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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第五章 墓場迷宮編 少女は月に手を伸ばす
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墓場スタート

 今日は迷宮攻略の初日。

 山腹の中、その迷宮の入口はあからさまに異形だった。


「育成迷宮ってこんな感じなんだね」


 それは雪の積もる山腹に不意に出現した遺物。

 誰がどう見てもしっかりとした石造りの両開きの門だった。

 皆で話した結果、攻略順は一日単位でエチゴヤ組、ロマーニ組、カヤノ組。

 一日休みを挟んでもう一巡して終了ということになった。

 それ以外のチームはカヤノ組の日に一緒に潜ってもらうということでフィーにはちょっと悪いけど妹たちの面倒見を押し付けた形だわね。

 期間は一週間だから一チームあたりが挑戦できるのは二日になる。

 もうちょい正確にいうとこっちの一年は三百五十五日だし一週間が八日の時もあるんだけど、今回の挑戦する週は七日で終わりなのでそれに合わせた。

 オンミョウジ的には露骨なズレだなと思わんでもないけど一応異世界(アスティリア)やしね。


『シャルちゃんや、あの門の上に書いてる文字、なんて書いてあるんよ』


 通信経由で聞いた私の言葉にシャルの声が返ってきた。


『ジゴク、ですわね』

『地獄かー。なるほどなぁ』

『何か気が付いたことが?』

大霊界(だいれいかい)ことカリス教の天国があるなら地獄もそりゃあるだろうなってそれだけよ』

『たしかテラにおける知名度のある宗派の冥界の名称でしたか』


 仏教の天国と地獄は冥界とはちょいと違うんだけどね。


『まぁ、こっちの子にはその解釈でもいいかもね。どのみち私らには攻略せざるを得ない理由ができたってことでもあるわな』

『それはどういう意味合いでですか』

『まぁ、見てみんことにはってのはあるけど多分関係あると思うよ、カリス教の大霊界に。そこんとこどうよ、ナオ』


 今日はククノチのシフトがあるためナオは勤務しながら姉妹通信(シスターサイン)にて参加している。


『知らねーよ』

『ありゃ、つれないこと。ナオは大霊界にあんま詳しくないのかね』

『オレが興味あんのは救済(きゅうさい)だけだ。その先のめんどくせーのはメティスにでも聞けよ』

『ははっ、ならしゃーない』


 興味がないんじゃしょうがないわな。


『ねぇ、あたしアカリの性格だとほかの人の後をついていくって言いだすと思ったんだけど』

『階層攻略には冒険に応じて報酬が出るからね。ユウちゃんたちが潜るより先に稼いでおこうということだと思うよ』


 姉妹通信越しに攻略を観察してる幽子(ゆうこ)がそういうと、同じく何かあった時に備えて見ていたクラリスの声も聞こえた。

 今日、談話用の仮想の部屋に入ってのんびり観察してるのは私と(さき)月音(つきね)月影(つきかげ)だけでほかの子は何かの作業しながらの姉妹通信越しでの参加だ。

 幽子達は先日開いた冒険者ギルドの掲示板でクエストの貼り付け、および総合カウンターで終了処理をしていた。

 ダンジョン攻略関係のクエストは始まってもいないので回ってないけど雪原に出る一角兎(ホーンラビット)夜泣鼠(ナイトラット)とかは報酬が出るということで、素材を手にした妹が順に処理をしてGPを受け取っている。


『そこも分かっててシャルは先行は譲ったんだ?』

『ええ。最初から結果が見えていては面白くありませんから』


 相変わらずこういうとこの自信は揺らがんね、シャルは。

 今日もラボにこもったままだけど何をしてるんだか。


『おねーちゃんたち静かに。向こうの会話が聞こえにくいです』

『はいよ』


 仮想部屋の中で月影を膝上に乗せた月音はアカリたちの攻略がどうなるか楽しみらしく目を輝かせている。

 そんな私たちの雑談をよそに栄えある最初の攻略者となったチームエチゴヤはきっちり固めた防寒具と服に下げた複数の魔導具を携えてその門の前に立っていた。

 リーダーを務めるリーシャの手には水星詩歌(すいせいしか)、同じように沙羅(さら)の手には降妖水舞(こうようすいぶ)が身につけられておりマーサさんからもらった(かい)もしっかりと握りしめていた。

 二人と違い手ぶらのアカリは代わりにシャルがちょくちょく出すような透明な魔導の表示板を胸の前に出現させそれを見ていた。


「ねぇ、アカリちゃん。扉の後ろ側、何もないんだけど」

「入口が配置されてるだけで実際に山の中に迷宮があるわけじゃないですからね」

「「へー」」


 アカリの解説に感心する二人に揺れる胸を張ったアカリがさらに続ける。


「地図の方は私の方でオートマッピングします。最初のうちはナビも私がします。止まるように言ったら必ず止まってください、大体嫌なトラップがあると思うので私が解除します。それと魔獣(まじゅう)が出たときは残してほしい部位を言いますんでできれば残してください。冒険者ギルドでの加点や買取、あとは私が作りたいものがあるのでそれの素材にします」

「わかった」

「うん」


 頷いた二人。

 三人はリーシャを中心に門の前に立つと門の模様をじっと見つめた。


「すごいこってるよね、この門」

「作ったのがクソジジィですからね。あいつこういうことには手抜きしませんし」


 吐き捨てるアカリに苦笑いを浮かべたリーシャが左右の二人に気合の意味も込めて声をかけた。


「アカリちゃん、沙羅ちゃん。無理はせずにできる範囲で行こう」

「うん」

「そうですね。駄目っぽかったら逃げましょう、怪獣とか出てきて転送不可になってからじゃ遅いのでリーシャ姉が余裕ないときは私が逃げ打ちますね」


 自信満々に逃げる宣言をするアカリをリーシャと沙羅が苦笑する。


「「おいて逃げないでね?」」


 背の低い二人の姉から見上げるように懇願されたアカリがうっと一瞬詰まってから口を開いた。


「がんばります」

『『『『がんばるなんだ』』』』


 赤くなりながらそうつぶやいたアカリに複数からの突っ込みが入った。


「やかましいですよ、外野」

『アカリちゃんや、自分の奥さん達くらいは守り抜こうや』


 私がそういうとアカリが半眼になった。


「いや、私の方が妻なんですが。もう、時間の無駄なんで進みますよ。仕様は標準の育成迷宮っぽいのでたぶんパーティリーダーの初期認証が必要です。リーシャ姉、扉に触れてください」

「あっ、うん」


 リーシャが扉に触れるとアカリが見ているのと同じ青い文字盤がリーシャの前に出現した。


「指で下の部分を押しながら上に動かしてください」

「こう?」


 アカリはリーシャに表示板の内容をスクロールさせながら中身を読んでいく。


「内容自体はテンプレ通りですね。いつの間に作ったんだ、あのクソジジイ」

「えっと細かくてよくわかんないんだけど」

「とりあえず最後まで流してください」


 アカリに言われるがままにリーシャは表示を流していき最後まで到達した。


「ギルマス、見てますよね。契約内容は問題なさそうですか?」

『僕の方でも確認した。生死無保証型の標準育成ダンジョンだね。製造途中なのでその旨了承するようにだそうだ』

「まぁ、むしろ良くこれを作ってる時間あったなと。生死問わずは冒険者だと普通ですし」


 アカリがそういいながらスクロールを少し戻した。


「私としてはここの表記が気になるんですが。シャル姉、読めますか」

『ええ。内部に複数の怪獣を保持していると明記されていますわね』

『『『『『『『『『えーーー!?』』』』』』』』』


 驚く妹達をしり目にシャルとアカリが会話する。


魔窟(まくつ)怪獣(かいじゅう)を封印すること自体はよくある話です」


 よくあるのか。


「ただ、複数となると構造が持ちますかね。いくら専用で空間形成してるとはいっても重すぎて踏み抜くんじゃないかとおもうんですが」

『普通ならそうですわね。ただ……』


 沈黙したシャルとアカリ。


『お前ら、あのクソジジィだぞ。つーか、あいつ捕まえた怪獣いつもどっかに持ち去ってるとは思ってたんだがこんなとこに隠してたんだな』

『おかげでえらい目にあったっすよ』


 同じくカヤノの勤務があるため姉妹通信経由の吉乃(よしの)


『吉乃、細かいとこって覚えてるかね』

『全然っす。あ、でも怪獣がいた階層なら覚えてるっすよ』


 皆が吉乃の言葉を待つ。


『たしか七層と十四層だったっす』

『レオナが負けたのってどっちよ』

『十四層の方っす』


 十四層ねぇ。

 嫌な予感しかしないな


『十層毎じゃないのですね』


 ぽつりとつぶやいた咲に私が答えた。


『多分、14へ行けだな』


 私がそういうと咲が首を傾げた。


『14へ行け? どういう意味なのですか』

『有名なゲームブックのお約束。14へ行けって出たら死亡確定なのよ』

『不条理なのです』


 ぼやく咲同様に門の前で文字盤を見ていたアカリたちも何とも言えない顔をした。


『もともとは外国産の奴なんだけどね。あのゲームブック、日本に入ってきたときには別の名前で呼ばれてたんよ』

『へー、何て名前なんですか』

『ドラゴンプリズナー』


 ぶっちゃけ名前忘れてるんだけどさ、だいたいこんな感じだったと思う。


『なんか名前が似てますね、ドラゴンプリンセスに』

『せやね』


 さて、似てるのはどこまでなんだろうね。

 あのゲームは一応の体裁としては普通のダンジョン攻略ものだったけど。


『吉乃さ、一つ聞いてもいいかね』

『なんっすか』

『七層で上に出れる出口とかなかったかね』

『あったっすね』


 なら正解だな。


『ははっ、決まりだな。このダンジョン、ソータ師匠が作ったクソゲー、ドラゴンプリンセスのリアル版だわ』

『クソゲーなんだ?』

『一層目を見てみりゃわかるよ』


 私たちの会話にげんなりした顔のアカリ。


「始める前からテンション下げるのやめてくれませんかね。行きますよリーシャ姉、沙羅姉」

「えっ? いくの?」

「まぁ、他の条項は普通でしたし。それにここの表記」


 アカリが指さした場所の表示を見てリーシャが息をのんだ。

 こっちの世界の文字で書かれてるから読めんわね。


『私にゃ読めんのだけど誰か代わりに読んでくれんかね』


 私がそういうと咲がかわりに読み上げてくれた。


『当魔窟(まくつ)の死を越えたものを次の魔王(まおう)と認定する。せいぜい頑張れ、なのです』


 ははっ、ソータ師匠らしいわ。

 死と言えばクラリスは不死(ふし)の権能を持った超越(ちょうえつ)だったっけか。


「『………………』」

『死んだ後でも当て擦りをしてくるあたりが実に君らしいよ、ソータ』


 アカリとシャルが困った顔をする中、ギルドマスターに就任したての不死の超越者がぼやくのが聞こえた。


魔王(まおう)って育成迷宮(いくせいめいきゅう)の管理者のことだっけか』

『ええ。今後のことを考えるなら育成迷宮は必要ではあります。ですがソータの遺産となると別の意味合いも出てきますわね』


 私の問いに沈黙していたシャルが答えてくれた。

 あの人の遺産ってあんまいい予感はしないなぁ。


「ともかく、今はまだ余裕がありますけどこの先システィリアの人口が増えたら確実に食料と鉱物資源は不足します。できれば管理権限が欲しいとこですがあくまでできたらってとこですね。まずは魔獣狩りと探索です。それでいいですね、リーシャ姉」

「うん。行こうか、アカリちゃん、沙羅ちゃん」

「「はいっ」」


 意を決したリーシャが表示の一番下に見えていた小さなアイコンの上に指を置いた。

 すると青い表示板が消え、明らかに重そうな門がゆっくりと開き始めた。

 やがて開ききったその門の奥には第一層目のフィールドが広がっていた。

 そこは赤い夕陽の差し込むどこかで見たような風景。

 少し低めの石の上に長めに切り出された石が乗りその表には家名が、横には長々とした表示がされた石積みの構造物。

 綺麗に区分けわけされたそのフロアには大量のその石の構造物が並び、その後ろには木製の棒が差し込まれていた。

 空に飛びかうカラスっぽい魔獣たちとアカリの足元に向かってポテポテと歩み寄ってきたあからさまに()()()


日本(むこう)の墓場じゃないですかっ! ファンタジーはどこ行ったんですかねっ!」

『うっわー、懐かしーです。ここって第一層ですよねっ!』


 結構最初の頃からファンタジーさんは行方不明な気もせんでもない。

 そんな絶叫したアカリとは対照的にうっきうきな声を出した月音。


『せやね。つーことは多分先に進むにはあれなんだろうけど言ったらあかんよ。ソータ師匠のことだからそういうとこにトラップはりかねないし』

『はーい』


 憮然とするアカリの足元に前脚の指先と後ろ足の足首部分が白色、そして首元に茶色の首輪をしたあからさまに肥満気味の猫が頭を擦りつけた。

 随分と丸いから猫かどうか一瞬疑ったけど普通にキジトラ柄の猫やね、えらい肥満だけど。

 ふーむ、この猫、知ってる子に似てるんだよね。

 ちなみに妖怪スネコスリかなと思ったってのは三千世界の姉妹と私だけの秘密だ。

 さらに観察するとその猫の首輪には金属製のプレートが付いてるのが見えた。


『咲ちゃんや、あの首輪の金属のとこの文字読めるかね』

()()って書いてあるのです』


 私と咲が会話する一方、レビィティリアでさんざん猫に触れ合った沙羅(さら)がそのデブ猫に触ろうと手を伸ばすのが見えた。

 猫は肥満過ぎて動きが緩慢なのか特に抵抗もなくさっくりと沙羅に抱き上げられる。

 捕まったその猫は沙羅の手元でぶにゃと鳴いた。

 それまで呆然としていたアカリがやっと我に返ったのか沙羅が抱き上げている猫を見て再び声をあげた。


「ツチノコじゃないですかっ! な、なんでこいつがここにっ!」

『『『『『『『『『ツチノコッ!?』』』』』』』』』


 エチゴヤ探検隊が足を踏み入れたダンジョン内の墓場。

 そこには封印されしツチノコが待っていた。


『ははっ、やっぱお前さんなんか。久しぶりやね、ツチノコ』

『ふえっ!?』

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