再びエチゴヤへ その2
少し前と比べて気温もぐっと下がり虫の音も少なくなってきた土手を三人で歩く。
キャリーを持った月音が先行する後を荷物を持った私と手をつないだ咲が歩く。
昼だからまだいいけど夜はさすがに肌寒くなってきている。
「すこし温度さがってきたね。リーシャたちにお願いしてそろそろ街の中のメンツにも冬着がいるかもしれんわね」
「たしかに寒くなってきたのですが……同じ都市なのにこんなにはっきりと寒くなるのってちょっと不思議なのです」
こっちの世界だと四季って感じのする季節変化ないらしいしね。
都市によっては同じ気候がずっと続くとこもあるらしい。
そうでない場合でも夏と冬だけ分かれててあとはあいまいな感じなんだろうね。
テラでも私が死ぬ頃には春と秋は結構あいまいになってた。
システィリアの場合だとシャルが観察してる環境の動きからみるにしっかりした四季があるっぽくて、今はちょうどそろそろ秋から冬に代わる時期みたいだわね。
そんなもんで町から出るとずっと雪の積もる冬場だからそのギャップに戸惑うんだけどさ。
少しだけ冷え気味の咲と手をつなぎながら歩いていると向かい側の方から沙羅とヤエが歓談しながら歩いてくるのが見えた。
二人とも背中に編まれた籠を背負っていて、その中には野菜が詰まっている。
育ててた野菜を収穫してきたっぽいね。
「お仕事お疲れ様、沙羅、ヤエ」
私は近づいてきた妹たちに声をかけた。
「お姉ちゃんたちは今お引越し中ですか?」
「まーね。おー、結構しっかり育ったね」
キャベツっぽい野菜だわね。
季節的には白菜は冬だからキャベツの方であってるのかな。
ナスやセロリっぽい野菜もみえる。
「まだまだだべ。土が全然弱いだ」
「やっぱり最初は難しいです」
褒めた私に対して首を横に振った二人。
食料生産と治水を担当してる二人としては納得してないっぽいね。
「まぁ、無理せんようにね。そういや二人とも、午後のロマーニ会議には参加せんのかね」
私がそういうと今度は二人が顔を見合わせた。
建前的には沙羅もヤエも都市の所属になっているので国家としての会議に出る義務はない。
ただ、私の直下の妹たちは気が向いたらどちらの会議に参加してもよいことにはなってて、今日は出席率がいまいちみたいだからとりあえずであったこの二人に声をかけてみた形だ。
「その……」
口ごもる沙羅。
「シャルねーちゃんに捕まったらきついべ。おらはあの絵に描かれんのやだで」
「……ヤエお姉ちゃん」
スパっと絵に描かれたくないと明言したヤエと隣で苦笑した沙羅。
「いや、まぁ、たしかにあの絵はどうかとは思うけどそこまで嫌がるほどかね」
私がそういうと沙羅が驚いたような顔をした後で困ったように口を開いた。
「お姉ちゃん、シャルおねーちゃんのことアカリちゃんに押し付けましたよね。絵のことで」
あー、確かに。
というか珍しく沙羅の言葉にトゲがある。
「うん。何かあったんかね」
「あったというか……その」
口ごもる沙羅をじっと横から見つめるヤエ。
「アカリちゃん、絵を見せてもらっていろいろ話し込んだ流れの勢いに任せてシャルお姉ちゃんに告白したんです」
「そうなのですか」
「「おー」」
目を丸くした咲にいつの間に近くに戻ってきていたのか傍にいた月音と私の驚きの声が重なった。
「それで、どうなったのですか」
お、珍しく食いつくね、咲。
「うん。それで、アカリちゃん、話の流れに乗せて「好きです」ってきちんと言えたらしいんですけど……」
あっ、これアカン流れだ。
「シャルお姉ちゃん「そこまで好いていてくれてるとは嬉しいですわ」って喜んでね」
「はい」
「それで、どうなったのっ?」
食いつき気味の咲と月音。
「とっておきの絵をプレゼントしてくれたらしいんです。アカリちゃんに」
「「「……………………」」」
沈黙が場を包む。
「あの絵ならオラ、ごはん減らしてでもいらんべな」
辛辣というかヤエがごはん減らしてもいいって言ってるの初めて聞いた気がする。
そこまでいやか。
つーかシャルがわかっててトボケてるのか、本気で分かってないのか私でもわからんわ。
「それで持ち帰ってきた絵なんですが……うごくんです」
「う、うごくっ?」
「えっと、魔法?」
疑問を口にした咲と月音に対して首を横に振った沙羅。
「ううん。そういうのじゃなくて角度とか光の具合で線がうごうごってうごくんです。なんか、そういう絵の作り方があるって聞きました」
あったねぇ、そういう技術。
たしかレンチキュラーだっけか、視点で動く奴。
レンズシートを張ってたような気がする。
つーかシャル、無駄に高度ないらんことしてからに。
あの絵でそれやられるとか、アカリにゃ悪いけどいかなくて正解だったわ。
「お姉ちゃん、あれわかっていたんですか?」
「いやー、さすがにそこまでは」
沙羅にちょっと睨まれるとかはじめだわ。
「それでリーシャちゃんが絵を見て泣き出しちゃて……夢の中で見たママを思い出すって」
「うへぇ、そりゃさすがに予想外の副作用だわ。マジでごめん、それその後どうなったんよ」
「最初は私が寝る時に一緒に居るようにしたんですけどそれでも駄目で水星詩歌が勝手に動いて絵が外を歩いたりして……」
沙羅が語る季節外れの夏の怪談は続く。
「そっちは幽子お姉ちゃんとクラリスさんが何とかしてくれたんですけどリーシャちゃんに落ち着いてもらうのにすごく苦労して……」
「うん。それでどうなったんよ」
「結局、私とアカリちゃんが毎晩リーシャちゃんと一緒に寝てます。アカリちゃんのベットで」
少しだけ頬を染め顛末を口にした沙羅。
「「「……」」」
沙羅もリーシャも十分にかわいい部類だから、普通ならアカリにとってのご褒美なんだろうけど状況が状況だけに茶化す気になれんわね。
「あの、それだと狭いのでは」
「あ、はい。それでこの前、アカリちゃんの部屋を両隣の私の部屋とリーシャちゃんの部屋を繋ぐ形で拡張して、ついでに三人で寝れるサイズのおっきなベット入れてもらいました」
「それ、作ったのマリーとステファかね」
「はい」
「いつの間に。というか結果だけ聞くとアカリが両手に花ともいえるんだけど何とも言えんわね、それ」
そういう私の言葉に沙羅が少しだけ苦みを含んだ淡い笑いを浮かべた
「アカリちゃん、表には出してませんけど結構傷ついてたみたいなんでほっとけなくて。それと私はリーシャちゃんもアカリちゃんも好きですから」
うーん、三人の相互重依存が悪化した気もする。
「そんなわけで……リーシャちゃんとアカリちゃんはロマーニ会議にはでますけど私はしばらくは出たくないです」
「それってシャルに対してのアレかね」
小さく頷いた沙羅。
「私、シャルお姉ちゃんのことも好きです。奇麗だしかっこいいですし。でもアカリちゃんを傷つけた今のシャルお姉ちゃんはあんまり好きじゃないです。私はアカリちゃん達と違って結構顔に出ちゃうので頭が冷えるまでは会議お休みしようと思います」
なかなかに大人な対応だけど、これもセーラの教育かな。
「わかった。無理に誘って悪かったね」
「いえ、それとお姉ちゃん」
「なにかね」
「シャルお姉ちゃんの絵、次はお姉ちゃんが自分で見に行ってください」
「あいよ」
さすがにこれは断れんわな。