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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第五章 墓場迷宮編 少女は月に手を伸ばす
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魔導使い

 猫におつかいって本来はあてにならないって意味の言葉なんやけどね。

 月影(つきかげ)は都市の中をかなり自由にうろついてるからすっかり見慣れてしまってみんな違和感を感じなかったんだと思われる。


「こんなこともあろうかと以前から月影にはククノチ宛のお使いをちょいちょい頼んでましたから」


 たまに月影が首に吊り下げてたのって主にアカリのお使いだったのか。


『ま、まってっ、いくら月影でもホーンラビットの角とかいっぱい運んでたら目立つんじゃ……』

「あー、幽子(ゆうこ)は外に出かけてたから見てないんか。月影、スペアの夢幻武都(むげんぶと)とメモを首に下げて歩いてることがあるんよ」

『……マジで猫におつかい頼んでるんだ……』

「人の手が足りんからね。そうでなきゃ銭湯の受付を猫に頼まんわよ」

『ごめん、あれ月影が可愛いからやってんだと思ってた』


 そういう側面もあるわな。


『そんでどんなタレントを買ったんよ』

「シスリンクです」


 なんぞそれ。

 名称からして妹系なんだろうけど、


『シャル、解説お願い』

『要はお姉さまの妹に対する共感覚のタレント化ですわね。効果時間は一日と長いのですが継続にマナを使う特殊タレントです』

『ほー、取ると何ができるのよ』

『なにも。強いていうなら妹の位置がわかります』

『『『『『『…………』』』』』』


 全員が沈黙する中、アカリがにやりと笑った。


『初期状態でも妹の状態異常やマナの残りがどれくらいかはわかります』

『相変わらず生命力とかはわからんのね?』

『そこは数値化されませんから。ランクを上げれば疲労状態や使用したタレントや待機時間、二段くらい上げれば視界の共有や感覚共有とかもできるみたいですよ』


 ほー、それは使い道次第なタレントだわね。


「もう一つ、このタレント発行条件が緩くて『発動時に接触してたモノを妹とする』としか記載がないんです」

『そりゃ私のもう一つのスキル、妹転換の条件だわね。失われてとかのあたりは違うけど』

「まぁ、実装直後のタレントあるあるですね。後で下方修正されることもあるんですがされるにしても一月前に告知が入るんで今は使い放題です」

『ちょいまち、何をする気なんよ』


 地面にちょろちゅーを複数並べたアカリが両手を開いて全部で十台のちょろちゅーに触った。


「こういうことですよ。発動『シスリンク』ッ!」

「「『『『『『『『えっーーーー!?』』』』』』』」」


 アカリがタレントを発動させると同時にちょろちゅー達が淡く光った。


「いけっ! 妹達(ちょろちゅー)っ!」

『ちょ、アカリっ!?』


 アカリの声と共にちょろちゅー達が迷宮の先へとかなりの速度で走り抜けていった。

 その結果はアカリが開いてるミニマップへとすぐに反映されダンジョンの入り組んだつくりが次々に明らかになっていく。


『これはまた……斬新といいますか』


 珍しく呆れた声を出したシャル。


「ちょろちゅーはほとんどマナを使いませんし、稼働に使われているのも微細マナです。魔窟(まくつ)、正式には魔導洞窟(まどうどうくつ)と呼ばれる迷宮はその構築に魔導回路が使用されていますのでいたるところに魔導回路があります。トラップの発動だと過重などの物体反応や温感センサー、松明の煙を見る煙センサー、ほかにも接触が外れたことを確認するマジックマグネットセンサーなどが使われますが微細マナ相手のセンサーは誤動作の原因となるので使われません。ですからちょろちゅーは魔窟の罠には原則かからないんです」


 どんどんクリアになっていく迷宮のマップにぽつぽつと赤い点が表示され始める。


『アカリお姉ちゃん、この赤いのは何ですか』

「それは魔獣(まじゅう)です。ちょろちゅーが駆け抜ける際に壁との比較で密度の高いマナの物体をマーキングしています」

『まってまってまってっ! これ、ど、どうやって通信してるのっ!?』


 多分一番技術にうるさい幽子の問いに大きな胸を揺らしながら自慢げに腰に手を当てたアカリ。


「シスリンクです。シャル姉が超遠方でも姉妹通信は通ることを証明してくれましたから」

『……あの、それ以前なのですが……ちょろちゅーは妹になれるのですか?』


 ずっと黙っていた(さき)が困惑の視線を私に向けてきた。

 私は黙ってアカリの方を見る。


「できます。大体、優姉が王機(おうき)都市(システィリア)を妹にしてる時点で今更なんですよ」

『たしかに』


 そうこう言ってる間に走り抜けていったちょろちゅー達が特定の場所に集まり始めた。


「見つけました。ここが下層への入口です」

『ふえっ!? ど、どうやったの』

「ここまで降りてくる際に通った下層への出入り口には通過する冒険者をサーチする魔導回路が仕込まれていました。育成迷宮の場合、階層ごとの冒険者の数を抑制するために侵入者のカウント機能が標準実装されているんですがそれに使われてる魔導回路って結構特殊で出てる波動も細かいんですよ。なのでカイジュウアラートの原理を流用して指定した波動を検出したらそこがゴールということで止まるように仕掛けました」


 ゴールを目指したからかアカリのマップは完全には埋まり切っていない。


『……うっそー、こんなに簡単に迷宮ってマップつくれるものなの?』

『普通は無理ですわね』

「あ、埋まってないマップ情報、私買います。怪我をしない範囲でヨロシク」


 放送に向かってウィンクしたアカリが偉いさまになってるのがもうね。


『でもさ、アカリちゃんや』

「なんですか」

『罠はどうするのよ』

「それはですね……」


 アカリは再びしゃがみ込むと何かにいそいそとジャケットのようなものをくくりつけた。


「これでよしっと」

「いいのかなぁ……」

「ちょっとかわいいですね」


 そこには猫用のハーネスと散歩紐、そしてリードのついたツチノコがいた。


「罠探知はこいつを使います」

『『『『『『『『『えー』』』』』』』』』


     *


「三時間ですか、結構かかりましたね」

「あははっ……ここまで来れちゃったよ」

「いいんでしょうか」


 動きたがらないツチノコを宥めつつ毎階層でちょろちゅー達が切り開いたゴールまでのマップを参考に一気に進んだリーシャチームの目の前には第七層への階段が鎮座していた。


『こりゃ凄いわ。アカリ、真面目にさ、なんで冒険者にならんかったんのよ』


 とりあえず休憩ということで階段を前に座ってくつろぐアカリ。

 私が問いかけると銀髪に綺麗なグリーンアイを持った妹が心底うんざりした様子で口に寄せていた飲み物のカップから口を外した。


「私は魔導使(まどうつか)いです。本来は前線より後方で魔導具を創ったり調査したりの後方支援の方が適性があるんですよ」


 魔導士(まどうし)……じゃなくて魔導使いか。

 たぶんアカリ自身の龍札、『魔導』のスキルを使っての劣化コピーを意識していってるんだな。


「それに……」

『それになによ』


 すっと見上げてよこしたアカリの綺麗な瞳に皆が一瞬意識を引かれた。


「技術には聖も邪もなくただ結果があるのみである」


 はて、なんぞ?


『……私の書籍の一文ですわね』


 小さくぼやいたシャルの声が耳に残る。


「空を自由に飛びたかったんです。でも正攻法だけでは無理でした」


 それでフローティングボードを多用するのか。

 ずずっと飲み物をすすったアカリが小さくつぶやく。


「昔、約束したんです。いつか空を自由に飛べるようにしてあげるって」


 テラの母に、かな。


()()使いになりたかったんです。でもこの世界の王道の魔導士は個人技と論文が主戦場でした。スキルを除けば魔導適正も低くて発動できる範囲だと深度二でもぎりぎり。自分ですら危ういのに他人を空に飛ばすなんてことはとても無理でした」


 リーシャと沙羅、そしてツチノコが見つめる中アカリが独り言ちる。


「だから私は……」


 放送に映るにやりと微笑の混在したオリジナルなその笑みは実にアカリらしい魅力的なものだった。


「邪道を極めることにしたんです」

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