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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第五章 墓場迷宮編 少女は月に手を伸ばす
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アカリ式迷宮攻略

 アカリ達を見つめる私たちの耳にシャルの呟きが聞こえた。


『……模範解答は階層を総当たりし点を稼ぎながら自身らの安全を優位するでした』


 シャルの音声に紐づいた表示に視線を向けるとそこには直通対話という表記があった。

 現地には聞かせたくないわけやね。


『短期視点ではリスクが高すぎますし都市領主としても失格でしょうね。ですがアルバート達、赤龍機構(せきりゅうきこう)からの受けを意識したうえでの冒険者としての評価であれば……』

『どないなのよ』

『合格です。赤龍機構の組織としての最終目標は星の海への冒険、それを忘れた都市は短期はともかく長期的には赤龍機構からの支援を失います』

『私が言うのもなんだけどさ、大概やね』

『ええ』


 クラリスの前でそれを言うシャルもなんだけどね。


『そんでシャル的にはどうなんよ』

『悪くはありません。あえて評点するなら五十二点といったところでしょうか』

(から)くないかね』

『これでも甘い評価だと思っておりますが』

『シャルちゃんさ、このままだと賭けに負けてあの子らのお嫁さんにされちゃうかもよ』

『ご冗談を。お姉さまたちが意図的に負けない限りはあり得ませんわ』


 ははっ、ほんとこの子はこういうとこは揺らがないこと。


『苦手かね、あの子ら』

『はい』


 即答したシャルに私は続ける。


『愛してるかね、あの子らを』

『ええ』


 ライクじゃなくてラブか。


『シャルがアカリにあげた絵ってさ。私まだ見てないんだけど』

『…………』

『銀と紫の色、使ってたりしないかね』


 黙り込んだシャルに私が苦笑していると横にいた月音(つきね)、その膝上の月影(つきかげ)たちと視線があった。


『昔のロマーニに行きたいかね、シャル』


 正確には元ロマーニ王城の地下迷宮(ダンジョン)、研究施設だわね。


『わかりますか』

『そりゃ、姉だからね。そのうちシスティリアのみんなで行こうと思ってたんだけどそれじゃダメかね』

『システィリアの良いところは公開情報の多さです。ですがあそこにはそれに適さないものもあります』


 なるほど、確かに何でも全員で知ってりゃいいってもんでもないしね。

 マーマンとかも連れ込んでたとかそういうのも絡むか。

 そんでもってそこらへんをカリス教の風の四聖(しせい)、ハルチカに付け込まれたんだわな。

 個人の治療やらプライバシーやらも含む情報の公開要求を盾にマスコミが陰謀論かざしてやりたい放題するってのは向こうでの常套手段だったけどこっちでもしたわけね。

 そういう事情なら行くメンツは絞らなならんか。


『私も行きたいっ!』


 直通通話にしれっと割り込んできた月音。


『そんじゃ私らがかったらちょっと行ってみますか。ロマーニ王城地下の研究施設に、私ら三人といっぴ……』


 そこまで言った私を(さき)が見つめていた。


『四人と一匹でこそっと』

『ヘタレ』

『尻に敷かれてますわね』


 ははっ、一度敷かれてみればわかるさね、シャルも。

 いや、敷かれたからこそのこの言葉かな。

 会話は一切聞かれてないはずなのに小さく笑った咲に私はちょっとだけ戦慄を覚えていた。



     *



「始まる前から終わった後の話してるとか……チョーむかつく」


 表示板を見ながら苛立ちを口にしたアカリ。


「何かあったの?」

「いえ、大したことじゃないです。さっき打ち合わせた通り三層目以降は攻略の速度上げます。すみませんが防御は二人に任せます」

「うん」

「まかせて」


 リーシャと沙羅(さら)が冒険者カードを取り出して何か操作をしたのが見えた。


『お、何かタレント使ったんかね』

『おそらく新実装された妹系タレント、シスガードですわね』

『ほー、どんな奴なんよ』


 通信越しにこたえてくるシャルに聞く形で妹達にもタレントの概要を説明する。


『基本はパッシブタレントです。姉妹が攻撃を受けたときに強制的に割り込めるインターセプトタレントです』

『それってどこまで割り込めるのよ』

『ステファたちの調べでは一キロまでは反応しています。それより先となるとまだ未調査です』

『随分範囲が広いね。それなら育成迷宮くらいの広さなら反応するってことか』

『ええ。使い方としては敵の攻撃を引き付けるヘイト系タレントや攻撃を受けて相手の行動を束縛する防御系タレントの複合系に近い代物です』

『ゲームでいうとこのタンク向けか。デメリットは?』

『事前に指定した相手しかガードできません。またガードのために呼ばれる側は敵との間に強制的に割り込まさせられることから高い技量と護れるだけの力が必要です。対応を間違えば即死しかねないですわね』


 それもそうか。


『またこのタレントには姉妹召喚(シスターコール)が関連しています』

『そりゃまたすごいね。よー作れたね、これ』

『優ちゃんたちが仕掛けたアレがあったからね』


 私の素直な賞賛にギルドで事務処理しながら観戦してるクラリスが答える。

 アレっていうと赤龍機構所属の王機(ワルプルギス)にレビィが組み込んだルナティリアモジュールか。


『赤龍機構では神妹(しまい)機構として最新版のリリース情報で公開したよ』

『ほー』


 クラリスたちの所属する、というか冒険者を取りまとめてる赤龍機構のこういった柔軟なとこは素直にすごいと思う。


『それと同時に()()()()()()()()()()()についての情報も出してある』

『それ、必要だったんかね』

『君がそう仕向けたんじゃないか』

『ん? 何かしたっけか』

『王機の妹化だよ』


 なるほど、赤龍機構では私とレビィが仕掛けた月華王経由での王機の無断改造をそういう風に(さば)いたのか。

 変なとこで頭硬いわりにいざ動くとなるとホント柔軟だ。

 これは思った以上に手ごわいな。

 強いて弱点やアラを探すとすれば気が長すぎるところ位か。

 というか組織のトップにいるはずの赤の龍王の人物像がいまいちかちっとかたまらんのよね。

 おっとアカリが何かするみたいね。


「まずはこれを使います」


 冒険者用の収納ではなくアカリ自身が持ち歩いているスペアの夢幻武都(むげんぶと)に手を突っ込んだアカリは中から小さな玩具のようなものを次々と取り出し始めた。

 タイヤが付いてるっぽいけどなんやろうね、あれ。

 四輪じゃなくて六輪、しかも上の方になんか鼠っぽいガワがかぶせてあるし。


『えっ、マジでっ! マイクロマウスッ!?』


 通信越しに興奮気味に叫びをあげた幽子(ゆうこ)


『確かに鼠のガワかぶってるけどアレなんなんよ?』


 私が幽子に聞くと幽子は信じられないといった様子で解説を始めた。


『えっ、しらないのっ!?』

『知らんがな』


 式神が知ってるからと言って主が全部知ってるわけじゃないしね。

 オカルトにおける式神(しきがみ)は主の精神構造のみならず世界の持つ共有知(アカシックレコード)にもアクセスできるともいわれる。

 特に私の場合にはこっちに来てから精神世界が破壊されてる分、幽子は知ってるけど私は知らんというのは普通にあるわな。


『マイクロマウスってのはね。迷路を走破する競技用のちっちゃなロボットなの』

『ほー、ってことはあれか。迷路の端から反対まで駆け抜ける奴』

『昔はね』


 さすがテラの工学系技術オタ。

 しゃべりだすと止まらんわね。

 他の妹が付いていけない中、興奮気味の幽子の解説が続く。


『今はちゃうの?』

『うん。六輪走行で斜め走行したりゴールも迷路のどっかでどこにあるかわかってなかったりする』

「えっと幽子姉、そろそろ動かしますよ?」


 床の上に複数の車輪付きの鼠のおもちゃを配置したアカリ。


『ま、まってっ! その子の名前は?』


 そこ重要なんかね。

 食い気味にアカリに説明を求めた幽子に対して少し引き気味のアカリが答えた。


量産型猫用玩具(ねこちゃんシリーズ)、ちょろちゅーのバージョン十八です」

『か、かわいー。あっ、あとその名前ってセーフなの?』


 確かに似た名前のおもちゃがあったよね。


『ちょろもちゅーも汎用語として認定されてるからね、問題ないよ』


 なるほど、さすがにアメリカンジョークで語られるアルファベット特許みたいなことにはしないか。


「ミラージュ印のマジカルマウスはちょっと手を入れると色々使えるんで、今月分の製造パテントを買って量産しました」

『あ、やっぱ特許費用とかあるんだ?』

「コア部分の魔導回路にありますね。ただ元々が猫用のおもちゃなんでえらい安いですけど」

『あの子は普及させたいだけだからね。もっと高くてもいいんだけどあの子の作った品は製造パテントがかなり安いんだよ』

『クラリス、知り合いなんか』

『いろいろと縁があってね』


 さすが超越、顔が広いことで。


『それにしてもアカリ、その費用よく払えたね』

「初期配布のGP(ギルドポイント)で払いました」

『ってことはタレントは買わんかったんか』

「今から買います」


 アカリは自分の冒険者カードのGPの欄を指さした。


『ふえっ!? いつの間にかアカリのGPめっちゃ増えてる!?』

「え? うっそ、あ、ほんとだ!」

「アカリちゃんどうやって?」


 現地で幽子と同じように目を丸くしたリーシャと沙羅に無駄に大きい胸を張ったアカリがどや顔で口を開いた。


「魔獣の素材を売ったんです。外に訓練に出てる妹たちがちょいちょいホーンラビットとかの角とか取ってくるんですけどこういう時に便利だろうと思ってシスコインで買い取っておきました。今の相場より一割多めに付けてたので損はしてないはずですよ」

『そりゃまた随分と大盤振る舞いなことで。アカリのことだから割り引いて買うかと思ったんだけど』

「この先は割り引いて買い取りますよ。売り上げからギルドが諸経費込みで一割もっていくので私の取り分を五つけて八十五パーセントで買います。明後日入る素材組の子らは余した素材は私に持ってきてください」


 放送で宣伝するのか、この子は。


『それってさ、ギルドカウンターに直持ち込んだ方が早くないかね』

「それでもいいですけど数が足りない場合にはフルでは支払われません。八割以下になるので私の方がお得です」


 相変わらず小賢しいことで。


「ギルドカウンターにはついさっき納品しました。タレントの購入は事前に申請してますしギルマスが連絡が付くので即時購入可能です。ですよね、ギルマス」

『そうだね。ハニーは他の対応で忙しかったから見てなかったけど』

『ま、まって。いくらあたしでもさすがにアカリがこっちに来たら気が付くよっ!?』

「そりゃそうでしょう。納品はしましたがそっちにはいってませんから」


 ふむ、誰かにおつかいでも頼んだのか。

 そんなことを考えつつ視線を横に向けるとウマウナギの燻製にかじりつく月影の姿が見えた。


『アカリちゃんや、月影におつかい頼んだんかね?』

「正解です」

『ふえっ!?』

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