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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第五章 墓場迷宮編 少女は月に手を伸ばす
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シャルの依頼

 階段を下りた場所は小さな小部屋になっており、その先には育成迷宮に入る際に見たのと同様の石造りの両開きの門があった。


『うわー、いかにもボス部屋っぽい』

『せやね』


 幽子(ゆうこ)が楽しそうなのは元々が生粋のインドア派だからかな。

 そして多分、こういう感じでいかにも何かいますって見せてくれるのは最初のうちだけなんじゃないかな。

 ソータ師匠のことだから慣れてきたあたりで、いきなりエリアボスとご対面とかやりかねんのよね。

 ここら辺まではいわゆるチュートリアルなんだろうね、そしてアカリもそれをわかってるから無茶をしてる。


「ということで中に出る怪獣については以上が注意点です」

「ん-、私や沙羅(さら)ちゃんって基本は水を使った攻撃なんだけど、有効打与えるのが厳しくないかな」

「うん、深度の高い怪獣ってたしかすっごくかたいんだよね。この前の戦いでもそうだったし」


 不安そうに見つめるリーシャと沙羅にアカリが頷いた。


「普通にやってたらダメージは通りません。普通にやってたらですけどね」


 あからさまに悪そうな笑みを浮かべたアカリ。


「この戦いでキーになるのはリーシャ姉の水星詩歌(すいせいしか)と沙羅姉の神技(じんぎ)です」


 首をかしげた二人の姉にアカリが作戦の概要を話し始めた。


「水星詩歌は深度六怪獣相手に効いた実績があります、あの時私が戦闘モニタリングしていたんで間違いないです」


 それって夢の世界の話なんじゃないかね。

 あー、いや確かアカリが「物理演算は月華王(げっかおう)がかなり精緻に処理しています」って言ってたっけか。

 所謂(いわゆる)、シミュレーション上はってやつだわね。


「そして沙羅姉の神業にはあるんですよ、デバフが」


     *


『シャルちゃんさ、ちょいと聞いてもいいかね』

『何でしょう?』

『実際のとこ育成迷宮での死亡ってどんくらいあるのよ』

『私の抑えてる情報は多少古いものになりますがそれでも?』

『ええよ』


 私がそういうと一呼吸置いた後でシャルの声が聞こえた。


『戦争前、今から五年前時点での育成迷宮への年間挑戦者数は同一人物の重複挑戦込みで約一億四千十三万二千三百二十三人。そのうち死傷発生件数は四十三万二百三件、死者数は三千百三十二人、負傷者数は五十二万五千八百二十三人でした』


 随分細かい数値が出てきたこと。


『えらい詳しいね』

『以前は多数の育成迷宮を運用しておりましたので。赤龍機構(せきりゅうきこう)との契約でロマーニでは所属都市すべての冒険者ギルドを束ねる国として本部集中会計を採用しておりました』

『なるほど、コンビニでいうとこのフランチャイズみたいなもんか』

『みたいなといいますかそのものですわね。制度を持ち込んだのはトライですので』


 相変わらずどっかで見たような制度が多いのはそれが理由なわけね。


『死ぬことも結構あるんやね』

『はい。ですので挑む際には各位覚悟のうえで挑戦をしていただきたいと思います。万一命を落とした際には回収された死亡確認タグが冒険者ギルド隣の集合墓に収納されます』

『ククノチの隣に集合墓とかあったっけか?』

『大きな樹木がありましたわよね』


 あー、月音(つきね)がククノチのメイドバイトの合間に月影たちにご飯あげるあの小さい広場の木か。


『あれ墓なんか?』

『ええ。根元に投入口があって下部に空いている収納に死亡確認タグを放り込めるようになっております』


 あそこ確かレビィティリアの時には同性カップルがやらしいことしてたっけか。

 なるほど、確かに他の人はそうそう近寄らん穴場ではあるか。


『ところでお姉さま。アカリたちの健闘を鑑みてこちらも多少本気を出さざるを得ないと思いまして』


 手を抜く気だったのね。

 というかオープン会話で話してるものだから作戦会議してるアカリ達にも聞こえてるね。


『アカリ、表情笑ってるけどあれ切れてるよね』


 まぁ、そりゃそうだろうね。

 シャルのことだからどこまで冷静に攻略できるかも試してそうだけど。


『今回、お姉さまの疑似(ダミー)スキルとしての妹融合と妹召喚は封印してくださいまし』

『そりゃ構わんけどさ、なんでよ?』

『あれらはユウコお姉さまとお姉さま二人の共有スキルです。今回の競技での使用はアンフェアになります』


 なるほど、それは確かに一理はあるか。


『魔導で確か視界の共有とかあったけどあれはどうするんよ』

『そちらは幽子お姉さまが関与しないので対象外にします』


 そういう基準での縛りなわけね。


『ええよ』

『ありがとうございます』

『つーてもさ、シャルはわかってると思うけど私、妹のために必要となったら手段選ばんから最悪は失格負けとかもあり得るよ?』

『そうでしょうね。そこでもう一つお願いがあります。それによって妹融合を封印していただきます』


 ふむ、妹優先主義の私を止める方法があるんか。


『今回の試合の終わりまでに(はら)って頂きたいことがあります』


 おっと、そう来たか。


『そりゃ、オンミョウジとしての私への依頼?』

『はい』


 妹から、それも初期(さいしょ)から()くしてくれたシャルからの依頼じゃ断る理由はないわな。


『内容にもよるけどさ、何をよ』

『お姉さま、赤の龍王様についてここしばらく悩んでおられませんか』

『あー、悩んでるというか人柄をつかみかねてるのは確かだわね』

『大体わかったとか言って適当に流す優にしては珍しい』


 幽子の横やりさておいて確かに私にしてはってのはあるかもね。

 まぁ、もしかしたらってのはあるにはあるんだけどさ。


『墓場にふさわしい内容です。()()赤の龍王様が未練を持つ故人について調査と状況によっては祓いをお願いします』


 ふむ、普通に考えるなら母親のティリアについてなんだろうけど。


『それさ、なんでオンミョウジに頼むのよ』

『死者にかかるオカルトの話ですので。赤の龍王には死んだ思い人が居るという噂があるのです。テラ風に言うのならば都市伝説ですわね』


 確かに死者関係はオンミョウジに関係するっちゃするか。


『それと妹融合がどうつながるのよ』

『今件の終了までユウコお姉さまとの連携、及び情報の共有の制限をお願いします。お姉さまならできますわね』

『そりゃできるけど……一応聞くけど何でよ』

『ユウコお姉さまが超越の婚約者だからです。不利になる情報が出た場合にユウコお姉さま経由でクラリスの干渉がある可能性が否定できません』

『ほー、そんなこともできるんか。クラリス、どうなんよ』

『できるよ』


 私の質問にクラリスが答えた。

 何気に凄いな、超越(クラリス)

 私、ちょいと甘く見てたかもしれんわね。


『そういう理由ならまーわからんでもないかな。シャルちゃんさ、制限はできるとおもうけど姉妹通信(シスターサイン)がどうなるかだわね』

『それにつきましては月音経由で接続いただければ特に問題ないかと』


 なるほど。

 月音相手だとクラリスが腰が引けてるのも計算のうちか。


『でもなんでこのタイミングでよ』

『墓場というのは亡き者を埋葬する場所です。ソータが何かつかんでいるならここに仕込んでると思いまして』


 なるほど、あの人がやりそうなことでもはある。


『いいよ。後は報酬次第かな』

『報酬は……そうですわね。テラにいたお姉さまの姉についてのその後の情報とか』

『シャル、私のねーちゃんがどうなったかつかんでるんか?』

大凡(おおよそ)になりますが。いかがでしょうか』


 トライ伝手での情報ってとこか。

 ははっ、そりゃさすがに気になるわな。


『期限はこのチーム戦の終わりまでだわね』

『はい』

『幽子、悪いけど終わるまでは私の手法で接続制限かけるけどいいかね』

『しかたないか。でも無茶しないでよ、優』

『うん』


 これもちょっとした謎解き、冒険になるのかね。

 アトランティスの謎ならぬ赤の龍王の謎ってとこか。


『それではお受けいただけますか?』


 このセリフもセーラの時以来だわね。


『その依頼、たしかに受けた』

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