表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/11

How are you, 桜?

 下校中、友達といつもの十字路で別れてから、このまま、まっすぐ帰っても良かったんだけど、少し寄り道して、狭くて、遊具なんて贅沢なものはなくて、あるのはベンチ2つと、それから大きな桜の木が1本だけの公園に向かった。もう5月だから、桜の花なんてとっくに散っちゃって、花びらすらどこにも落ちてなくて、ただ、元気いっぱいに、緑色の葉を広げている。


 私も小さい頃はそうだったけど、みんなが桜を見るのは、花が咲いている、春の始めだけ。

 ママも、パパも、友達も、先生も、それにほかの人も、何日後に開花するのか、満開になるまで後どのくらいかかるのかばかりを気にしている。ほかの花は見向きもしないのに、桜がちょっと咲くだけで大喜び。もうほとんど咲いていて、満開になるころには、お休みの日になると、どの桜の木の下にも、レジャーシートが敷いてあって、ちっちゃい子を連れた家族連れや、集団のお兄さんたち(大学生かな?)が集まって、お弁当やら広げて、おしゃべりをしながら、くつろいでいるのを毎年見かけるの。


 私も、それこそ小学校の、確か2年生か3年生のころ、この公園でお弁当を食べたことを思い出しちゃった。あれからほとんど毎年、ここでお花見してた。でも今年は、小学校の卒業式とか、中学校の入学式とかで、制服買ったりしてて、なんだか慌ただしかったから、できなかった。


 でも、私はもう中学生なの、もう子供みたいなこと言ってられないの! 早く大人にならなくっちゃ!



 何について考えてたんだっけ? うーんっと、そうだ、目の前にある、葉だけの桜についてだった。

 咲いていた時は、たくさんの人に、「きれいだね」って褒められていたのに、散っちゃうと、誰も褒めてくれるどころか、見てもらうことすらされないのね。もうどこにも、散った花びらを捕まえようとする子供も、その子供を心配そうに叱りながら追う母親も、お酒と花の香りで陽気になるサラリーマンたちも、ベンチで桜の花を見ながら愛を確かめる若いカップルも、遠くから控えめに談笑をする老夫婦も、いない。それを思うと、なんだか、少し(さみ)しくなってきて、視界がうるんできた。私は、精一杯に葉を咲かせる桜の木を抱きしめて、こう言った。


「How are you?」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ