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シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第五章 墓場迷宮編 少女は月に手を伸ばす
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お姉さま強化計画

「さて、本日の議題なのですが」


 こほんとシャルが咳払いをした後で私の方を見た。


「お姉さまの強化計画についてです」

『ふえっ!? えっ? なに、優のことついに改造するの?』


 ついにとかいうなし。

 幽子(ゆうこ)がシャルのこと日頃どう見てるかわかるわね。


「改造したいのはやまやまですがお姉さまはトライです。しかも四文字の龍札(たつふだ)となるとガードも固く身体の方のMP(ムーンピース)に手を入れるのも至難でしょう」


 前言撤回、改造する気満々だったみたいね。


「ちょいまち。そもそもなんで私の強化って話になってるんよ」


 私の問いかけに口元から手を下げたシャルが紫の瞳で直視しながら続ける。


「ご自覚ありませんか。お姉さまは毎度何か起こるたびに死にかけています」

「あー、まーそれはね」


 好きでそうしてるわけでもないんだけどね。


『オレからシャルねーちゃんに頼んだんだよ』


 私の反対側近くのプレートからナオの声が聞こえた。


「おおぅ、この話の出所はナオからか。そんなに危ないかね、私は」

『あぶねーっつーかよえーな。その癖なんだかんだ言っても前線に引っ張り出されちまうもんだからどーしようもねー。オレ達と融合してる時ならそうそう負けることもねーだろうけどよ』

「まぁそれはね。でもさ、私の龍札自体は街に預けてるわけだし最初の頃よりはましだと思うんだけど。今だとエウのとこで保管されてるわけだし」


 そう、セーラとの一件があって進化した私の妹融合バージョン二では、ついにその場に龍札がなくても妹との融合が可能になった。

 元の妹融合というよりは神技(じんぎ)の『表裏一体(ひょうりいったい)』に近くなった感じだわね。

 それもあって私の龍札の安全、この場合は今のこの奇積(きせき)の積み重ねである社会基盤の前提となってる私のスキルの保全も考えて少し前から私の龍札は霊樹のエウに守ってもらっている。

 そんなわけでこの町の基盤となる宝貝(パオペエ)夢幻武都(むげんぶと)の本体が収められてるシールドに私の龍札も一緒にいれてある。

 もし万が一、シールドを突破されたときには目も当たられないわけだけど、そんときゃそんときだわね。

 私らが今できる範囲ではこれが精いっぱいなわけだ。

 それとエウが再現したシールドに入ってる私の龍札を見てちょいと思いついたことがあってさ、エウとシャルにちょっとした依頼を出したんよ。

 そっちは成功するかどうかは微妙なとこだけどね。


「今、皆で会話してるこの姉妹通信(シスターサイン)もお姉さまの龍札と幽子お姉さまとの間の共感覚が土台ですから当然の処理ですわね。やっていることは赤龍機構(せきりゅうきこう)龍札保管庫(ストレージ)とさして変わりません」


 シャルはさらりといったけど、細かいとこでは結構難しいことしてそうだよね。

 ということで最悪、私が死んでも妹たちが幻のように消える可能性は以前よりはぐっと減った。

 とはいえだ。


(さき)やかわいい妹達を残してさっさとくたばる気もないわけでさ、死なないために努力はしてるわけなんだけどね。一応、ステファに簡単な訓練はつけてもらってるし」


 前回の戦いでは本当に参った。

 完全に想定外のタイミングで戦闘が始まったのもあって一気に追い詰められた。

 ナオと月影(つきかげ)がいなかったら間違いなく詰んでたと思う。

 まぁ、月影については原因の一端でもあるんだけど、多分あの子なりに何か理由はあるんでしょ。


「ステファリード、お姉さまの訓練の状態はどうですか」

「そうだね。素直に言ってしまうと並以下かな」

「ははっ。やっぱそうだよなぁ」


 ぶっちゃけ元々私は身体能力は高い方ではない。

 その上、ドナーとなったシャルも強化魔導でマッスルするというスタイルだった事からもわかるように土台が強いわけじゃないんだな。


『いつも無事に帰ってきてくれるか心配なのですよ』

「ごめんよ」


 ククノチから通信参加してる咲のボヤキに謝りはしたものの、今後妹が絡んだ場合に自重できるかというと正直まったくもって自信がない。


「今後もお姉さまは何かにつけて前線に出るでしょう。どんなに止めても本人が意思を固めてしまった場合には私たちには止めることができません」


 よく見てること。

 それに私には妹への絶対命令がある。

 本当に必要となったら止まんないだろうとシャルは言ってるわけで多分それは正しいわな。


「そこでです。お姉さまには魔導(まどう)で強化した装備を身に着けてもらうことで負傷のリスクを下げる方向を検討したいと思います」

「おー、ファンタジーお約束の超防具か」


 いいね、ちょっとワクワクするかも。


「つきましては私なりに素案を絵にかいてまいりました」


 珍しくそわそわした感じを醸し出したシャルが横からプレートのようなものを取り出した。

 これは絵をかいて取り込んだのかな。


「ちょ、ちょっと待ってくれ、シャルねーさんっ!」

「おねーちゃん、その絵ちょっと待ってっ!」

『アイラも今はどうかと』


 慌てるファイブシスターズ。


『大丈夫、王様の絵は子供を泣かすほどの出来だから』

「えっとね、ちょっと黙ろうか。フィーちゃん」


 相変わらず空気が読めてないっぽいフィーを言葉で威圧したマリー。

 つーかフィーのコメントで大体わかった。

 ほかの妹たちがあっけにとられる中、ファイブシスターズの制止もむなしく絵が書かれたプレートを堂々と公開したシャル。

 そこにはコズミックホラーまっしぐらな謎の物体が描かれていた。


『ふえっ!?』

「これが私の考えたお姉さまの強化案の一つ。魔導甲冑(まどうかっちゅう)による全身防御です」

『こえーよっ! なんだよこの魔物はっ!』


 驚く幽子に間髪をいれずに入ったナオの突っ込み。

 全身甲冑というか触手と棘のついた真っ黒い謎物体の上部に目が光ってるように見えるんだけど。


「これ、移動できるんかね」

「歩行は無理ですわね。足の裏についたローラーで滑って前進する仕様です」


 コズミックホラーが滑ってくるのか。


『やめてやれよっ! いくら心臓に毛が生えてるねーちゃんでも妹がちびったら傷つくっつーの』


 その前にこの謎物体を着る前提なのはどうにかならんものかね。


「ねぇ、ステファ」

「なんだい、姉さん」


 いや聞くまでもないんだけどね。


「シャルの絵ってさ」


 珍しく視線をそらしたステファ。


「アバンギャルドということで有名だったんだ、姉さんの絵は」


 物は言いようだわね。


『いや、あれただの画伯だよねっ!?』

「元のロマーニの宰相閣下が素行に問題のある者には姉さんの絵のモデルになってもらうと告知したことがあってね。一気に城内が引き締まったんだ」

『罰ゲーム化してるっ!?』


 そんな中、言いたい放題の妹達を見やりつつシャルがため息をついたのが見えた。


「やはり、今どきの若い子にはこのセンスがわかりませんか」


 老齢でもわからんと思うわよ、それ。

 つーか絵のモデルから絶対逃げたよね、ソータ師匠とか。


「お姉さま、少しよろしいですか」

「なによ」

「実はこのほかにも何枚か書いてまして寝室に置いてありますの。お時間があれば来ていただいて詳細を説明しようかと思うのですが」

「あー、うん。そのうちね」


 シャルの部屋、マッドな器具だけじゃなくてコズミックホラーが増えてるのか。

 よしっ、ここは権利を譲ろう。


「アカリ、代わりに見といて」

「えっ!? ちょ、ちょっとまってくだ……」

「シャルの寝室だってさ」

「うぐっ!」


 さて、アカリはどっちを選ぶのかね。


『優ってさ、ほんとそういうとこひどいよね』


 せやね。

 そんなこともあってその日はそれ以上議論が進まず散会となった。

 それと私の強化案は参加者全員が持ち帰って練り直しということになった。


 シャルの絵は……見なかったことにしよう。

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