますのでその場合は星獣(せいじゅう)と呼ばれ多くがシークレットガーデンの中に滞在します。一般的に育成迷宮の魔王をこなすのは星神か星獣、そうでなければ高ランクの冒険者です』

『ほー』


 星獣ねぇ。


『星獣って古代怪獣(こだいかいじゅう)とどう違うんよ』

『つくり的には同じですが……』


 ブモーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!


 シャルがそこまで説明したタイミングでレッサーベヒーモスが大きく雄たけびを上げた。


「来ますっ!」


 刹那、レッサーベヒーモスを中心として前方左右と後方左右のそれぞれ二本ずつ、計四本の柱の上下部分で爆発が起こった。


『ふえっ!?』


 そのまま光りながら宙を飛ぶ四本の柱がレッサーベヒーモスのもとへと飛んでいく。

 そのうち一本の移動経路にいたアカリとリーシャ。


「今ですっ!」


 リーシャが水星詩歌(すいせいしか)を柱に向けると夢の中で見たのと同じハニカム状のシールドが出現し柱の進行を妨害した。


「ぐっ! おもっいっ!」


 額に汗を垂らすリーシャ。

 その下の位置では水に乗って柱の傍に移動してきた沙羅が大きく両手を開いて柱に取り付いたのが見えた。


「リーシャちゃん。今手伝うっ! ふんにゅーーーーー!!」


 沙羅の怪力に引っ張られた巨大な柱がリーシャのシールドを離れてふらついた。

 その一方で残りの柱はすべてレッサーベヒーモスのもとへと集まり崩れかけていた四肢の代わりとしてすっぽりと入れ替わっているのが見えた。

 アカリ達が妨害した一本を除いて。


「エウ姉、頼んでた件お願いします」

『了解であります』


 その言葉を聞いたアカリがスーッとフローティングボードを移動させ柱に手をついた。


「構成術式展開ッ!」


 アカリの腰元、夢幻武都から伸びているケーブルにまばゆい光が走った。


「魔導錬金、ドライブッ!」


 アカリの言葉と同時に巨大な柱がみるみる姿を変えていく。

 強い風が吹きつけているのか沙羅が展開していた移動用の水が風に舞いあがり飛沫となって柱を隠した。


『ふえっ!? ま、魔導に錬金ってあるの?』

『ありますわよ』


 あるわな。

 幽子は忘れてるっぽいけど最初の頃はシャルが金属加工してたからね。


『ドヴェルグの使う金属加工魔法全般を錬金と呼びますのでそれを魔導化した簡易版となりますが』


 ふむ、あれはシスティリアから融通したマナで錬金しとるんか。


『そもそもさ、あの柱ってえらい硬いけどなんなんやろうね』

『おそらくミスリルでしょうね』

『まじか』


 テラの創作でもおなじみの謎金属。

 とにかく固いという設定がされてることも多いのがミスリルだけど。


『怪獣と比べるとどうなんよ』

『ミスリルの硬度の方が上です。その硬度を利用したのが小室(こむろ)教室で製造したミスリルのチェーンソーでした』


 なるほど。

 そんな会話を続ける私たちの視線の先、アカリ達の戦場で視界を隠していた飛沫が消える。

 そこには沙羅が必死になって持ち上げている巨大な機械が出現していた。


『なっ、なにあれっ!?』


 一様に驚きの反応を見せる妹たちのなかシャルの冷静なコメントが聞こえた。


『手持ち式の杭打機(くいうちき)ですか。なるほど、考えましたわね』


 ここでまさかの浪漫兵器とは思わなかったわ。


「錬成っ! マジカルパイルドライバーッ! 沙羅姉っ!」

「ふんにゅーーーーーーーー!」


 大量の水と共に沙羅がレッサーベヒーモスに突貫する。

 まるで津波を思わせるような勢いを伴って沙羅と水が支える巨大な杭打機の先端がレッサーベヒーモスの頭に当たる。


「「「いっけぇーーーー!!」」」


 続いて引き起ったのは巨大な振動と機構が立てる音。

 そしてレッサーベヒーモスの頭部が砕ける破砕音が響き渡った。

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