姉妹会議と切断
本日よりシスタークエスト、新章再開します。
またお楽しみいただければ幸いです。
今日は定例の姉妹会議の日。
新しい機能を試すということで前もって休みをもらっていた私は、ステファやマリーと一緒にテーブルに座っていた。
「そろそろだね、ねーさん」
「せやね。それじゃ試してみますか」
今日は会議以外の予定を入れてない私、ステファ、そしてマリーが指につけた姉妹召喚リングを軽くなでると中空にメニューが浮かんだ。
月魔導経由で意識だけでも操作可能なんだけど今日は新しい機能が実装されたって話だから念のため普通の使い方での起動だ。
そんでもって表示されるメニューには姉妹通信やら録画や録音、配信機能、掲示板など雑多に拡張された機能がずらっと並んでいる。
これは姉妹の要望にこたえる形でアカリが機能拡張した結果こうなった感じで、そろそろ機能の絞り込みやカスタマイズも実装するって話だ。
こうやって見るとなんというか試作中の老人向け簡単情報端末いじってるみたいな気分やね。
そんなことを考えながらメニューを下げていくと一番下に『姉妹会議』の項目とアップデートされた旨の表示があった。
「そんじゃ始めようか」
「ああ」
「うん、準備できてるよ」
私達が同時に項目を選択すると周囲の風景がばらけるように崩れ周囲が次第に白く染まっていく。
すべてが消えるかと思いきや今度はものすごい速度で新しい風景が組みあがっていく。
木造のステファの家のリビングから上層の皆でいつも会議を行う神殿の部屋に切り替わるとそこには私達より先に入っていたシャルやリーシャ、アカリなどのメンツが座っていた。
顔の見えるメンツ以外にも複数の席の位置に黒いモノリスっぽい石柱がセットされていてその表面にはこちらの文字で「音声のみ」という表示がされていた。
「ほぉ、すごいね。これ、転送ではないのね?」
「ええ。土台になってるのは深度四魔導のアナザーデイです。お姉さまたちがセーラに出会った時のといえばわかりますわね」
「ああ、あれか」
今回から姉妹会議の方はこの仮想空間での対話に切り替えとなり、都市の領主が招へいする開発関係の話題はリーシャが主催する都市開発や運営に関わる関係者を集める会議へと移行した。
話がとっ散らかる傾向があったからね、都市に関することと国に関することを分断したわけだ。
現時点だとこっちの姉妹会議の方をロマーニ会議、リーシャが主催の方をシスティリア会議と呼ぶことにしてる。
まぁ、リーシャの方の会議も最初から全部丸投げとはいかんだろうから、しばらくは私はそっちの方にも付き合うことにはなってるんだけどね。
「結局、アカリはどっちにも出ることになるわけね」
「まぁ……いまんとこは仕方ないです。できればそろそろ他の魔導士の補助がほしいとこではあるんですが」
そういって肩をすくめるアカリをシャルが優しい目で見つめた。
「しばらくは厳しいでしょうね。冒険者ギルドを開くにも取りまとめるための人員がいません。最低でも赤龍機構が認めた人物か上位クラスの冒険者が一人は必要です」
「それってクラリスとかには頼めんかな。結構なし崩しでまきこんじゃってるしさ」
「さすがにそれは厳しいのではないでしょうか」
「んじゃさ、ステファたちじゃダメなん?」
「ステファやマリーには必要に応じて前線に戻ってもらう必要があります」
シャルがそういうとステファが頷いた。
「そのためのボクたちだからね」
「えっとその事なんだけど……」
黙って話を聞いていたリーシャが口を開いた。
「ステファお姉ちゃんたちって所属は国の方でいいのかな」
リーシャの問いにシャルが首を振った。
「いえ。ステファリードたちは建前的には都市の守護騎士という位置づけにしてあります。現状、シス・ロマーニ国としては専有の防衛力は私とお姉さま以外は保有してない形ですわね」
「それってあれかね。どっかの誰かに後から権利よこせとか言われたりした時用の対策かね?」
「ええ。ロマーニはドラティリア連邦内にも飛び地があります。そちらの領主がどう出てくるか不明ですので」
「つーてもさ、今だと公爵になってるリーシャに文句言うって難しくないかね」
私がそう話を振るとシャルが口元を隠した状態でリーシャの方をみた。
「私なら縁談の申し入れをしますわね。リーシャは平民出身ですが見目も悪くなく未婚です」
「え……え、縁談!?」
急にそわそわしだしたリーシャ。
この子、恋愛願望強いからなぁ。
その隣で半眼になったアカリが珍しくシャルを睨んだ。
「シャル姉」
「なんでしょう」
「自分が申し込まれるのが嫌でリーシャ姉に押しつけてませんか」
「そんなことはありませんわよ」
そんなシャルだけどアカリを見つめる視線が揺れたとこを見るに多分少しは考えてたんだな。
「大体、リーシャ姉はファイブシスターズだからそう簡単にはいきませんよ」
アカリがそういうと横に座っていたリーシャがうなだれた。
「そう……だよね……やっぱり私には結婚なんて……」
『だ、大丈夫、大丈夫だから』
アカリとは反対側のプレートから音声参加していた沙羅の声が聞こた。
「いいもん。きっと他の子が結婚するのをお祝いしつつ私はずっとこのまんまなんだ」
『大丈夫、大丈夫だから』
「え……えっとですね。その……」
必死にフォローする沙羅に自分で振った話で傷ついたリーシャにかける言葉が見つからずおろおろするアカリ。
いやはや、出だしはシャルだけどこれはなんか長引きそうな感じだわね。
『いざとなったらアカリちゃんに責任取ってもらえばいいから』
「ちょっ! なんですか、その責任ってっ!」
慌てた様子でリーシャの向こう側のプレートにかみついたアカリに上目遣いのリーシャが視線を絡めた。
「えー、アカリちゃんエッチだしなぁ」
「そこかよっ!」
突っ込みに疲れてぐんにょりと伸びたアカリの肩を誰かが叩いた。
「どーせ月影でしょう、わかってるんですからね」
「さすがはアカリじゃな」
ふいに掛けられた声にびっくりしたアカリが振り返るとそこには顔の前に両手で持ち上げた月影をアカリの方に向けたククノチの制服姿の月音の姿があった。
猫としては珍しく相手を直視する癖を持ってる月影がおとなしく持ち上げられつつアカリをじっと見つめていた。
そんな一人と一匹を見て沈黙したアカリ。
『あ、てめぇー、さっきから見えないと思ったら何油売ってやがる。さっさと戻りやがれ』
「はーい」
プレートから聞こえたナオの説教に月音がちらりと舌を出した。
「じゃぁ頑張ってね、アカリおねーちゃん」
「なにをだよっ!?」
テンパるアカリの前で再び顔の前に月影を持ち上げた月音が低めの声音で猫アテレコをする。
「何事もなるようにしかならんわい。明鏡止水を忘れるなかれじゃ」
なんなのよ、その謎のキャラ付け。
『おい、月音。さっさと戻れ』
「はーい、またねー」
そのまま金色の光を伴って猫とともに月音が消えた。
なお一層ぐったりしたアカリ。
「アカリちゃんや」
「なんですか」
「この仮想会議ってさ、猫も入れるん?」
少しの間の後でアカリの声が聞こえた。
「そんな機能、実装してません」
だよなぁ。
「興味深いですわね」
皆が沈黙する中で聞こえたシャルの声。
ぐったりしたアカリの頭をリーシャが静かになでてるのが見えた。
なんとも複雑だわね、この子らの関係は。
「あっ……」
ふいにアカリが一瞬だけ驚いた表情を見せた後、再び普通の表情に戻った。
「どしたのよ」
「いえ、いま赤龍機構の龍札保管庫が一時閉鎖されたみたいです。龍札との接続が切れた感触がありました」
「ほぉ、そういうこともあるんか」
「たまにありますね。あっても年に数回程度ですけど」
「そうなんか。龍札との接続切れても大丈夫なのかね」
私含む複数の姉妹が心配そうに見つめる中、アカリは特に感慨もなさそうな様子で言葉を続ける。
「短い時間ですからね、特に不調も出ません」
「んじゃさ、その閉鎖ってどんな時に来るのよ」
「赤龍機構が厄介な怪獣と戦ってる時です」
おっと即答してきたね。
「デメリットは?」
「私らトライで赤龍機構に龍札を預けてる人は龍札保管庫閉鎖中はスキルが使えません」
他にもステファが軽く手を挙げた。
「冒険者のタレントも使えなくなるね。だから冒険者はタレントなしでも最低限のサバイバルができることが要求されるんだよ」
「なるほどねぇ、急に使えなくなるって危なくないかね」
「もちろん危ない。だから冒険者に戦闘から離脱するように一斉通達が来るし、大体長くても十分くらいで閉鎖は解除される」
「なるほど。それで損害とか出たときはどうするんよ?」
「冒険者ギルドが全面補償するよ。死んだ場合には遺族にも補償がでる」
そんだけ厄介な相手だってことか。
そして今、アカリが普通に動けてるって事実がもう一つ重要なことを教えてくれるんだけど、それは今言わなくてもいいか。
この分ならシスティリアに私の龍札を預けきっちゃってもよさそうやね。