チームエントリー
「そんな感じなんだけどいけるかね」
私がそういうとクラリスは少し考えこんだ後で頷いた。
「特に問題はないかな。実施期間はどのくらいにするんだい」
「んー、一週間くらいでどうかね」
私が視線をシャルに向けるとシャルが小さく頷いた。
「前回のファイアーラット、今でいう吉乃との戦い後に判明したソータ由来の迷宮が山腹に確認できています。入口は五合目であってますわね」
「はいっす」
シャルの言葉に今日はカヤノの制服を着ていた吉乃が答えた。
「勝負は総合加点方式でいかがでしょう」
私も含めて大体の子が疑問に思っているとクラリスが補足を入れてくれる。
「冒険者の場合は個人のランクアップとパーティのランクアップ、それと討伐した部位などによる買取での査定が表になってるんだよ。見た方が早いかな、一枚づつとって回して」
そういってどこからともなく紙を取り出したクラリス。
私や周囲の子たちに束で渡した紙から皆が一枚づつとって隣に回していく。
やがて私の前に来た束から私は一枚とって眺める。
「ほー、こりゃまたわかりやすい」
そこに書いてあったのは何をどうすればギルドポイントがもらえるかの説明書きだった。
日本語でいうとこのひらがなで書いてくれてるのは識字率への配慮かね。
私の場合、漢字に該当する固有文字はまだ読めないのが多いので正直助かる。
魔獣を倒した場合には種別と数に対してポイント付与。
各種クエストの場合にはその内容に応じて支払いがされる。
個人のランクアップの場合には一ランクあたりランク難易度掛ける百。
パーティのランクが上がった場合には千。
何か重大な局面でそれに伴ってランクアップした時にはボーナスが付くけど最大でも二倍まで。
怪獣を倒した場合には一万にプラスで難易度補正が付くのか。
冒険報酬や遺物買取とかもあるみたいだけどこれは別記参照なんやね。
「これさ、アカリとかだとサメの空飛ぶ怪獣ポンポン倒してるけどあれってどうなるんよ」
「あれは群体だからね。一定領域から駆逐しきらないと加点されないよ。仮に群体じゃなくて分裂型怪獣だった場合にはコアを破壊した証明がいる」
なるほど、そうなると結構きつそうだわね。
討伐数で処理してくれる魔獣の方がまだましか。
それにしても分裂型怪獣だとコアがあるのか。
ファイブシスターズの場合だと多分リーシャの中に入ってる龍札あたりかな。
「それとさ、個人やパーティのランクってのはどうやれば上がるんよ?」
私がそういうとクラリスが少し考え込んでから口を開いた。
「本来であれば魔獣や怪獣討伐、クエストの達成数や達成率を鑑みてギルドマスターからの推薦後に昇格試験を受けて上がるね」
「結構手間がかかるんやね」
「本来はね。ただ、この都市だと試験用の施設がないから今はその方法は使えない」
試験用の施設か、そりゃ考えてなかったわね。
「だから略式試験を採用する。赤龍機構の許可もとってあるよ。君たち、スキル経由で現地の映像とかを遠くに流す仕組みがあるよね」
手土産に持たせた簡易版じゃない方かな。
「姉妹通信の方やね」
私の言葉にクラリスが小さく頷いた。
「当面は君の妹経由でドラティリア本国で状況を目視確認してそれに応じて昇格させる予定だよ」
「ふーん。だとすると誰か一人またドラティリアに送らんといかんのかな」
私がそういうとシャルがそっと口元を隠した。
「お姉さま、事後報告になりますが一つお話ししたいことが」
「なによ」
他に迷惑かけないで役に立ちそうなことなら先行で試してもいいとは言ったからね。
「今回幽子お姉さまがドラティリアに出向するにあたって姉妹通信の有効範囲の検証もしてもらいました」
「ほぉ、それでどないだったのよ」
「結論から言うと深度四以下の結界なら姉妹通信が通ります。それを超える怪獣が直接関わる場合ですとおそらく届かないでしょうね」
深度四か。
たしかに吉乃の時は最後までつながってたからそこら辺まではいけるのか。
「あっと、それでね。優」
シャルとの話に割り込むように幽子がもじもじとしながら上目遣いで私を見てきた。
なるほど、大体わかった。
「現地で出産したんか」
「してないよっ! ていうかあたしたちのことどう思ってるの!?」
「え? イチャイチャしてて一線超えてそうなカップル?」
「うぐっ、こ、超えてないから」
まだだったか。
「それで、何の話よ」
私がそうしきりなおすとため息をついた幽子が再び口を開いた。
「そのね……向こうの方で私に懐いてきた子がいて」
「うん」
「その子たちが妹になりたいって言ってきかなくてね」
「ほー」
妹になりたいか。
まぁ、多分に利得や損得勘定が先なんだろうけどそれはそれ。
私が突っ込んだ以外で入ってくるってのは何気に初めてだわね。
「それでね、使えたの。姉妹召喚リング」
ふむ。
「幽子のつけてるのをかしたんかね」
私がそういうと幽子が困ったようにシャルの方に視線を向けた。
「何かあった時に備えて幽子お姉さまには出立時に予備のリングを複数持って行ってもらいました」
ははぁ、シャルが共犯か。
「複数か。幽子、向こうで何人増やしたんよ」
なんか気まずいのか幽子は両手の人差し指をツンツンと合わせながら小さく答えた。
「七人」
「私の知らない妹かぁ」
「なにそのホラーっぽい言い回しっ! い、良い子たちだからね」
そこはどっちもでいいんだけどね。
この子たちの社会構造の変化が本格的に私の手を離れてきたんだなとはちょいと感じるけどね。
私がそんな感慨にふけっているとクラリスが小さく咳払いをして皆の注意を集めた。
「そういうこともあって今回の迷宮攻略はできればドラティリアの方にも見れるようにしてほしいんだ。そうすれば向こうで簡易試験方式として随時評点することで個人やパーティの昇格を判定することができからね」
「なるほど。私はそれでええよ。シャル、咲、リーシャ、アカリ、どないよ」
私がロマーニ会議のメンツにそう振ると全員が頷いたのが見えた。
「あ、でも私は協力者として龍札入れてるのでカード持ってないんですけど」
「そこはこっちで対処するよ。優ちゃんと同じ妹用の冒険者カードを配布する」
「なら問題ないですね。それとこのリストにはタレントのランク上昇に対する報酬が書いてないんですけど」
アカリがそういうとクラリスが小さく頷いた。
「以前は含めてたんだけど、それだと数でごまかすのが出てね」
「まぁ、やりますね。それで加点対象から外したんですか」
「うん。個別には加点されるけど総合評価からはね」
「どういうことよ」
私がアカリにそう聞くとアカリが微妙な表情をしながらこっちを向いた。
「冒険者のタレントっていうのは最初カードを作った時に適正に合わせて復習取得できます。カードの作成時にご祝儀的な意味で少しだけギルドポイントが入ってるのでそれで買うんです」
「ほう、タレントって買えるのか」
「ええ。そして売ることもできます。引退するときにギルドや後輩に譲るとかも結構あります。育てた複数のタレントを売って上位のタレントを買うというのもよくありますね」
「それとさっきの数でごまかすってどうつながるんよ」
「例えば戦闘系の片手剣は一万回相手と切り結べばランク上がるとします、今はどうなってるかわかりませんけどね」
「うん」
「それを多人数でやってぎりぎりのとこで止めて競技に出てる一人に譲ってランクを上げる。上がったタレントは持ってない人に譲ってまた次をもらう」
「それって意味あるのかな。同じタレントでしょ」
私がそういうとアカリが困った顔をした。
「ポイントにはなるんですよ。少なくとも昔はできました」
できたんかい。
視界の中でクラリスがいつものように肩をすくめたのが見えた。
「小賢しい方法ではあるけど修練には違いがなかったからね」
「ふーん、今はできなくなってるんやね」
「まぁ、いろいろあってね」
いろいろねぇ。
「まぁ、基準がハッキリしてるなら私はいいよ」
「なら開始は来週からということでパーティ編成を決めてくれるかな」
クラウドの言葉に頷いた私は全員を見渡しながらこう言った。
「私らとリーシャたちは今回は競争ということで出る。他にも出たい子がいたらパーティ組んで出るといいさね、ただし最低限ステファが大丈夫だというだけの力を持ってるメンツをパーティにそろえること、そうじゃないと危ないからね」
妹たちが頷く中で一人手を挙げた子がいた。
「お姉さま」
「ん、何かあったかね」
フィーがこういうとこで意見ってのは珍しいね。
「競争ではなく採取目的で行くのは問題ないでしょうか」
「あー、もともと育成迷宮ってそういうとこでもあるらしいしね。ええよ、私ら二つのパーティが切り開いた後をゆっくり探索するといいよ」
「ありがとうございます」
頭を下げたフィーリア。
「だけどフィー、一人じゃパーティにならんよ?」
「はい。この子たちと一緒に行くつもりです」
そういうフィーの左右には同じカヤノの制服を着た子達がいた。
「精一杯頑張るっすよ。そっすよね」
すっかりこの都市の生活にもなじんだ吉乃が力強くそういった。
スキル能力はともかく戦闘能力はどうなんやろね。
吉乃の言葉を受けてフィーの右手に居た子が小さく頷いた。
「いける、と思う」
見た目の大きさは吉乃と同じ十代前半。
緑にも黒にも見えるウェーブががかった長髪。
無造作にさらけ出した素足が眩しいマーメイドの妹の一人。
丸みを帯びた愛らしい顔にアクセントとして目立つ片目の上のアイパッチ。
元、地下闘技場のチャンプだったサニア。
ステファから聞いてる分には下手な駆け出し冒険者など比較にならん位には強いって話だけど。
何というか執念を感じるわな。
「前から聞こうと思ってたんだけどさ、サニアはさ」
「うん」
他の妹は空気読んで聞いてないんだろうけどさ、一応ね。
「親に会ってどうしたい?」
私がそういうとほほを赤らめたサニアが意を決したように口を開く。
「パパに抱っこしてほしい」
そんなサニアの言葉を聞いて眩しいものから目をそらすようにアカリが目をそらした。
ふーむ、やっぱ気になるんかね。
ふと、何とはなしにアカリがシャルに抱っこされている図を明瞭に思い浮かべてみた。
「ぶはっ!」
少し離れた位置で幽子が鼻から血を垂らしているのが見えた。
そんな幽子にハンカチを渡しながらじっとりとした視線を向けてきたクラリス。
「優ちゃん、今何を考えたんだい」
私は視線をそらしながらこう答えた。
「エッチなことではないよ」
そのままシャルに視線を向けた。
そんな私の瞳に写る銀髪紫眼の妹は優しい視線を妹たちに向けていた。