How are you, 桜?
下校中、友達といつもの十字路で別れてから、このまま、まっすぐ帰っても良かったんだけど、少し寄り道して、狭くて、遊具なんて贅沢なものはなくて、あるのはベンチ2つと、それから大きな桜の木が1本だけの公園に向かった。もう5月だから、桜の花なんてとっくに散っちゃって、花びらすらどこにも落ちてなくて、ただ、元気いっぱいに、緑色の葉を広げている。
私も小さい頃はそうだったけど、みんなが桜を見るのは、花が咲いている、春の始めだけ。
ママも、パパも、友達も、先生も、それにほかの人も、何日後に開花するのか、満開になるまで後どのくらいかかるのかばかりを気にしている。ほかの花は見向きもしないのに、桜がちょっと咲くだけで大喜び。もうほとんど咲いていて、満開になるころには、お休みの日になると、どの桜の木の下にも、レジャーシートが敷いてあって、ちっちゃい子を連れた家族連れや、集団のお兄さんたち(大学生かな?)が集まって、お弁当やら広げて、おしゃべりをしながら、くつろいでいるのを毎年見かけるの。
私も、それこそ小学校の、確か2年生か3年生のころ、この公園でお弁当を食べたことを思い出しちゃった。あれからほとんど毎年、ここでお花見してた。でも今年は、小学校の卒業式とか、中学校の入学式とかで、制服買ったりしてて、なんだか慌ただしかったから、できなかった。
でも、私はもう中学生なの、もう子供みたいなこと言ってられないの! 早く大人にならなくっちゃ!
何について考えてたんだっけ? うーんっと、そうだ、目の前にある、葉だけの桜についてだった。
咲いていた時は、たくさんの人に、「きれいだね」って褒められていたのに、散っちゃうと、誰も褒めてくれるどころか、見てもらうことすらされないのね。もうどこにも、散った花びらを捕まえようとする子供も、その子供を心配そうに叱りながら追う母親も、お酒と花の香りで陽気になるサラリーマンたちも、ベンチで桜の花を見ながら愛を確かめる若いカップルも、遠くから控えめに談笑をする老夫婦も、いない。それを思うと、なんだか、少し寂しくなってきて、視界がうるんできた。私は、精一杯に葉を咲かせる桜の木を抱きしめて、こう言った。
「How are you?」