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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第五章 墓場迷宮編 少女は月に手を伸ばす
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魔導のトライ

「な、なんでも?」


 ガタっと立ち上がったアカリの口元からよだれが少し垂れたのを隣に座ったリーシャとリーシャを挟んでアカリの逆側に座っていた沙羅(さら)が呆れたような目で見つめていた。

 二人の視線に気が付いたアカリが慌ててよだれをハンカチで拭うと気まずそうに席に座る。


「アイラ、いつも思うんだけどアカリちゃんはもうちょっと欲望を隠したほうが良いと思うな」

「わ、わかっますよ。私だって」


 今日、領主の館(エチゴヤ)でリアルに行われているシスティリア会議には珍しくアイラとヤエ、それとステファも出席していた。

 通信上でなくてリアルなのは私からの指示だ。

 ちょっと思うとこがあってね。

 メンツはリーシャの選抜だけどアイラとヤエが揃ってるってことは食料関係の話があるのかね。


「アイラ、ククノチの方は大丈夫なのかね」


 今日のシフト的には(さき)やナオ、月音(つきね)も入ってるから配膳とかの方は問題ないだろうけど、心配なのは調理の方だわね。


「そっちは今日はサニアちゃん達に任せてきた。前処理とか仕込みは全部終わらせといたから多分大丈夫」

「ほー、アイラが任せられるほどになったんか」

「うん。サニアちゃんとかは初めから包丁さばきは上手だったし」


 あー、まぁ刃物違いだけどサニアは確かに使いこなしてたわな。

 しばらく前からなんだけどサニアを初めとしたマーメイド数人がアイラのとこで調理の技術を学んでいた。

 外に出たいって子が自分で料理できないんじゃ話にならないからね。

 マーメイドで親に会いたいって子たちには最低限生きてけるだけの技能を身に着けることを私が義務化したのさ。

 なので冒険者としての戦闘やサバイバル全般については主にステファ、料理についてはアイラ、座学はアカリが中心となって教え込んでる。


「アカリ、授業でエッチなことは教えてないよね」

「しませんよっ! 大体、私だって作業持ってる中で毎日一時間のレクチャーで社会情勢や常識教えるだけで手いっぱいです」

「お姉ちゃん、アカリちゃんが言ってるのは本当だよ」


 ここしばらくでどんどん拡張されてきたエチゴヤ本店なんだけど、その端っこに複数名が座って飲食できるテーブルと椅子が置かれていた。

 いわゆるイートインってやつだわね。

 アカリはそこに黒板を持ち込んでマーメイドの子を中心に座学を叩きこんでいた。

 それもあってか都市の子たちの基礎教養、特に外に出たい子たちの水準が目に見えて上がってると(さき)が言っていた。

 咲はああ見えて妹たちのことをよく観察してるからね、あの子が言うならそうなんだろうね。


「その日の出席者全員リーシャ姉のとこのダガシを出してますし、確認テストで成績優秀な子には褒美も出してるので結構みんな頑張ってますね」

「それ、リーシャが渡してる授業料で足りてるかね」

「トントンですね。なのでリーシャ姉、授業料増やしてほしいんですが」

「いいよ、後で細かい話しよ」


 ははっ、言うタイミングを狙ってたわね。


「私も横で聞いてるけどすごくためになるし」


 王宮付きの侍女として教育を受けたリーシャから見てもためになるか、そりゃすごいな。


「ほー、教え方のコツとかあるのかね」

「別にコツってのはないんですが……」


 アカリが少し黙り込んだのをリーシャと沙羅が見つめる。


「シャル姉の歴史に絡めてあの人が行った先の説明をする形でざっくり説明してます」

「アカリちゃんや、シャルが好きすぎるにもほどがないかね」

「ちっ、違いますよ。この世界の最近の革命には(おおよ)そあの人とエクスプローラーズが絡んでるんです。ですよね、ステファ姉」


 アカリから振られたステファは笑いながら返す。


「それはさすがに言いすぎだけど僕たちが深度三までならタレントと工夫で何とか出来るということを証明したのは確かかな」

「それとシャルか」

「ええ。あれ……優姉ってシャル姉もエクスプローラーズだったっての聞いたことないんでしたっけ」


 はて、記憶にないな。


「どっちだろ。つーかシャルもそのエクスなんちゃらか」

「エクスプローラーズだよ、姉さん」


 探検家ねぇ、シャルの場合は探究者か。

 王が冒険者やってたってのはどうなんだろね。

 そういうとこも含めて批判されてたんじゃないかね、あの子は。


「ボクとマリーはシャル姉さんの推薦であのパーティに入ったからね。ボクらが抜けた後、また新しくメンバーが入ってるはずだよ」

「ほー、再確認するけど冒険者のパーティなんよね」

「うん。あそこはリーダー以外は時期によって変わるからね。シャル姉さんが七期、ボクとマリーが八期メンバーだよ」


 どこのアイドルグループかって感じだわね、それ。


「リーダーは変わらんのか」

「そうだね。一時期だけ代役を立てたこともあるけど基本はリーダーのチームだから」

「前からちょっと思ってたんだけどさ、アルバートって人さ、人間かね?」


 私がダイレクトにステファに疑問をぶつけるとステファは口を噤んだままアカリの方を見やった。


「はぁ……優姉、こういう時に限って姉としての絶対命令とかは使わないんですね」

「まあね。ステファが言いにくいみたいだからアカリに聞くけどさ、実際のとこどうなのよ」


 私が視線を向けるとアカリの緑色の瞳(グリーンアイ)が揺れた。


「なんで私にそれを聞くんですかね」

「アカリなら知ってそうだなと思ったからよ」


 皆が黙った中で私は言葉を続ける。


「アカリは『魔導(まどう)』の龍札(たつふだ)を持つトライ(てんせいしゃ)で冒険者ギルドに札を預け、戦後はカリス教に身を置いた、これはあってるよね」

「ええ、まぁ」


 急に始まった私とアカリのやり取りをじっと見つめる妹たち。


「冒険者はやってたんかね?」

「やってないです。ちょいちょいパーティには参加してましたけど協力者の形ですね」


 そう、実利を優先するこの子がなぜ冒険者にはならなかったか。


「シャルにばれないようにするためかね、自分のことが」

「優姉って一番いやなとこにピンポイントで口挟んできますよね」

「そういう性分だからね」


 シャル、こと元シャルマー・ロマーニ七世はこの子、アカリの存在を妹転換するまでつかめていなかった。

 かなり早い段階で気にはなってたんだよね、そこの()()が。

 大体にして魔導の開祖(かいそ)はシャルだ。

 そして魔導の龍札が作られタレントに魔導が採用されていることはもちろん、レビィティリアの時に出てきた龍札名鑑(たつふだめいかん)でのチェックの時にアカリは何も言われなかった。

 つまり名鑑(めいかん)には『魔導(まどう)』が記載されてたってことだ。

 しかもアカリ自身は一般に知らしめられてなかったとはいえロマーニの貴族の末席にいたわけで、実在するものを隠すってのは相当難しいことだ。

 ここから一つ推察できる事実がある。


「一番気になるのがさ、ロマーニって国自体がシャルにアカリのことを隠してたってことなんだわ。王制の国家が組織ぐるみで王に隠し事するって普通じゃないよね」

「「「…………」」」


 ステファ、アイラ、そしてアカリが沈黙する中、私は言葉を続ける。


「トライって青の龍王の末裔の命を縮める存在よね。だから呼ぶにしてもいろんな人がいろんなことを言うのが普通で、多分私みたいなのは例外中の例外。そんでもってアカリは素性が公にされてないときてる。これってどうやって招来したのよ、アカリ」

「う、裏ルートから先代の青の龍王様が受けたんですよ」

「その裏ルートってさ、ぶっちゃけ龍王だったりせんかね。赤とか」


 私の言葉にアカリが唇をかみしめた。


「ま、待ってくれ。姉さん、何が言いたいんだい」

「エクスプローラーズのリーダー、アルバート・レッドキングだっけか」

「うそ、お姉ちゃんが人の名前間違えないでいってる!」


 リーシャ、そこいま言うとこじゃないからね。

 大体にしてレッドキングという名前からしてもうね。


「赤の龍王本人なんじゃないの?」


 私がそういうと少しの逡巡の後でステファが口を開いた。


「リーダーは超越の一人であって赤の龍王様ではないよ」


 ふーん、そういうことにしてるのか。

 どっちみち長命種自体は他にもいるんだろうし、そこらへんはいいんだけどさ。


「言いたくないなら黙っていてもいい。姉として今から五分間、虚偽の発言を禁止する。アカリ、裏ルートってのは赤の龍王からのことやね」

「はい」


 しぶしぶ答えたアカリ。

 そのまま私はステファに言葉をかける。


「ステファ、ステファはアカリの素上についてはどこまで知ってる?」


 私の問いにアカリの方をちらりと見たステファ。

 それに対してアカリが小さく首を縦に振った。


「アガリアレプト家の三男、魔導のトライで……カリス教の諜報機関、風の噂(ウィスパー)の一員だって宰相をしてた父から聞いた」

「そこな。なんでステファの親はそれを知ってたのさ」

「それは……」


 自分からは言えないか。


「宰相だったステファの父、たしかシャルの逃亡補助(ファイブシスターズ)を選抜したのもその人やね」


 私は一呼吸ためてから言葉を吐いた。


風の噂(ウィスパー)だったんだよね、その人も」


 多分だけどね。

 そのラインが一番筋が通るのさ。


「うっ、うそっ!」

「ロフォカルス様が? なんでっ!?」


 目を剥いたアイラとリーシャ。

 マリーやフィーリアがいたらどんな反応したんだろうね。

 目をつぶったステファリードが声をふり絞る。


「シャル姉さんの指示だよ。ルキ父さんがカリス教の前身、転輪(てんりん)の会に誘われたのはボクが三歳の時だ」


 お、おおう。

 それはさすがに読めなんだ。


「当時、王に忠誠を尽くしていたルキ父さんは声をかけられたことを当時のシャル姉さんに報告した。そして……あの組織に白の龍王様が関与していることを知ったシャル姉さんは相手の情報を得るためにあえてルキ父さんに()()()()()()()()言ったんだ」

「アイラ、ちょっと……そのついていけないんだけど」


 まてまて、だとすると。


「カリス教の風の噂(ウィスパー)ってさ、作ったのってもしかしてそう言うことかね」

「ああ、あの組織を作ったのはルキ父さんだよ。その際に月魔導(ムーンマジック)を使える女性を連絡員に使うようにアドバイスしたのはシャル姉さんだ」


 妹たちが混乱する中、私は今までの情報を全部さらいながら次の言葉を探す。

 今、ステファが言ってることは私の縛りで少なくともステファにとっての真実だと言い切れる。

 だが、結果としては旧ロマーニ国はカリス教に滅ぼされてるんだよね。

 自分を滅ぼすために手を尽くした、そんなわけはない。

 だけど、アカリの経歴の多くの分からなかった部分がこれですっきりする。

 国家宰相が初めからカリス教に深入りしてたんだからその伝手(つて)でどうとでもできるわな。

 わからないのはステファの父の片割れがなぜどういう経緯で赤の龍王からの指示を受けアカリの形成に手を貸した……あー……


「アカリってもしかしてシャルの実子(こども)なのか」

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