神銃
「ただいま」
「おかえり」
玄関口で待っていてくれた白髪赤目のロリっ子化した幽子に挨拶すると、私は久方ぶりの建物を見渡した。
エチゴヤ本店であると同時に元セーラの住んでいたこの家は大きく改装されたことから外から見た外装や中の間取りはがらりと変化していたが、建物が持っていたシックな佇まいはしばらくステファたちの家に引っ越していた間も変わってはいなかった。
「他の皆は?」
「居間で待ってる。あたしも向こうに行ってるよ」
「ういよ」
そういって幽子が二階への階段を上って行った。
「久しぶりなのです」
「月影、出ていいよ」
私と同じように周囲を見やる咲に、とりあえず持ち運び用に作られた猫のキャリーを開けた月音。
開いたキャリーから頭を半分覗かせた月影が顔を半分隠したままの状態で私を見上げた。
「今日からまたこっちの家よ。向こうの方がよかったかね、月影」
私の問いかけにタキシード柄の猫は答えるでもなく黙って家の中へと入っていった。
「まってー」
猫の後を追って月音も久方ぶりにこの建物の中へと入っていく。
そんな妹たちを苦笑しながら見つめていたピンクの髪に青い瞳の私の嫁でもある妹の咲が私を仰ぎ見る形で見上げた。
さっきの月影じゃないけどこうやって見上げられるのってわるくないよね。
「お姉ちゃん。その、大丈夫なのでしょうか」
「それってレオナかね。それともアカリ達の方かね」
「両方です」
咲が聞いてるのは人間関係も含めた大丈夫かだろうけど、なんともだわね。
「どうやろうね。レオナの方は今んとこ命には問題はないって話だけど」
「レオナちゃんいつ起きるんでしょうか」
「さぁねぇ」
シャル曰く、精神力、具体的にいうと活性状態のMPが激減したことから半幻想種であるドサンコとしての生命維持に問題が発生、それを補うために睡眠という形で回復しているんじゃないかとのことだった。
実際、MP濃度の高いシスティリアの影響もあってか少しづつは回復してるらしいのだけど、本格的に目を覚ますのには年単位でかかるかもしれないという話だ。
「吉乃ちゃん、思いつめてました」
「せやね。とはいえ私らがどうこう言っても納得せんとおもうよ、あれは」
「はいなのです」
吉乃から聞いたレオナの能力解放ってさ、見た目の詳細を聞いてみると私の妹融合っぽくもあるのよね。
もちろん違うとこもあってレオナが本格的な能力解放をする際には腰に下げてた例の銃を使ってパケット怪獣と特殊な融合をしてたらしい。
「契約怪獣との絆っていわれても私らには何とも言えんしね」
「それは……そうなのですが」
私は咲の頭をなでつつ靴を脱いで玄関口を上がった。
「今はそれよか待たせてるクラリスとの話が先さね」
「はい」
ともあれまずは会議からだわね。
一応、ネタは用意してきたけどクラリスが何というかだわね。
まぁ、なんとかなるでしょ、たぶん。
*
「優姉、遅いですよ」
「悪いね、出がけとかにちょっと手間取ってさ」
居間に入ると今だとエチゴヤで定着したリーシャの家にみんなが揃っていた。
ちらりと見た感じだけどリーシャもアカリも特に表情には出してないあたり、さすがというかなんというか。
王宮所属の元侍女とカリス教の特務機関、風の噂って経緯は伊達じゃないか。
これに沙羅が合わせるのはさすがに無理だわね。
さて、復習になるけどロマーニ会議の参加メンバーは私と咲、シャルにアカリ、そして現在唯一のシスロマーニ所属の都市であるシスティリア領主であるリーシャまでが原則参加で、他は必要に応じて追加で呼ばれるか本人の意思による自由参加の形となってる。
前回、リーシャがステファたちの立ち位置をシャルにきちんと確認したのもあって都市の防衛周りの話も通常状態の準備とか拡張であればシスティリア会議の方でされるようになった。
結界維持担当のエウと農業担当のヤエも都市側の所属で、取りまとめた結果をリーシャが一元管理する形だわね。
それと合わせてファイブシスターズの代表もリーシャに切り替わった。
リーシャ的にはステファにそのまま出てほしかったみたいなんだけどね。
王に忠節を尽くしてるイージスコンビは怪獣相手の国家単位での防衛とかの話じゃない限りはこっちに出る気はないっぽい。
会議以外での個人間では結構みんないろいろ話してるみたいだから私からとやかくいう必要はないしね。
というかどんだけみんなシャルの絵に描かれるのが嫌なのかよくわかる。
そして今回の会議には臨時として相変わらず少女化したままのクラリスと月音、それと机の上でのんびりと毛繕いをしている月影も参加している。
おっと、始まる前にアカリに修理のお願いをしておこう。
「アカリ、ちょっといいかね」
「なんですか」
私が近くによるとアカリが慣れてない猫が威嚇するみたいな表情になった。
「沙羅に聞いた。いやほんと悪かったね」
私が小さくアカリに言うとアカリの肩からふっと力が抜けた。
「いえ……まぁ言いたいことはありますけど……もういいです」
「そっか、そのうち埋め合わせするからさ」
私はアカリにそう小さく言った後でカバンから例の銃を取り出した。
「それとは別になんだけど、これ見てもらえんかね」
「なんですか……って神銃じゃないですかこれ。レオナのですか」
私が壊れたレオナの銃を見せるとアカリがあからさまにげっという顔をした。
「神獣? これ生きててるんかね」
「お姉さま、おそらく思われている文言と字が違いますわ」
私から預かった銃をアカリが確認してる間にシャルが私に説明を始めた。
「テラの他の単語でいうなら概念としてのゴッドとガンですわね。神の銃、そう書いて神銃と読むのです」
「ほー」
また変な当て字をしたもんだわね、ソータ師匠も。
「これ、大きく壊れてるように見えますけど、たぶん壊れてるのは外装と銃身だけで神銃としてのコア部分は無傷ですね」
「直せるかね」
「ええ、まぁ。ただ、私が解体しちゃっていいんですか」
アカリの瞳が私をとらえ、その中に映る私が大きく頷いた。
「吉乃とアトラからなのよ。頼んでいいかね」
「それは構いませんが……ついでにこいつのウィンダリアのコピーとってもいいですかね」
さらに重ねて聞いてきたアカリ。
はて、前にも聞いた気がするわね、その単語。
「よーわからんけど直す際に必要ならいいわよ。あと多分だけど欲しいんでしょ、コピー」
私の問いにアカリが小さく頷いた。
「今、私の手元にあるのって製塩浄水器に使われてたver3.1がそのまんま再現された奴なので新しいのが欲しかったんですよ。神銃に入ってる奴ならファイアーラット対策もされてるでしょうし」
アカリの横から興味深そうに神銃をのぞき込んでた幽子が口をはさんだ。
「なんか横で聞いてるとOSのバージョンの話みたい」
少し離れた位置に座っていたシャルが幽子の言葉に頷いた。
「実際モデルにしたのはテラのコンピュータにおけるオペレーティングシステムです。ver2.0はソータが招来されたときに傍に付随していたテラの機械に入っていたものです。後に小室教室でver3.1に改良され現在の魔導機の基礎部分となりました」
つーことは月の湯のいろんな魔導機にも使われてるってことか。
ソータ師匠がどこかで手に入れてきたなっちゃんと同じ謎の『ブラックボックス』なシステムが。
まぁ、今更か。
「責任は私がとるから大丈夫よ」
「なら修理の報酬にはこいつのコピー貰うってことで。あとで吉乃たちには優姉から伝えてください」
「おっけーよ」
私とアカリの話がまとまるとシャルが軽く咳払いをした。
「それでは、これよりロマーニ会議を開始いたします」