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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第五章 墓場迷宮編 少女は月に手を伸ばす
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第二層、嫁

「天井、結構高いね」


 階段を下りた先に広がる茶色の壁。

 アカリたちが持つ魔導のランタンに照らされて廊下の先が浮かび上がった。

 階段を下りて少し歩いたとこの壁際になんか長めの棒が複数あるね。


『あの棒は何なのでしょうか?』


 首をかしげる咲。


『きっと物干し竿ですっ!』


 そんな姉に自信満々の表情で答えた月音。


「いやないですから。なんでダンジョンで洗濯物干さないといけないんですかねっ!」


 そんな月音のボケに一々律義に突っ込んでくるあたりがアカリだわね。


『ありゃ、十フィートの棒やね』

『えっとフィートって何なのですか?』

『テラにおける長さの単位の一つですわね。私たちの世界ではトライが持ち込んだ国際単位系が標準になりましたがテラには他の単位も複数ありました。その一つがフィートです。十フィートは約三メートルの長さになります』


 淡々とフィートの説明をしたシャルに対してリーシャはじめ妹たちは不思議そうな表情で棒を見ている。


『何に使うのですか?』

『主に罠探査。後は穴の中に蛇とか言った生き物ががいないか突いてみたりとかするんよ』

『へー、じゃぁ突いて大丈夫だったら安全ってことなのね』


 私の説明に素直に感心する幽子にゃ悪いけど、そうでもないんだなこれが。


『意地の悪いマスターの場合だと突いた結果がちょうど突く手前の十フィートの位置に発動したりもする』

『うへぇ、何それ』


 そしてソータ師匠の場合は間違いなく底意地が悪い方に入るんよね。

 先行して階段を下りていたツチノコが最後の段でぴたりと止まった。


「ストップっ! 二人とも止まってくださいっ!」


 あからさまに人が作ったと思われる綺麗な廊下が続く土壁の第二層で階段を降り切ろうとしたリーシャ達をアカリが止める。


「えっ!?」

「なにっ?」


 二人の前に立ったアカリが冒険者カードの機能である収納の中から一層目で拾ってきたと思われる石を取り出してポンと放り投げた。

 すると階段を降り切った位置の床がガバリと開き中に槍のようなギミックが並んでいるのが見えた。


「「…………」」


 ははっ、こう来たか。


『なるほどなぁ、ゲーム感覚で棒を取りに行こうとしたら即殺ってか。ソータ師匠は相変わらずだわね』


 沈黙する妹たちの中、アカリが心底うんざりした様子で口を開いた。


「クリアさせるきねーだろ、あのクソジジィ」


 そんなアカリたちの視界の中で開いた落とし穴が開閉する仕組みによってゆっくりと閉じていくのが見えていた。


「アカリちゃん、今の何で分かったの?」

「魔王が止まったので」

「「あー」」


 なるほど、そのためのツチノコなわけか。

 つーかいなかったら今の奴きついんちゃうかね、このダンジョン。


「まずは今開いたギミックを無効化します。少し待っててください」

「え、出来るの?」


 驚いた表情をしたリーシャにアカリが頷いた。


「できますよ。色々と変ですが結局のとこ物理の罠と魔導機の組み合わせですから」

「でもいいのかな? 勝手にいじって怒られたりしない?」


 少し不安そうな沙羅にアカリが小さく笑って返した。


「いえ、むしろ逆です。先行した人が致死性の罠を無効化しておかないと後から来た人が困ります」

「あっ、もしかして加点の表にあった罠解除ってこれ?」


 アカリはリーシャの問いに頷きながら複数の魔導具を取り出し始めた。


「はい。なので総合加点方式の場合、基本先行の方が有利なんです。どっちにしろこんな危ない罠、潰しておかないと後の妹たちが大怪我しますよ」

「そうだね。アカリちゃん、お願い」


 その後、魔導具などを使いながらアカリが壁などに手を触れ複数の魔導を発生させること数分。


「これで動かなくなりました。よっと」


 作業を終えたアカリが階段から下に降りるが今度は開閉ギミックは動かない。


「通信で見てると思いますがとりあえず無効化はしました。ギルマス、これでいいですね」

『問題ないよ。評価点は随時足しておくから後ででも確認してほしいな』

「了解です。じゃ進みましょうか、リーシャ姉、沙羅(さら)姉」

「「うんっ!」」


 しかし、この位置の罠が生きてたってことはレオナはどうやって先に進んだんだか。

 ん-、もしかしてゲームにあったあのギミックが使えるのか。

 私らの番が来たら試してみよう。


     *


「あー、くっそ、やっと終わったー」

「おつかれさま、アカリちゃん」

「なんか……この階層、私達何もしなかったね」


 大量の罠を解除しつつ移動したアカリ達は一時間ぐらいで端まで移動。

 その後は第二層目の残りの罠を処理しながら視界内に表示されているミニマップを埋めきった。

 移動前に一旦休憩することにした三人の前には第一層目と同様、下へと向かう階段があった。


「罠がメインだったんでしょうね。魔獣もいませんでしたし」

「そういえばいなかったですね」

「沙羅姉、私にも水筒の水ください」

「あ、うん」


 リーシャがねぎらう傍らで沙羅が口に当てて飲んでいた水筒をアカリに手渡す。

 なんだかんだ言っても精神的に疲労したのかアカリはそのまま自分の口に当てるとグイっとあおった。


「あっ」


 それを見ながら緑色の肌をした沙羅が急に頬を染めた。


「なんですか」

「それ……間接キス」


 言われたアカリも一瞬硬直し頬を染めた。

 だが喉は乾いていたのかそのまま一気に残りを飲むと水筒を沙羅に返した。


「い、今更でしょう。大体、同じベットで寝てるんですよ。毎晩、どんだけ抱きつかれてると思ってるんですか」

「う、うん……そ、そうだよね」

「すいません、もう一杯もらえませんか。結構喉が乾いて」

「わかった、ちょっと待ってね」


 沙羅が手にはめた降妖水舞の端を水筒の口に当てるとそこから透き通った水が中に入っていった。


「沙羅姉とリーシャ姉がいると水には困りませんね。こういう時に水の調達が楽なのは助かります」

「ほんとっ? はい、お水」


 そんな二人のやり取りを見ていたリーシャがアカリを見つめつつぽそりと呟く。


「アカリちゃん、寝てるとき結構悪戯する割には一線超えないよね?」

「ぶふっ!!」


 足元で転がっていたツチノコがアカリの声に驚いたのかぴょんと跳ねて通路の隅へと逃げた。


「結婚するときにやってもいいって言ったからいいんだけど。もっとエッチなことしてくるかなって思ってたよ」


 含んでいた水を盛大に吐き出したアカリが口元をぬぐいながら抗議する。


「な、なにいってるんですかっ! 十分エロいことしてるでしょうよっ! ね、ねぇ、沙羅姉!」

「う、うん」


 そこで沙羅に同意を求めるあたりかなり動揺してるね。

 というか会話から沙羅も分かってて放ってるのがわかっちゃうかな。

 そんなアカリに対して少し半眼になったリーシャがアカリを見つめ続ける。


「だってアカリちゃん、最後までしないじゃない」

「ちょっとまてっ! リーシャ姉、放送っ! これ見られてますからっ!」

「あっ……」


 すっかり忘れていたのか遅まきながら真っ赤になったリーシャが黙ると三人そろって黙った。


『おねーちゃん、最後までって何の話?』

『そりゃあれよ。せ……』

『お姉ちゃん、それ以上は言っちゃダメなのですよ』

『あ、はい』


 つーかそこら辺を月音がわかってないってことの方が驚きなんやけど。

 あー、逆か。

 レビィティリアの最後の時に私が『母』を払い落としたときにこの子からもそこら辺の属性もろとも落としちゃってるかもしれんわね。


「と、とりあえずは進みますよ」

「「う、うん」」

「ギルマス、第二層も完全踏破ということで問題ないですね」

『うん。こちらの表示でも確認が取れた。第一層に続き階層クリア報酬も入れておくよ』


 クラリスの返答に頷いたアカリがリーシャ達に視線を戻す。


「第二層で一折潰してみたんですが即死系の罠はほとんどありませんでした。後の階層で多くならないとは言えませんが、ここから先は全コンプではなく速度を上げてできれば七層まで一気に行きたいと思います」

「うーん、それって危なくない?」

「どっちの意味でですか」

「まずは私たちかな」

「はい。結構なリスクがあります。それでも私たちが優姉たちに勝とうとするなら最低でも七層は落としておかないと」

「七層って……」


 首を少し傾げつつ考え込んでいた沙羅がなにか思い出したのか驚いた眼をしながらアカリを見つめる。


「確か怪獣がいたっていう話だったんじゃ……」


 恐る恐るといった感じで口を開いた沙羅にアカリが頷いた。


「怪獣撃破点、取りに行きます」

「えっ、で、でも……わたっ、私達だけで怪獣、倒せるの?」


 慌てる沙羅に対して小さくため息をついたリーシャが目を閉じて考え込む。


「やっぱりそれぐらいしないと勝てないかな?」

「はい。話を聞く限り十四層の怪獣は私達には手に負えません。再配置されているかどうかは賭けになりますがやるなら七層の方です」

「そっか」


 再び沈黙した三人。

 一瞬、止めたほうが良いか悩んだ。

 けどアカリならヤバそうになったらきちんと引き上げるから大丈夫かな。

 そんなことを考えているとリーシャが目を開けて二人を視線に入れながら口を開いた。


「うん。それやろう」

「い、いいの?」

「都市の領主としては後の子のために安全確保を優先したりとか、私たちが危ない橋を渡るのはどうかとかいろいろ考えた」

「う、うん」


 聞き入る沙羅に対してアカリは沈黙を守ったままリーシャを見つめ続ける。


「でも今日の私たちは冒険者なんだよ。冒険して精一杯やって、怪獣に勝って、そしてシャルおねーちゃんを私たちのお嫁さんにもらう」


 リーシャが静かだけれども腹の座った、どこか懐かしい面影のある優しい表情を浮かべた。


「それって浪漫あるよね。それにきっとおねーちゃんならこう言ってくれると思うんだ」


 一呼吸した後でリーシャが続ける。


「すてきねって。だからね……」


 いつの間にか足元に戻ってきていたツチノコが三人を見上げながら階段の前に立つ。


「冒険しよう」

「「はいっ!」」

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