How are you, 猫?
空が赤く焼けてきた。振り向くと、私の視界に夕日が差してきた。夕日が、夜の始まりを知らせてくれた。どうやら、思ったより長くこの公園にいたみたい。私は、公園を出た。
実は、公園に桜を見に来たわけじゃなくて、時々見かける近所の野良猫に、会うつもりだったのだけど、会えなかった。だからすこしセンチメンタルになってしまったのかも。
猫は気分屋で、前触れもなく突然現れて、また勝手にいなくなる。今日はなんだか会える気がしたんだけど、はずれちゃった。
もうすぐ家に着きそうで、夕日も、今日最後の、幽かな明かりで、夜道を照らすような遅い時間で、ちょっぴり怖かった時に、後ろから「にゃー」という猫の声が聞こえた。
「にゃん吉!?」って、私は思わず声に出して振り向いた。
にゃん吉は私が今日公園で会いたかった、茶トラの猫の名前。名前と言っても、私が勝手に呼んでいるだけなんだけどね。この猫、はっきりと「にゃー」って鳴くから、にゃん吉。私はこの名前、すっごくかわいいと思うんだけど、前に、学校の友達と一緒に帰るときに、にゃん吉って呼んだら、変な名前って言われちゃった。
私はしゃがんで、いつものように、にゃん吉の頭をなでていると、「にゃー」ってまた鳴いた。鳴き声が、たまらなくかわいくて、無意識に笑顔になった。仰向けになって、力が抜けているにゃん吉に、ちょっと気になって、「How are you?」って聞いてみた。結果は予想通り無視されちゃった。
猫と、せめてにゃん吉と会話できるようになりたいな。
私は、ちょっと猫にいじわるしたくなって、右手でにゃん吉をなでながら、左手をうんと伸ばして、ねこじゃらしを引っこ抜いて、それをにゃん吉の前に出した。
案の定、にゃん吉はねこじゃらしに飛びつこうとしたから、私は素早くねこじゃらしを上にあげた。そうして、上からゆっくりとねこじゃらしを下におろしながら、「にゃん吉、上にあるよ」と口走りつつ、にゃん吉がねこじゃらしを触れそうで触れられないように、上下左右に振りまわした。
えい! えい! 頑張ってみたけど、にゃん吉は、すばしっこくて、私のねこじゃらしはすぐ捕まっちゃう。でも、必死にその小さい二本の腕で、ねこじゃらしを掴もうとする仕草を見ていると、すごくかわいくて、にやけちゃう。かわいいものは、必死になると、さらにかわいくなるから、必死になってくれるように、すこしいじわるしちゃう。許してね、にゃん吉。