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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第五章 墓場迷宮編 少女は月に手を伸ばす
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墓場の魔王

 日本風の墓石が並ぶ中、空にはカラス型の魔獣が飛び交う。

 アカリたちが位置口近くの墓の前で立っているとすり寄るのにも飽きたのかツチノコがころりと横になった。


「まじかよ……何でこいつがこんなとこに」


 呆然とつぶやくアカリのそばでしゃがみこんだ沙羅(さら)月影(つきかげ)用に持ち歩いてたと思われる猫のおやつをそっと近くの墓を囲む石の上に置く。

 するとそれまでのゆっくりとした動きが嘘のようにツチノコが飛び起きて餌のにおいをふんふんと嗅ぐ。


「大丈夫だよ、お魚干したものだから」


 沙羅と同じくしゃがんだリーシャが声をかけるとツチノコが最初の一つを食べた。

 一個食べると踏ん切りがついたのか沙羅が置いた猫用のおやつを次々と平らげていく。


「優姉、シャル姉、見てますか」

『ええ』

『見てるけどどないしたん』


 アカリがは立ったままツチノコを見下ろす姿勢を保ったまま姉妹通信(シスターサイン)経由で私達に話しかける。


「こいつが出入り口にいるとは思いませんでした。どうします?」

『どうするって……いや、懐かしいなーとは思うけどさ』

「いやそうじゃなくて……って優姉こいつのこと知ってるんですか」


 ふと視線を仮想の観察部屋の中に一緒に入り込んだ月音(つきね)の方に向けると、さっきまで膝上にいたはずの月影(つきかげ)の姿がなくなっていた。


『短い間だけどソータ師匠が飼っていたからね』

「あー、そういう関係だったんですか。じゃぁ、こいつが何かはわかんないんですね」

『せやね。こっちじゃ何なんよ』


 私がそういうとアカリはパーティにひとつづつ持たせてある夢幻武都(むげんぶと)のレプリカの口を開いた。


「クソジジィの契約怪獣(パートナー)の一体です。とりあえず簡易検査機(ハンディスキャナー)で調査……」


 アカリが夢幻武都(むげんぶと)に手を突っ込こもうとすると中からにゅっと現れた白と黒の毛に包まれた猫の手がアカリの手をパシッと叩いた。


「いった……なっ? 月影!? いきなり何をっ!」


 アカリがそういうと同時に夢幻武都のレプリカ(ポシェット)の出し入れ口から見慣れたタキシード柄の猫の顔がひょっこりと顔を出した。


『あー、月影。いつの間にー』

『何つーかしゅーるやね』


 月影が頭を出すや否や、ツチノコが目に見える形でぴょんと飛び跳ねて墓石の裏手の方に逃げて行った。


「あっ……逃げられちゃったじゃないですか。いったい……って月影もういないし」


 アカリが逃げるツチノコを追った視線を再び夢幻武都のレプリカに向けるとそこにはすでに月影の姿はなかった。


『アカリ、怪我してないかね』

「大丈夫です。爪は出てませんでしたし」


 月影、何か気に食わないことがあって猫パンチは入れたけど怪我させる気はなかったみたいやね。


『あ、おかえりなのです』


 私が視線を月音の方に向けるとそこには月音の膝上に再び香箱座(こうばこずわ)りした月影の姿があった。


『一体どうしたの? 月影』


 怪訝そうに聞く月音に月影は何も答えない。

 まぁ、猫だから答えようもないんだけど何か護ってるんやろうね。

 契約怪獣ってことは怪獣で間違いはないんだろうけどアトラには何も反応せんのよね。

 むしろ面倒見がいいくらいなんだわ。

 ツチノコが雄だからか?

 ちょっとわからんね。


「完全に逃げられました」

「しかたないですね。可愛かったです」

「そうだね。また会えるといいな」


 悔しそうにするアカリのそばで猫に触れ合ったリーシャと沙羅がほのぼのとした雰囲気を醸し出す。


「いやそうじゃなくてですね……シャル姉。あいつのこと知ってますよね?」

『無論です。ソータの契約怪獣の中でもあの子は有名ですから』

『今でもあの首輪をしてるのでありますな』


 おっとエウもツチノコのこと知ってるんか。

 あの首輪っていうと封印って書かれたやつかな。

 私が知ってるツチノコには首輪はなかったかな。


「シャル姉、私が思ってる以上にあいつのこと知ってます?」

『ええ。小室教室で最初に生み出したパケ猫ですから』

『小室教室っていうとシャルが十代のころの話よね』

『ええ』


 随分昔の話だわね。

 ツチノコ、こっちの世界では長生きできたんだ。


『あれはファイアーラットのチュータから生成した初のパケット猫。幻想怪獣(げんそうかいじゅう)ツチノコです』

『ほー、そんじゃアトラとかはツチノコより後なのか』

『ええ。現存するパケ猫はツチノコの子孫です。そして、あの封印の首輪は当時のクラスメイト達と一緒にソータが作ったものですわね。私もそうですが当時のクラスメイトなら全員知っていますわよ』


 ふむ、こっちの世界じゃ去勢されてないんかな。

 少なくともテラで出会ったあの猫をあのまま再現したわけじゃないっぽいね。


「なら話は早いです。ギルマス、見てますよね」

『なんだい?』

「クエストの追加発生を申請します」

『なるほど。君はあの子がそうだと思ってるんだね』


 二人が会話する中私を含むほかの妹たちは話についていけずにじっと聞き入る。


「多分ですけどね。魔窟(まくつ)の名称と属性が被ってますから」

『たしかにね。ソータならやりそうなことではあるかな』

「少なくともツチノコの中に入ってるアレが見れるならこの魔窟の攻略に役に立つはずです」


 アレって何のことなんだか。


『確かにな。あいつに入ってるのはクソジジィのアレだろ』


 おっとここでナオも会話に割り込んでくるか。


『アカリちゃんさ、さっきから会話に出てるアレって何よ?』


 私がそう問いただすとアカリは息を一息吸ってからこう続けた。


「クソジジイ、土の四聖(しせい)だった土屋蒼太(つちやそうた)龍札(たつふだ)の半分、『地』の龍札です」


 一文字ねぇ、セーラみたいに札を割ったんかね。

 そういやセーラが言ってたね。

 たしか「権能分解で頑張って札を割った私達がしてきたことって何だったのかしら」だったっけか。

 私達ってことは他にもいたってことで師匠もやってたってことなんだわな。

 セーラがリーシャにしたみたいな魂の半分を相手に移植する神技(じんぎ)


子孫繁栄(しそんはんえい)だっけか』

「はい」


 それにしても師匠の半分を譲る相手って言うとどっちかというと向こうでの相棒だったなっちゃんをを思い出すんだけどツチノコの方だったか。


『なるほど、そんでもって地獄って入り口に書かれた迷宮だから深い関係があるだろうと踏んだわけね』


 私がそういうとアカリが大きくうなずいた。


「はい。規約にありましたよね、『次の魔王と認定する』って。つまり今の魔王がいるんです。あのクソジジイが人間を魔王に指名するってのはまずありえませんからね。というかアイツが配置した管理者って大体自作の怪獣ばっかりなんですよ」


 わからんでもない。

 師匠、上っ面の人当たりは悪くないから誤解されがちだったけど根っこのとこで重度の人間嫌いだったからなぁ。

 大体さ、「魑魅魍魎(ちみもうりょう)なんてもんは人間の中にしかねーよ」って毎晩悪態つきながら怪異(かいい)を使って副業してた人だし。


「たぶん、あいつがここの魔王(まおう)です」


 ははっ、魔王と来たか、出世したなぁ、ツチノコ。

 あとたぶん見える地雷(トラップ)でもあるんだろうだな、本当性質が悪い。

 それにしても……


『相変わらず可愛くないツンデレだなぁ、ソータ師匠は』

『全くです』


 そんな私につぶやきに銀髪紫眼の妹(シャル)が実感のこもった共感をした。

 顔は見えないけどなんか微笑してそうやね、シャル。


     *


「あの子、どこいったかみてましたか」


 アカリがリーシャと沙羅にそう問いかけると沙羅の方が奥の方を指さした。


「多分あっち。追いかけるの?」

「はい。あいつが魔王ならこの魔窟の管理権限(アドミニストレータ)持ってるはずなのでうまく取り入れればトラップとか全部すっ飛ばして進められます」

「いいのかなぁ、それ」


 アカリの提案に微妙な表情を浮かべたリーシャ。


「楽できるときは楽な道を選んだ方が楽ですから」


 そりゃ楽な道ならね。

 皆が見つめる中、アカリたちは遁走し(にげ)たツチノコを追いかけて墓場を進む。


「いたよっ!」


 程なく丸々と太った猫と飛びかうカラスたちの姿を見つけた。


「あっ、カラスにいじめられてるっ!」

「ほんとだ、助けないと」


 慌ててツチノコの救済に走ったリーシャと沙羅。

 二人を呆然を見送ったアカリがぽつりとつぶやいた。


「なんで魔王が管理してるはずの魔獣に襲われてんだ……」


 そも、あの子が本当に魔王なのかどうかだわね。

 そんなことを考えているとクラリスの声が聞こえた。


『アカリちゃん、さっきの申請なのだけど』

「あ、はい」

赤龍機構(せきりゅうきこう)()()()()簿()()()()()()()()()()()。あの子が魔王で間違いないみたいだね』

「えー」


 自分で魔王言った張本人がえーっていうなし。


『それとこの魔窟固有のクエストが来てるよ』

「ユニーククエストですか。ちょっと見せてもらってもいいですか」

『あー、クラリス。みんなにも見せてくれんかね』

『いいよ』


 アカリたちの冒険を見ている私達の目の前にクエスト詳細が表示された窓が出現した。

 ふーん、『姫を護りながらゴールせよ』ねぇ。

 熟読する私の隣で月音(つきね)が楽しそうな声を上げた。


『わぁ、ドラプリのまんまですっ!』

『せやねぇ』

『えっとそれってたしかお姉ちゃんが前世で見たっていうゲームなのですよね?』


 首をひねる(さき)


『せやね』

『たしかお姫様を護りながらダンジョン攻略するって話だったと思うのですが』

『うん』


 私が首肯すると咲は再び視線をアカリたちの方に向けた。


『プリンセスは?』


 龍王の娘の咲の方がドラゴンプリンセスっぽい気はするけどさ。

 私は表示されている画面の中の丸い猫を指さしてこう言った。


『あれ、プリンセス』

『『『『『『えー』』』』』』

「アイツ、去勢済みの雄ですよ」


 画面内で半眼になったアカリが画面のこっちを意識してか斜めの方を見ながらぼやいた。

 あー、やっぱり去勢はされたんだ。

 猫はほっとくとすごい数増えるしね。


『大体さ、アカリちゃんや』

「はい」

『セーラがいた時点であきらめようよ。去勢済みの雄の姫がいたっていいやん』

「優姉、姫ってなんなんですかね」


 ふむ、哲学だわね。


『そもそも姫って何歳までが姫なんよ。定義的には王の娘が姫ってことなら八十超えてても姫だよね』


 実際そういう創作(ものがたり)もあるしね。


「そりゃそうですが、あいつ猫で怪獣で雄ですよ」

『アカリちゃんさ』

「はい」


 私は横にいる月音の膝上にいる月影に視線を送った。

 すると月影もじっと私を見つめ返してきた。


『月影、私らの妹じゃん。今更よ』

「うぐっ」


 私もツチノコが姫化するとはさすがに思わんかったけどさ。

 猫相手に姫プレイしろってどういう趣味層に向けてこの魔窟つくったんかね、師匠は。


『あえて言葉にするなら怪獣姫(かいじゅうひめ)ってとこかね』


 猫だけど。

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