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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第二章 世界樹編 その幻想は茜色に染まっていた
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炎の料理人

 何故肌の色が緑色なのか。

 何故猫背で背を丸め耳がとがっているのか。

 何故寒い寒冷地でも上半身裸で乳首をさらしているのか。

 その理由を明瞭に答えられる人に私はとんとお目にかかったことがない。

 大体緑の肌色からしてごくごくまれな特殊な体質の人間以外には発生しないものでつまるところあえりえないものの具現化ということができる。

 遠い昔、欧州の御伽草子に出てきた悪戯好きで人に害なす妖精を基盤としたその悪逆たる種は人づてに伝わるにつれて変質を繰り返し、世に有名なファンタジー小説内にてついに確固たる地位を得ることとなった。


 その名はゴブリン。


『ねぇ、優』


 作品によってはエルフの零落や善良たる種が悪に身を落としたという展開も見るけど、私にはぴんとこないわけよ。

 それよりはよっぽど自分の理解できない異民族や蛮族、利害の相容れない相手、怪異の基礎たる未知や闇への恐怖を具象化して猥雑に悪の二足歩行として固めたという方がよっぽど理解しやすいわけだ。


『ねえってば』


 そして今。妹の能力でトンネルを掘りまくって目的の場所に到達した我々安藤探検隊が目にしたもの、それは


『いい加減に意識をもどして。あと、何、その探検隊って』

「よーわからんけど昔あったらしいわよ。川島探検隊とかいうやつが」

『そうなんだ。で、なんで現実逃避してるのよ』


 いやなぁ、たぶん百匹超えてるんだよな、ゴブ。

 私らが今いるのは広い空間を掘りぬいたと思われる広場っぽい場所の天井近く。

 下には焚火があり大量のゴブリンが何故か高い岩場からつるしたエルフっ子の下でやいのやいの言いつつ騒いでいるわけだゴブ。


『変な語尾を付けないで』

「それにさ、なんで吊るしてるのかめっちゃ気になるやん」

『それは……まぁ……というかあの子大丈夫なのかな』


 それな。

 めっちゃ縛られて吊るされてるあの子が、まだ生きてるのかどうかからして怪しいんだよ。


「シャル、まず何であいつらが吊ってるかなんだけど、見当つく?」


 私がそう話を振るとシャルが頷いた。


「奉納だと思われますわ」

「ああ、奉納か。ならしょうがない」

『え、なに。今ので通じたの? あたしさっぱりなんだけど』


 やれやれ、一から説明か。

 まぁ、アイラやフィーもわからんという顔してるからしゃーないか。


「秋に川で鮎が釣れるよね」

『あ、うん。魚の鮎だよね』

「そ、あれをね。神様に奉納するわけだよ、漁協のひとが」

『なんで』

「なんでってそりゃその先の豊漁とか安全とかの祈願とお礼を込めて」

『へぇ、そういうのもあるんだ』


 結構有名だけどね。

 そのまま私は吊るされているエルフの子を指さして。


「あれ鮎」

『エルフじゃん』

「だから見立てなんだって。もっとエルフが食べたいので取れますようにってあのゴブリン達は願掛けしてるのさ。こんなとこだよね、シャル」

「ええ、おおよそそうですわね。カリス教は認めませんがゴブリンが比較的高めの知性と文化継承を保有している証左です」


 つまりあれらは外道で屑なだけのただの人間の亜種というわけだ。

 私の思考につられるように幽子の顔が青くなった、幽霊の癖に器用だこと。


『じゃあさっき殺したのって人殺しということに』

「なりません。亜人は亜人です、人ではありません」


 ま、そうなるよな。

 まともにコミュニケーションが取れる相手ならシャル達が別な反応をしてるだろうさ。


「幽子、郷に入っては郷に従え。シャル達が害虫駆除扱いするなら私らもそれ従うのが筋なのよ」

『でも、でも……人なんでしょ』

「うんにゃ、ゴブリンだ」


 視線を幽子に合わせているふりをしながらシャルを視界内で観察していると一瞬だけあからさまな動揺をしてすぐに表情を戻すのが見えた。

 ふーん、何かあるのかもね。


「シャルがいなかったら私らはあれらに蹂躙されて殺されてる」

『分かってるけど』


 虐めで死んだ子にしては性格に擦れが足りない気もするけどこれがこの子の素なんだろうね。

 偵察の時に洞窟の奥の方で白骨死体いっぱい見たでしょうに。


「今は分かってればそれでいい。その上でだ幽子、私は妹を害する存在を許さない。わかるよね」

『うん。いやってほど。あと表に出さないけど結構根に持ってるでしょ』

「まあね。幽子。嫌悪感は消さなくてもいい。あいつらを駆逐してあのエルフを助けたい。だから力を貸して」

『いまさらでしょ、なんでそんなこと言い出すのよ』

「ちょっとね、ためしてみたいことがあるのよ。それには幽子とみんなの協力がどうしてもいる。もう一度言うよ、力を貸して、マイシスター」

『そういうときだけ真剣になるのってホントズルいよ、優』

「姉ってのはズルい生き物なのさ」











 広場の端の壁が崩れアイラがひょこっと顔をだした。


「やっほぉ~」


 浮かれていたゴブリン達の視線が集まったのが幽子越しにわかる。

 アイラも表情は笑っているけど汗をかいてるのが幽子の目には見てとれている。


『本当に成功するの?』


 勝算としては七割くらいかな。

 だめだったらアイラが死ぬ。

 その後、私らも後追いで死ぬしかないわね。


『最低……』


 私もそう思わんでもない。

 ただ、ここらで本格的にひっくり返さないと多分この先どうにもならん気がするのよ。

 (さき)の願いをかなえるためにも、この先、姉妹全員で生き残るためにもどうしてももう一段力がいる。

 だからここは分かったうえで無理を押し切る。


「幽子おねえちゃん、あいつらみてる、みてるよ」


 まだ駄目だね。

 シャルが空中浮遊を使ってエルフを救出するにしてももっと目を集める必要がある。

 やるよ、幽子、アイラ。


『わかったよ、もうっ!』


 幽子がアイラの中に入り込み憑依し支配する。

 その瞬間、アイラの視界と感覚が幽子を通じて私に共有された。













 幽子お姉ちゃんがアイラに入り込んだその瞬間にアイラの体が動かなくなった。

 正確には動かせなくなった。


「おー、やっぱできるか」

『できたのはいいけどこの後どうするのよ』

「あとは殺戮さね。でもま……前口上はしましょうか」


 そういってアイラ、今は優お姉ちゃんが使ってるから優お姉ちゃんでいいのかな。

 ゴブリン達に向かって微笑んでる。

 その時、アイラがぶら下げていた『勇者』の札が光ってアイラの姿が変わったの。

 赤いひらひらのお洋服に白いハートのエプロン、あと白い帽子にかわいらしい靴、二つ結いになった髪の毛がすっごく可愛い。

 えっと、お姉ちゃんの思考からだとあれってテラの女の子がお料理する時の正装みたい。

 すっごく汚れによわそう。


『いや、これたぶんアレよね。テレビで小さい女の子が出てたクッキング番組の衣装』

「イメージだからね」


 どこから取り出したのかお姉ちゃんは二本の包丁を持ってた。

 というかアイラあの包丁見覚えがあるんですけど。

 昔、アイラがアイラトだった時に王城でつかってた肉きり庖丁のゲイリーと出刃包丁のジャックだよ、あれ。


『料理用の包丁に物騒な名前つけないでよ』

「良いね」


 お姉ちゃんが包丁二本を斜め下に構えるとどっからともなく灯りがあたった。


『なのこのスポットライト! シャル、シャルなの? これ!』


 幽子お姉ちゃんがさわがしいけど優お姉ちゃんはどこ吹く風ってかんじ。

 ゴブリン達がすっごく雰囲気に押されてる。


「光あたらぬ地の底に」


 一歩前に。


「求むは美食の食材さがし」


 えっと、ゴブリンしかいないよ、お姉ちゃん。

 さっきも言ったけど、アイラはあれはちょっといやだな。

 ゆっくりと進んでいくお姉ちゃんについていく灯り、ゴブリン達が左右にわれてく。

 なんかよく分からないけど、意味不明だけどすごいよ、お姉ちゃん。


「あの日の笑顔の約束胸に、あの子に捧げる愛のご飯」


 え、うそ、それって誰かから聞いたの?

 アイラがそうおもった瞬間にお姉ちゃんはアイラの体でウィンクするとスカートをはためかせながらくるりと回った。


「炎の料理人、アイラ」


 包丁二本をゴブリンの方に突き出して。


「みんなをおいしく食べちゃうぞ」

『やめてマジで』


 アイラもやだな。









 切る、裂く、叩く。

 吹き飛ぶゴブリンの頭がこれで九十と。あと十ちょい。


 右から突っ込んでくる奴に包丁を投擲してさしつつ目の前のゴブリンの攻撃をかがんで躱す。

 そのまま股間を切り裂く形で足の間をすり抜け、正面にいたゴブリンの顔に蹴りを入れる。


「ぐぎゃ!」


 掴もうとしてきた別の奴の手を包丁で切り落としてからジャンプ、降りたとこにいるゴブリンの首をはねてから振り向きざまにさっき投擲した包丁の柄をつかんでそのままグルンと回転すると面白いようにゴブリン達が解体されていく。


 ふむ、やってみてわかったけど、たぶんポイントは料理のための下準備だと強く意識することだわ。

 そうすることによって料理人としてのアイラの技能に胸元で光っている私の札『勇者』が反応してわけのわからない身体能力を提供してくれてる。

 いやぁ、目的地に行く前に一回試してみようとは思ってたけどイケるねこれ。


『あんた、だめだったらどうする気だったのよ』

「そりゃ……死ぬだけだよ、幽子お姉ちゃん」

『そこでアイラの物まねいらんから』


 ふと見渡すと動いているゴブリンは消えていた。

 視線をエルフっ子の方に向けるとそこにはもう吊られたあの子はいなかった。

 よし、予定通りシャルが回収したわね、撤収しますか。


『優!』


 ひょいと体をかがめるとでかい棍棒が頭の上ギリギリをかすめていった。

 姿勢を立て直すと大きさ三メートルくらいのゴブリンがそこにすっくりと立ちすくみ、大きく雄たけびをあげていた。









 あれがホブゴブリンか。

 おいし……じゃなくて強そう。

 アイラまでなんかお姉ちゃんの考えに引っ張られてるよ。

 ぎりぎりのとこでかわしたお姉ちゃん、血にまみれたふりふりの衣装でなんかニヒルな笑みを浮かべてるの。


「おっとメインデッシュを忘れてたわ。さぁ、お料理するにゃん」

『キャラブレすぎ』


 アイラもそうおもうにゃん。

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