表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
シスタークエスト レベルは上がりませんが妹は増えます  作者: 幻月さくや
第四章 姉妹都市編 おかえりなさい
101/170

妹の後悔 ステファリード・アンドゥ・シス・ロマーニ編

 雪原での戦いから一月、ボクはアカリに呼び出されてククノチに来ていた。

 アカリの方からの飲みの誘いとか珍しいね。

 まぁ、飲みたくなるときは確かにある。


「アイラ、ボクとアカリに一杯お願いできるかな」

「いいけど、いまだと果実酒かビールしか在庫ないよ?」

「それでいいよね、アカリ」

「ぶっちゃけ酔えれば何でもいいです」


 そういってやってられないといった感じで遠くを見つめるボクの妹のアカリ。

 銀髪緑眼、背は低めで胸は大きくお腹はきっちり締まり腰は大きめ、ひいき目なしで美人だと思う。

 しばらくしてからナオが二人分のジョッキを持ってきてくれた。


「おねーちゃん、おまちどーさま。はい、どーぞっ」


 そういってナオは可愛い仕草でボクとアカリの前にアルコールを置いてくれた。


「おい、アカリ。今日は月の湯の夜勤がねーのは分かってるけど飲みすぎんなよ」

「わかってますよ。というかー、ナオ姉は私には妹ロールのサービスしてくれないんですね」

「今更だろ。お前オレの妹だし。それとも……」


 ジョッキを持ったナオが笑顔のままアカリの傍に寄った。


「お口にいれてあげる? アカリちゃん」

「げっ……すいませんでした」

「わかりゃいいんだよ、ステねーちゃん。こいつ飲みすぎっからほどほどにな」

「わかった」

「そんじゃ、乾杯しましょう」

「うん、じゃっ、今日はアカリとこうして飲めることに感謝して」


 ボクはマリーにいつもしてるようにアカリの顎を掴んで瞳を覗き込んだ。


「君の瞳に乾杯」


 ウィンクしたボクに対して半眼のアカリがぼやく。


「いや、私に色目使われても」

「可愛い妹との飲みで加減はできないさ」

「あんたも大概にずれてんな、ステファ姉」

「そうかな」


 ひとしきりのやり取りの後でナオが持ってきてくれたウマウナギの燻製肉をつまみに二人で酒を飲む。

 今日はアカリからの呼び出しということで溜まってるものもあるだろうから好きなだけ愚痴を言わせつつ内容はきちんと聞いたうえで相槌を打つ。

 こういう時の情報が何時役に立つかわからないと教えてくれたのは宰相をやってた方の父だ。


「ったく、どいつもこいつも私のことなんだと思ってるんですかね。雑用に使って道具作らせて、ボケたら全部私が突っ込み切れると思ったら大間違いなんですからね」


 そういってぷりぷりと怒りつつ酒を飲むアカリがはた目から見ててもかわいらしくてつい笑みがこぼれる。


「ちょっと、聞いてるんですか、ステファ姉。なに笑ってるんですか」

「いや、大変だね。それとアカリが可愛くてさ」

「ちょっ、なっ、なにいってるんですかっ。というかステファ姉はそうやって見境なく妹を口説くのやめた方がいいですよ?」

「口説く? ボクは本当のことを言ってるだけだけどな。この都市の子たちはほんとかわいらしい子が多いよ」


 ボクが本心を口にするとアカリが嫌なものを見たといった感じの瞳で睨みつけた。


「本気で言ってんのかあんた。やっべーなー、元男同士ならもうちょっと分かりあえるかと思ったんですが」


 そういうアカリに今度はボクが苦笑する。


「アカリ、君は……」


 声を小さくしてアカリの耳元に口を近づける。


「元『風の噂(ウィスパー)』だろう? ならボクの経歴も知ってると思うのだけど」


 アカリの体がビクンと跳ねあがり大きな胸が体の動きに合わせて揺れた。


「なんの、ことでしょう?」


 ぎこちない笑みを浮かべるアカリをそっと傍によせ、いつも皆の愛らしさを近くで囁いているのと同じ態勢で耳に口を近づける。


「ボクの両親を知ってるよね」

「はい」

「なら簡単だ。ボクは両親のどちらの仕事でもつけるように追加の教育も受けてた。情報収集もその一環だよ」

「いやいやいやいや、両方は無理でしょ。曲がりなりにも一国の宰相と将軍ですよ? いくらステファ姉が優秀だって言っても毛色が違いすぎます」


 うん、やっぱり知ってるよね。

 さすがは風の噂の中でもトップクラスの能力といわれただけある。

 公には公表されてないアガリアレプト家の三男。

 二十二年前、裏ルートを通じて依頼を受けた先代青の龍王様が召喚した『魔導』のトライ。

 この情報は宰相だった方の父から秘密裏に知らされたもので他人には知らせないようにと厳重に注意されていた。

 王であった当時のシャル姉さんにもね。

 姉さんの指示でボクからシャル姉さんに伝えたのはついこの前の話だ。


「将軍が事務ができなかったら問題だろう。宰相だった方の父も魔導士だったしね」


 ボクがそういうと一瞬困った顔をしたアカリがボクの傍から逃げようとした。

 それをボクが腰に手を回す形で逃がさない。


「どちらにせよ今の君はボクのかわいい妹だ。頼りにしてるよ、アカリ」


 そのままアカリの耳にそっとキスをするとアカリがふにゃっという叫びをあげた。

 腰の力が抜けたアカリを椅子に座らせるとボクは自分の元の場所に戻る。

 ふと、周囲を見やると夜の席で歓談していた妹たちのうち一定数がボクたちの方を見ていた。


「みんな可愛いね」


 ボクが皆にそういいながら愛想を振りまく。

 瞬間、ボクの頭をお盆がポンとたたいた。


「おいっ、ステねーちゃん。ここはそういう店じゃねーぞ。そういうことは宿借りて上の部屋でやれ」

「ははっ、すまない」


 今のワンアクション、ボクは()()()()()()()()

 冷や汗が流れるのを表情に出さないようにしながら笑顔で何とか切り返す。

 可愛い姿と性格をしたカリス教由来の妹たち。

 敵にすると心底恐ろしいけど、味方であるならこれほど心強いものもない。


「それでどうする? アカリ、混み入った話をするなら上の部屋借りても良いけど」

「こ、断るっ! あんたと個室に行ったとかバレた日にはリーシャ姉や沙羅姉に首絞められますっ!」


 そこでリーシャ達の名前が出るんだね。


「そうか。じゃぁ、ここで続けようか。ああ、さっきの話は他にする気はないよ」

「優姉と融合したらバレますよね」

「したらね。でもしばらくはないんじゃないかな。ボクとしてはそうなる前に自分から姉さんたちには打ち明けてほしいかな」

「善処します」


 酔いが醒めたのかアカリは両手でジョッキを持つとさっきとは打って変わってちょびちょびと飲み始めた。


「このド天然スケコマシ。いちいち言い回しや動きがわざとらしいのに様になってるのがちょーむかつく」

「それはすまなかったね」


 二人でしばし酒を飲む。


「ところでアカリは何時になったらシャル姉さんに告白するんだい」


 ブッ


「ちょっ」


 アカリが飲んでいた酒を吹いてしまったのでそっと近くによってマリーが縫ってくれたハンカチでアカリの口元を吹いた。


「いや、だから……はぁ、もういいです」


 うなだれたアカリ。


「しかもソレ、マリー姉の手作りですよね」


 そっと頭を上げてボクの手元のハンカチを見る。


「可愛いだろ。マリーは昔からこういうのが得意だからね」

「はぁ、あったまいたくなってきた。これだったらマリー姉に相談すんだった。あの私がその……どんだけバレてますかね」

「どうだろうね。少なくともファイブシスターズは皆分かってると思うよ、フィーリア以外は」


 ボクの言葉にアカリが何とも言えない表情をした。


「トラウマ掘り出せる異能持ちがその察しの悪さってどーなんだよ」

「あの子は昔からそうだったからね」


 二人で静かに酒を飲む。

 同時に空になったジョッキを掲げてナオに声をかけた。


「ナオ、おかわり頼めるかな」

「はーい、ジョッキ二はいりましたー」


 かわいらしい仕草で厨房にとりついたナオを見ながら二人で苦笑する。


「あの人があそこまでこの生活になじむとは思いませんでした」

「奇遇だね、ボクもだ」


 少しの間の後でナオが二人分のジョッキを持ってきた。


「追加です。空いたジョッキ下げますねー」


 愛想を振りまきながらナオがジョッキを下げていく。


「あの子は仕事に対しては真剣だね」

「まぁ、分かりにくいですけど基本生真面目で面倒見のいい人なんですよ」


 二人でナオの動きを追ってると新しくバイトに入った吉乃などに気を配りながら仕事をしているのがはっきりわかる。


「その生真面目のおかげでボクらは全滅しかけたわけか」

「え、ええ……そー、ですね」


 アカリの目が泳ぎ視線が横にずれた。

 ああ、そういうことか。


「アカリ」

「な、なんですか」


 ボクはアカリに顔を近づけて顎を再びつかむと瞳を直視した。


「君がボクらに叩き込んだ目視範囲外からの魔導のことを気にしてるのかい」


 そう、ボクらがファイブシスターズになった発端、アカリが撃ち込んだ魔導だ。


「………………」


 ボクの視界に映る美しい瞳が潤む。


「気にするな、といっても無駄だろうね。戦術的にはカリス教の味方の被害を最小に抑えた上での攻撃としてはあれが最適解だ。なにせタイミングがつかめなければボクとマリーのエクスカウンターは発動できないからね。結果から言うとあれがあったからこその今だ。でも、アカリは後悔してるんだね」


 沈黙を続けるアカリ。

 ボクはアカリの頭に手を載せると静かに撫でた。


「どんなにベストを選んだつもりでも後悔することはある」

「ステファ姉でもですか」

「ボクなんかいつも後悔ばっかりだよ」


 ボクの言葉にアカリは苦く微笑んだ。


「仮に恨みがあったとしてもアカリが助けてくれなければリーシャも姉さんも多分、生きてない。もちろんボクもね」

「それは、どうなんでしょうね」

「優秀なボクが言うんだから間違いないさ」


 ボクが冗談めかして言うとアカリがプッと噴出した。


「自分で優秀って言いますか」

「無論言うとも。血を分けてくれた両親、教えをくれたソータさん、そして主君だったシャル姉さんとマリーの為にも。ボクはもっと先へと走り続けて優秀であり続ける必要がある。ボクらが鉄壁のイージスであるためにもね。その為なら全ての後悔も成長の糧にする、それが出来るのがボクとマリーだからね。だから僕らは常に成長する鉄壁なんだよ」


 ボクがそういうとアカリの頬が染まった。


「なんか……初めてステファ姉のことカッコいいと思いました」

「そりゃありがとう。ちなみにいつもはどう思ってるんだい」

「イケメン気分のいけ好かない血統書付き。ホモの子」


 言いずらいことをズバッというね。


「ほれちゃったかい」

「いや、それはないです」


 二人で笑いながらそれぞれの席に座りなおす。


「だから、アカリ」


 再びボクとアカリの視線が交差する


「シャル姉さんも君を好いているよ。姉妹愛なのか情愛なのかまではボクにはわからないけどね」


 苦笑を浮かべたアカリが口を開く。


「体のいい助手とか思われてそうですが」

「それでもいいじゃないか。ずっと傍にいれるなら」

「そりゃ……まぁ」


 やれやれだね。


「そういうステファ姉は……その……」

「どんな後悔をしたのかかい」


 こくりと頷いたアカリ。


「色々多すぎるかな。国を守れなかったことや自己犠牲を決めた王を止められなかったこと、多くの国民を死なせた……あ、いやアカリを責めてるわけじゃないんだ」

「わかってますよ」


 苦笑したアカリに続きを話す。


「それこそ数えきれないほど後悔してきたけど、そうだね」


 ボクは酒をのどに流し込んだ。


「一番の後悔はマリーに無事に子供を産ませてあげられなかったことかな」

「えっ?」


 硬直したアカリ。

 しまった、知らなかったのか。


「あー、知らなかったのか。マリーはね、冒険者として修練を積んでいた時に一度妊娠したんだ、ボクらの子供を」


 じっと見つめるアカリから視線を外して一口酒を飲む。


「色々無理があってね、だめだったよ」

「そう……ですか」

「ああ。男の子ならレオナルド、女の子ならレオラって名前の予定だった」


 甘いはずの果実酒が苦く感じるのはどうしてだろうね。


「優秀に育てられたはずのボクでも後悔の多い人生なんだよ。だからさ、アカリ」


 薄い笑いを浮かべたボクたち二人。


「これからももっと後悔しよう」

「避ける気はないんですか、後悔」

「避けてなくなるよりあった方がいい。だから気にしないでいいんだ」

「はい」


 その夜、泥酔したアカリをボクはリーシャ達のところに届けると夜の潮風を受けながらボクはゆっくりと歩いて家に帰る。


 もう随分と前。


 テラの神話を好んで引用したエクスプローラーズのリーダーはメティスから生まれたシャル姉さんをテラの戦神になぞらえて縁の深い僕らに『イージス』のコンビ名をつけた。

 それと同時にシャル姉さんの知らぬところで育っていた『魔導』の申し子にもあの人は勝利の女神『ニケ』の呼び名をつけた。

 だけど、これをいうのはもっと先になりそうだね。

 シャル姉さんにとってアカリの存在自体が生きた証なんだけど、いつか自分で気が付けるかな。

 二人とも変なところで鈍いから存外姉さんから言われるかもしれないね。

 そんなことを考えながら家に帰るとドアが開いてマリーが出迎えてくれた。

 足元には見上げる月影もいた。


「ただいま。マリー、月影」

「おかえりなさい。みんな寝ちゃってるから静かにね」

「ああ、もちろん」


 ボクは月影に見ながらこう言った。


「月影、ボクと一杯やるかい?」


 そんなボクの言葉を無視して月影は興味なさそうに部屋の奥へと歩いて行った。


「振られちゃったね、ステちゃん」

「ああ。マリー、一献頼めるかな」


 すこし飲み足りない気分なんだ。

 そんなことを考えてるとボクのマリーが最高の笑みで頷いてくれた。


「朝起きられる範囲でね」

「流石ボクのマリーだ」


 後悔の多い人生を歩んできた。

 これからもきっと後悔するんだろう。

 でも、ボクはそれでいいんだ。


「今日は朝まで寝かさないよ」

「もう、ステちゃんのバカ」


 後悔の先に成り立つ幸福もある、ソータさんはそういってた。

 あの時はわからなかったけど今ならわかる。

 あの人とももう一杯やりたかったな。


「飲まないの?」


 マリーは玄関で物思いにふけったボクを笑いながら奥に誘った。


「飲もう」


 次の日、珍しくマリーも寝過ごした。


「おねーちゃん、こっち駄目みたいです」

「おおぅ、えっとコレあけりゃいいのかね」

「ちょ、ちょっと待ってくださいなのです」


 下の部屋からは姉妹たちの喧騒が聞こえる。

 まったくもってボクの人生は後悔だらけだ。

 だけど、人生ってのはある程度の後悔があるくらいでちょうどいい。

 好きなだけ後悔した後にまた進めばいい、マリーの寝顔を見ながらボクはそう思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ