再びエチゴヤへ その1
今日は私、咲、月音と月影がステファの家からエチゴヤに戻る日だ。
大きな荷物は来た時と同様にアカリの魔導機がすでに運送済みで、運ぶものといえば下着とかを入れたマリー手製の草で編まれたバック、それと月影を運ぶ猫用のキャリーだけだ。
今日は引っ越しもだけどそれが終わったらエチゴヤでロマーニ会議の予定が入っている。
ちょっと理由があってさ、ここ最近は通信上で行っていたロマーニ会議なんだけど今日はリアルのエチゴヤで行うことになってる。
そんでもって今日の私の服装は懐かしのオンミョウジルックスだ。
時間のある時にポケットの中とか確認してみたんだけど、最後の時の状態で固定されたっぽくて中に入ってたものもそのままになってた。
そしてステファの家から私等がいなくなるかわりと言っちゃなんだけど、私が昨日まで寝てたベットにはストロベリーブロンドのドサンコ、レオナが静かに寝息を立てていた。
「レオナ……」
静かにレオナの手を握る吉乃と傍でじっとを見つめる猫のアトラ。
その少し離れた位置から私たちとステファ、マリーが見つめていた。
「姉さん、この子たちのことはボクらが見るから」
「うん、任せた」
前回、妹たちの力も借りて助けた師匠のこちらでの弟子、私にとっての妹弟子でもあるレオナはいまだ寝たきりだ。
最初の頃は魔導で診察のできるシャルのところに預かってもらってたんだけど、何分シャルが忙しすぎて放置気味になってたことや、妹に転換した吉乃が一緒に暮らしたいと強く願い出てきたことから移動することにした。
とはいっても吉乃のスキルが安定しないうちだと問題が多いということで、クラリスとナオのスパルタ教育を一月ほど受けて無自覚にスキルを発動しないことが確認できた時点で引っ越しすることになった。
そん時に出てきたのがどこに移動するかという話だった。
ナオが二人とも引きとるとか言ってたけどククノチの一部屋に三人と猫一匹はさすがに無理がある。
そこで仕事に慣れた私達が元のエチゴヤ組の家に戻って、入れ替わりにレオナと吉乃、それとパケ猫のアトラがステファたちと一緒に暮らすことにしたのさ。
ステファたちなら何かあった時にも戦闘力という意味なら十分問題ないという判断もあるし、あの家なら休みのたびにステファが月影用のキャットウォークとか追加していたのでアトラ的にも問題ないだろうしね。
「月影、アトラが心配なら残ってもええんよ」
「……その……どうしますか、月影」
きりっとした視線で見上げてきたタキシード猫に対してむしろ月音の方が不安そうにしている。
そんな私たちの言葉にはお構いなしに月音が床に置いていた猫用のキャリーの前に移動してきた月影。
「いいの?」
何も言わない月影に促され月音がキャリーの入り口を開けると月影がその中にするりと入った。
「みゃぉぅ」
レオナの隣にいたアトラがどこかさみそうな声で鳴くと月影が小さくにゃっと鳴き返した。
いやー、ほんとこの子は本当かっこいいというかなんというか。
キャリーの中でも落ち着きを払った様子の月影。
アトラの方が寂しそうってのがもうね、複雑な猫の関係というか何を見せられてんだろうね、私らは。
おっと、月影もそうだけどこれについてももう一回確認しとくか。
私は大きな破損の見えるレオナが持っていた銃っぽい道具をバックから取り出して吉乃に見せた。
「吉乃、そんじゃコイツは預かってくけど、アカリが直せそうならそのままお願いするってことでいいんやね」
「お願いするっす」
レオナの手を離して私の方に頭を下げた吉乃。
それに合わせてアトラも小さく鳴いた。
そんな妹たちの様子を見ながら私はベットで眠るレオナに視線を戻した。
「レオナちゃんや、私もお前さんと話がしてみたいんよ。起きるまでにはこの預かった銃とかもなんとかしておくからさ」
私がそういうと妹たちの視線が再びレオナに集まった。
私達との遭遇の前、何があったかについては大体吉乃から聞いている。
吉乃によると外にあった兵士詰所から少し離れた位置、山の中腹より上に魔窟、シャルは育成迷宮って呼んでいたけどゲーム風にいうとこの特殊ダンジョンがあるらしい。
シャルも知らなかったそのダンジョン、作成者はソータ師匠だ。
正直、あの人のダンジョンとかクッソ性格悪い作りしてる予感しかしないんだけどさ。
細かい話はそのうちまたするとして、ポイントだけ絞って話すとレオナとその契約怪獣たち、この場合はパケ猫のアトラとパケ鼠のチューキチはそのダンジョンの攻略をしていたそうだ。
その目的なんだけどレオナが無理を言ってソータ師匠から引き継いだパケット怪獣『チューキチ』の状態回復に役に立ちそうなものが何か残ってないかさがしていたらしい。
そしてその魔窟でレオナたちは強い敵にぶち当たった。
ドサンコのレオナは通常はアトラの力を借りて戦ってたそうなんだけど、生きるか死ぬかの瀬戸際まで追い込まれたらしく、一か八かにかけてソータ師匠の封印のかかっていたチューキチの力を借りて戦うという博打に打って出た。
結果、なんとかダンジョンから脱出はできたもののレオナと特殊な融合をしていたチューキチの暴走をレオナ自身が制御できずに自滅、今度は分離したチューキチ相手に山の中腹で戦闘をするという泥仕合化した。
その後、疲労で気力の切れたレオナがチューキチに敗北、吹っ飛ばされた後に私たちの作った兵士詰所の近くの雪の中にアトラ共々埋没。
主の匂いと戦う相手を求めてチューキチが山をうろついたことから、ファイアーラットの異能に引っ張られる形で地域全体のMPが荒れ本格的に吹雪が定着したんじゃないかってのがシャルの見立てだ。
そして月影の案内で私やナオがレオナを発掘、チューキチと戦闘に入り最終的には吉乃に転換することとなったわけだ。
こうして連れ添いの妖怪と猫が見守る中、ストロベリーブロンドの眠り姫は今も静かに眠っている。
「ステファは今日のロマーニ会議には出んのかね」
「ボクは都市の所属だからね」
私はステファと目を合わせずに続けた。
「そういやこの前の会議の様子、シャルが絵にかいてたってアカリが言ってたっけか」
「……………………」
沈黙した妹の横で私はそっと肩をすくめた。