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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第五章 墓場迷宮編 少女は月に手を伸ばす
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はないちもんめ

「!?……ね、ねぇさん、どうしてそれをっ!」

「いや、ぶっちゃけ流れからくる勘でいったんだけど……マジか……」


 妹たち全員が凍り付く中、一番驚いた顔をしてるのがアカリだというのがね。


「トライだから正確には実子というよりはシャルの血を素材にして呼び出したトライってあたりか。シャルのことだから自分の血液とかも採取して研究してただろうから、それを横流ししたんかね」

「ああ、その通りだよ。本当、姉さんはどうしてそういうとこには勘が鋭いんだい」


 知らんがな。

 そうなるとメティスにとってはアカリは孫もどきか。


「つまり風の噂(ウィスパー)の創設者だったステファの父は赤の龍王からの依頼を受け横流ししたシャルの採血を素材にして青の龍王の手を借り『魔導(まどう)』のトライを作り上げた。その後、その子はシャルにぞっこんだったアガリアレプト家の隠し子として育てられ、敗戦後はカリス教に所属し風の噂の最後のボスであるハルチカの指示でシャルマー含む全員を抹殺しようとしたと」


 私の言葉だけが部屋に響く。


「あのさ、これ親子でどっちが生き残るか試されたんじゃないかね。赤の龍王に」

「「なっ!?」」


 口を開いたまま絶句したステファとアカリを見やりながら私は言葉を続ける。

 いやー、シャルの話でヤバいのが出たらまずいと思ってさ、記録取りなしのオフライン会議にしたんだけど正解だったわ。


「姉さんっ! いくら何でもそれはっ!」

「やらないと言い切れるかね」


 ぐっと言葉に詰まったステファ。


「私としちゃアルバートが赤の龍王本人なんじゃないかと今でも思ってるんだけどね。酔狂なくせに変なとこでドライ、計算高いようで適当、私が見積もる赤の龍王像まんまだもの」


 私がそういうとなぜか妹たちがじっと私の方を見つめてきた。


「なにかね」

「ねーちゃん、じぶんのこといってねーが?」


 まぁ、確かに似てるっちゃ似てるわな。

 そんでもってシャルがああなった理由が少しわかったわ。


「シャルの視点だときついわな。競争自体はどんとこいだろうけどさ、きっとどこかで思ってたんだろうね。赤の龍王は自分を見捨てたりしないって」


 そうでなきゃドラティリアに逃亡しようとは思わんわな。

 ソータ師匠が死んでたもの(こた)えたんだろうね。

 心身的には若返っても記憶を継いでるってことには変わりがないわけで、そういったもろもろの感情が本人も知覚しきれてない寂しさとなって出たのかもしれんね。


「だから姉妹の絵をかいて手慰(てなぐさ)みしてるのか、あの子は」


 静かになった部屋の中、リーシャが口を開いた。


「……シャルお姉ちゃんって寂しがりなんだね」


 その割には自分で好んで孤高になろうとするしね。


「いやー、多分原因の何割かは私なんだわ。クラリスと幽子(ゆうこ)がべたなラブラブモードだからさ、尚更意識したんちゃうかな」

「「「「「あー」」」」」


 しかし、どうしたもんだろうね。

 シャルの性格だといざとなったら自分を切り捨てて妹たちを守るのがはっきりしてるし。

 むしろそのために着々と準備してるふしもあるわな。


「あれやね。介護(かいご)受けてる老人が身の回りの整理始めてるみたいな感じだわね」

優姉(ゆうねえ)、それトライにしか通じませんからね」


 かもしれんわね。

 おっと、そういや賭けの話の後でシャルに言われたリーシャへの伝言があったんだっけか。


「リーシャ、今思い出したんだけどシャルから他にも伝言あったんだわ」

「むー、つい避けちゃったのは私が悪いけど直接いってくれればいいのに。どんな話?」

「幽子たちがドラティリアから戻ってきたら嫌って程、縁談持ち込まれるからその前に身を固めとけだってさ」

「へ? ど、どういう意味?」


 意味が理解できず呆然とするリーシャ。


「あー、乗っ取り防止ですね」

「確かにそれは必要かもしれないな」

「アイラも仕方ないと思うな。ドラティリア内にあった都市(ラルカンシェル)だよね、問題が起きたの」

「ええ」

「三人だけで分かってないでどういうことか教えてよっ!」



 本人を差し置いて話すアカリ、ステファ、アイラ相手に泡を食ったリーシャが食って掛かった。

 ステファたちが説明する内容を総合すると、女性の君主や領主の組織に男性の輿入れがなされた際に添付者として武官や技官、文官が付いてくることが結構あるそうなんだけど、以前、ロマーニが複数持っていたドラティリア内の飛び地としての都市において乗っ取りが起こったらしい。

 なんでも多少のどころではない数の領民も引き連れて輿入れしてきたそうで気が付いた時にはかなり手遅れになっていて、好き放題された後、受け入れた側の領民が不利益を受けたり君主が幽閉されたりといったことまで起こったそうだ。


「ロマーニって継承権については男女同列なんじゃなかったっけか」

「そうですよ。ただ、他の国はそうでもないことが多いんです」


 なるほどなぁ、常識がかみ合わんか。

 むしろロマーニ国の方が異端なんかもしれんわね。


「えっと……それで身を固めておけっていうのは、その……」


 赤くなったリーシャにアカリがちょっと困ったというか複雑な感情をたたえた表情で頷いて見せた。


「第三までの婚姻(こんいん)者を決めておけってことですね」

「だっ、第三っ! 三人も!?」


 それは私も驚きなんだけど。


「今更ですよ。リーシャ姉はこの都市(システィリア)の領主なんですから」

「で、で、でもっ、三人、しかも今決めろってことは()()()()()()()()よね?」

「しょうがないじゃないですか。大体、リーシャ姉だって()()()()()()()だったんだから主君が初期に婚姻するのは他都市とかからの干渉防止用に育てられた虎の子だってのはしってるでしょうに」

「う……そ、それはそう、なんだけど……」


 なんつう世知辛い婚姻制度なんだか。


「何で第三までなんよ」

「ロマーニだと第一は外交、第二が軍務、第三が内政を補助することが多いからね。前のロマーニの騎士団長は第二王妃様が務めていたよ」


 すごいな、ロマーニ。

 それって王妃であかんシチュエーションもあり得るんじゃないか。


「どちらにしろ怪獣災害(かいじゅうさいがい)で王や領主が死んだときに揉めないように、大体の国で第三位までの婚姻相手に臨時代行の義務と権利がついてたりします」

「普通だとそういう時に代行するのって家臣だと思うんだけど」

「龍王が認めてない代表者では都市の防衛機構(ガードシステム)がきちんと動作しません。レビィティリアみたいになりますよ」


 なるほど。


「ということでリーシャ姉、沙羅(さら)姉とかととりあえず婚姻結んでおくといいですよ。恋愛婚は後からでもできますから」

「うーー、なんか、ちょっと思ってた結婚と違うよぉー」


 まぁ、わかる気がする。


「リーシャちゃん、その、私でよければ」

「ぐすっ、ありがとう、沙羅ちゃん」


 半分涙目になったリーシャを沙羅が抱きしめつつ頭をなでた。


「後二人ですね。まぁ、ちゃちゃっと決めちゃった方が楽ですよ」


 ふーむ、アカリがなんかやさぐれてる感じがする。

 ひとつ前のやつで精神すり減りすぎたか。


「うん、だからアカリちゃん結婚して」

「え、あっ、はい……えっ? ちょ、ちょっと、ちょっと待ってください!」

「待たない。二人目はアカリちゃんで決定、いいよね沙羅ちゃん」

「私はいいですけど」

「いや、その……エ、エロいこととかしますよ、それでもいいんですか」

「いい、だから結婚して」

「あっ、はい」


 以前、レビィティリアではアカリが依存でダメになりそうだから結婚はしないと言ってた二人。

 恋愛も甘い駆け引きもなく決めてるけど良かったんかね、これで。


「そんでもって優お姉ちゃん」

「おっと、私はダメよ。(さき)がいるし」

「え……あ、うん。そうじゃなくてね」


 ははっ、まぁ、そうだわね。


「シャルおねーちゃん、負けたらなんでもするって言ってたんだよね」

「へ?……あ、うん、確かにそう言ってたね」

「だったら……私、シャルおねーちゃんからの勝負受ける」


 リーシャは左右にいる沙羅とアカリの手をつかんだ状態でこう宣言した。


「え、ちょ、ちょっと待ってっ! リーシャちゃん、それはすごくあの」


 あわあわする沙羅の手をぎゅっと握ったリーシャ。


「大丈夫、もし負けたら私もアカリちゃんも裸になって一緒にシャルおねーちゃんの絵の犠牲(ぎせい)になるから」

「そこでしれっと巻き込まないでくれませんかっ!」


 リーシャの横で再び目を剥いたアカリ。

 絵の犠牲って単語が斬新だわね。


「そんでもって私達が勝ったら」


 私の目をしっかりと見たリーシャが願いを口にした。


「シャルおねーちゃんに私達のお嫁さんになってもらうからっ!」


 それはリーシャが放ったやけっぱちの求婚だった。

 元ロマーニ王、竹取物語(たけとりものがたり)風にいうなら(みかど)への求婚って言ったほうが良いか。


「了解。ならさ……」


 そういうことなら私も全力で相手しないとだわね。


「私と月音はシャル側につくよ。それでもいいかね」

「うんっ!」


 かぐや姫と勝負してもらおうじゃないか、水の王女。


「沙羅とアカリもいいかね」

「がんばる」


 リーシャ、沙羅の視線を受けてアカリが口を開く。


「わかりました。やるからには絶対勝ちますからねっ!」


 そういって声を荒らげたアカリ。

 そんなアカリの隣でリーシャ達が淡く微笑んでいたのを本人だけが見ていなかった。

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