幕間『翼をたたみ、目蓋を閉じて、安らかに』
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彼が――空からおちてくる。
澄み渡る青空、白い雲。それらを眩く照らす朝陽。きっとこれまで見た中で一番綺麗な空。
そして夜空に浮かぶ月のようにぽっかりと中空に空いた孔。あれは天上へと続く道だ。
つい先ほどあの道を通って、この世界を創造した未だ赤子の神『イノセント・エゴ』と共に、『光子世界』へと旅立った青年がいる。
名は――剣崎黒乃。
神様が敷いた残酷なる運命――『起源選定』を終わらせ、その過程で人間ともエルネストとも少し違う新たな存在となった男。
その黒乃が――空からおちてくる。
「――――え?」
あまりに間の抜けた声だった。声の主はアリサ・ヴィレ・エルネスト。光の世界へ行くと決めた彼を、涙を流しながら見届けた彼女。
きっと長い旅になると思っていた。もう二度と会えなくなる、なんてことはないだろうけれど何度かそう思ってしまうほど長い時間待つことになるだろうと思っていた。
だから中空に開いた孔から彼の体がひょいと放り出されるところを見て、なんじゃそりゃと思った。
どうやら意識はないらしい。墜落する飛行機よりも速く、風に流され、その体はただただ落下する。
世界へ向けて――。
「『起点の鎖』――『その眼を開けなさい』」
この場で唯一、まだ動けるだけの力を残しているセラ・スターダストが、可視化した鎖を引き千切り枷を解く。そうして強化された身体能力を使い、一気に丘から飛び降り――黒乃のキャッチに向かった。
それを尻目に、すっかり疲れ切って地面に座り込んでいるルドフレア・ネクストが口を開く。
「……そっか。『ヘヴンズプログラム』はエルネストを人間にする装置であるのと同時に、『器』なんだ。『イノセント・エゴ』との対話を――上位世界に行くことも見越していたんだ……。肉体という檻は枷になる。だから魂だけが世界の層を超える。そしてあの鎧は……裸の心を守るための……ハハハ、何それ! そんなの創っちゃうなんて……!」
鮮やかな赤い髪を揺らし、楽しそうに笑う。一人の研究者として、天才の系譜として。
神に届く所業を成し得た黒乃の父親が、本当に妬ましくて羨ましくて堪らないのだろう。
ましてやそれは、愛する人を救う執念が勝ち取ったものなのだ。
――愛は負けない。人間らしくあろうとするルドフレアにとって、その言葉の響きは最高の笑顔がこぼれるに値する。
「……アリサ。彼のこと、よろしくね」
「え?」
不意に声を掛けられ、アリサはまたしても間の抜けた声を出してしまう。
振り向くと、そこには月下美人の髪飾りが特徴的な白髪紫眼の女――ソフィがいた。
その後ろには『K』とジョイがいる。三人はこれから、未だ救われぬエルネストのいるもう一つの世界へ旅立つようだが、どうも様子を見た限りでは、もう出発するようだ。
「まさかもう行くの? 少し休んだ方がいいんじゃ……」
何ならと治療能力を宿した『八番目の剣』を出現させようとする。ソフィの治療は終わっているが疲労は残っているだろうし、『K』もかなりボロボロだ。
戦いが終わった以上、そしてもう敵でない以上はせめて万全の状態で旅立って欲しい。
「……ううん。いいの。治療も大丈夫」
まあ冷静に考えてみれば、『K』は既に完成した『ヘヴンズプログラム』を持っている。エルネストとしては『半覚醒状態』でも、アレを経由すれば剣の力は使える。だからわざわざ他者の力を借りる必要もないのだろう。
と、思いきや。
「……ほら、私のカードと剣、なんか変になっちゃったでしょ。多分だけど私も全部の剣を使えるようになったと思うの。心もちゃんと感じる」
「え……、そ、そうなのね」
なんだか随分とインフレを感じるというか、『夢幻世界』の先行きも安泰な気がしてきたアリサだった。
「……きっとこれが人とエルネストの先にある可能性なんだと思う。さて、もう行かないと。彼の代わりに白衣も返さないといけないし、やることは沢山!」
両手で頬を叩き、気合いを入れるソフィ。その元気はつらつとした仕草を『ソフィ』が行うというのは、どうも胸につっかえる部分がある。
しかし今は、そしてこれからは彼女がソフィなのだ。
彼女の在り方は彼女自身が決めるべきだろう。
アリサ自身もそうだ。
「頑張って、ソフィ。私も頑張るから」
笑顔なんてもしかしたら似合わないかもしれないけど。それでもかつて母が向けてくれた表情と同じように、アリサは優しく微笑んでもう一人の自分を見送った。
「……ええ。またいつか会おうね」
そうして三人がこの島を去り、そして残ったのは蓮たちと、ジェイルズ&レベッカのコンビ。
アリサはふと、昨日の夜のことを思い出す。いや日付としては今日なのか。
戦いが始まる直前に交わした約束――というほどのものでもないが。
「ねえ」
一歩踏み出して、アリサは近くの大きな岩に背中を預けて座っているゴスロリ少女、レベッカ・エルシエラに声を掛ける。
「ん?」
髪も服も土で汚れているレベッカだが、向けられた金色の眼は思わず見惚れるほど綺麗だった。
これまで敵同士であまりじっくり見る機会もなかったのだが、よく見ると髪はサラサラだし、小柄だけどスタイルもいいし、肌も白い。成長したらかなりの美女になる予感。
「じろじろ見られるの、好きじゃないんだけどなぁ?」
不満を隠すつもりもない尖った声音。見た目とのギャップに驚くが、アリサとしてはむしろそっちの方が接しやすい。
「まだ名乗ってなかったから。私――アリサ・ヴィレ・エルネスト」
出会い方が違えば友達に――親友にだってなっていたかもしれない。
レベッカはそう言った。あの時は己の存在を掴み取ることでいっぱいいっぱいだったが、振り返ってみるととても嬉しい言葉だった。油断すればにやにやと笑ってしまいそうなほどに。
「あー、ね。ん、レベッカ・エルシエラ。まあなんていうさぁ、金支払ってくれる以上は守ってやるから。相棒共々よろしくね」
そうして二人は握手をした。
「友達料金はいる?」
「いるわけないだろぉ、馬鹿」
折角なのでジェイルズの方にも挨拶を、と思ったアリサははて、と周囲を見渡す。
先ほどまで近くに居たはずだがその姿は見当たらない。
そしてなんとなく、レベッカが背中を預けている大岩の反対側を見てみると、そこに彼はいた。
「……」
いたのだが、爽やかな朝日を浴びながら腕と足を組んで優雅に眠っているその姿を見て、声を掛ける気にはならなかった。まあこれからいくらでも挨拶する機会はあるだろう。
「――――」
当てもなく蓮たちが座る場所に戻ると、ちょうどセラが黒乃の体を運んできたところだった。
ゆっくりと地面に寝かされた黒乃。その意識はやはり無いようで、ルドフレアの言った通り『ヘヴンズプログラム』を器として魂だけが『光子世界』へ行ったのだろう。
「黒乃……」
閉じられた目蓋。少し伸びた白い髪。ボロボロのスーツ。
――でも生きてる。
そっと頬に手を添えて、顔を覗き込む。黒乃の顔にアリサの前髪の毛先が当たって、そのまま――。
「……はっ!」
我に返る。振り返ると、蓮、澪、スズカ、セラ、ルドフレアが揃ってにやにやと笑顔を浮かべていた。
恥ずかしさのあまり顔が熱い。
とにかく何か弁解するべきかと言葉を探し、そして絶対に言わなければならないことを思い出す。
ゆっくりと自分の力で立ち上がったアリサは蓮たちに向き直り、そのまま頭を下げた。
「力を貸してくれて本当にありがとう。それと色々、沢山迷惑をかけてしまってごめんなさい」
「――――」
そのまま一秒、二秒と静寂が過ぎ、しばらくしても全く反応がないのでおそるおそるアリサは顔を上げた。
「……ん?」
すると驚き。五人が五人とも頭を下げているではないか。
そうしてアリサと同じだけ沈黙が流れ――代表するように蓮が顔を上げて口を開いた。
「力を貸してもらい、そして多くの迷惑をかけたのは俺たちもだ。本当にありがとう。できれば黒乃にもちゃんと伝えたかったが……未来を変えられたのは黒乃や君が、そしてヴォイド・ヴィレ・エルネストがいたからだ。だから、君が気にしていることを俺たちが気にすることはない」
「ま、終わりよければすべて良しってやつだぜ。アリサ」
澪が憂いを蹴飛ばすように言ってみせる。
「だからもしアンタが、私たちの気にしていることを気にしないっていうなら――」
薄い緑色の髪を爽やかな風に靡かせ、アリサの正面に立ったセラが右手を差し出す。
「十年後。時の彼方で、友達として一緒に笑いましょう」
思えばこの三週間弱の期間。共に過ごした時間はあれど、その距離は一定で、縮まることはなかった。
背中を預けて戦うことも。身を挺して守ることも、なかった。
そんな自分に、こうして手を差し伸べてくれるのだ。
涙が出そうだった。でも堪える。ぐっと堪える。
いくら何でも泣きすぎだ。これ以上はきっとどこかの赤子の仕事を奪ってしまうに違いない。
瞬きをして睫毛に付いた水滴を袖で拭い、そして――握手に応じた。
「アリサちゃん。もしこれから何をするべきか迷っているなら、お料理の腕を磨いてみてください。好きな人を落とすには胃袋から! ですよ!」
ぐっと両の拳を握るスズカ。その言葉は随分と頼もしかった。きっと経験からくる助言だろうから。
「クロノの体は病院で診てもらった方が良いね! 大丈夫。普段眠っているのと変わらないよ。もし何か問題があっても、ボクのところに連れてきてもらえれば絶対どうにかするから!」
だから十年後にまた会おうと、付け加えるルドフレア。
「もう……お別れ?」
名残惜しそうにアリサは問う。黒乃も駆け足で飛び立ってしまった。せめてもう少しだけ、一緒に本土に戻って食事でもできたらいいのにと思う。
束の間、そんなアリサの考えに割り込むように――声が聞こえた。
「――悪いな、嬢ちゃん」
渋い声だ。振り返ると、いつの間にかその男はいた。
色の抜けた白髪をオールバックにし、黒いハット、ロングコートを纏い、葉巻を銜えた初老の男。
一目でただものではないと理解できるその存在の名は。
「レイヴン・R・レクシリム」
蓮がそっと言葉にした。レイヴンは口の端から穏やかに煙を吹いた。
「全員、よくやったな。んで嬢ちゃん、そこで寝てる一番の功労者が目覚めた時、同じように伝えてやってくれ。まさにあっぱれってやつだ。お前たちの『答え』、しかと見届けさせてもらったぜ。ここから先の未来は視えないが、きっとうまくいくだろう。心の底から礼を言う。本当に――ありがとう」
被っていたハットを取ったレイヴンはスマートな動作で頭を下げた。
レイヴンは世界の観測者だ。この世界の外側に存在するという過去、現在、未来の情報が記された『世界の記録』に唯一閲覧と記述の権限を持った、あらゆる時間に偏在する者。
「きっとこれでアゲハも、悔いはないだろう――」
その眼は。強くブレない男の眼差しは――遥か遠くを見ていた。
ここではないどこか。ここではない時間を。
そこでふと、アリサが先ほどのレイヴンの言葉に引っかかりを覚える。
「……あの、未来が視えないって?」
「――オレが視ていた未来ってやつは『イノセント・エゴ』の敷いたレール、いわゆる運命ってやつなのさ」
レイヴンは葉巻を銜え直し、煙を空に向かって吹いた。
「思えば随分と長い旅だった。この世界に堕ちて、生命を創造し、戦いを見守り、気まぐれにオレの力の一端を与えてやり、そいつが巡り巡ってとある男に宿命を課し、あいつは過去との大いなる因縁に決着をつけて、その力を次へ託した」
「――そうして託されたのが俺だ」
気づけば、レイヴンに向かい合うように蓮が立ち上がっていた。
風に揺れるスーツ。左脇の下にはホルスターがあり、これまで一度として使わなかった拳銃が一丁、携帯されている。
「アゲハ――久遠遥と出会ったのはその旅の途中だ。オレは様々な出会いを経て人間ってやつが好きになって、だから人間が『イノセント・エゴ』という親鳥のもとから旅立つ日を心から望んでいた。さあ――すべての魔法使いは消えた。『起源選定』は終焉を迎えた。上位と下位の繋がりは剣崎黒乃と、そしてもう一つ。黒乃が目を覚まして全部を終わらせるために――分かってるな、蓮」
蓮はホルスターから拳銃を抜いた。
以前彼は黒乃に語っていた。その拳銃には一発だけ銃弾が入っており、それが世界を解放する一発になるのだと。
「アリサ。俺が、俺たちが遥さんから託された使命は、上位と下位の繋がりを絶ち世界を解放することだ。それは遥さんが己の魂をかけて創り出したこの一発で、永遠にも等しい時間、この世界の意志に縛られている――かつてこの世界に堕ちた『イノセント・エゴ』の側面を眠らせてやること」
蓮は慣れた手つきで薬室に入った銀の銃弾を確認し、そして銃口を向ける。
「レイヴン・R・レクシリム――またの名を『オルター・エゴ』。貴方に永遠の安らぎを与えることで、俺たちは役目を果たして未来へと帰還する」
「…………」
アリサは咄嗟にレイヴンと目を合わせた。永遠の安らぎ。それは命を失うということだ。
これ以上何も犠牲にしない――黒乃はそう決意し、命を守り抜いた。
だからもしレイヴンの死で黒乃の決意が汚れてしまうのなら、何としてでも守らなければと思った。
だが男は――このうえなく安らかに、死を受け入れていた。
表情で分かる。何の後悔もない。ただこの場所で命を使い切ることを最初から理解しており、それを満足だと受け入れている。
「オレは長く生きすぎた。万物に終わりは来るもんだ。エルネストにも寿命はあるし、セラ、フェンリルとなったお前にもな。だからオレ一人を特別にする必要はない。オレもこの世界で生きて、この世界で死ぬ。それだけだ。雛鳥は立派な翼を広げて空を飛んだ。だからもう親鳥の役目はおしまいで……満足だぜ」
引き金に指をかける。
「この銃弾には遥さんの魂が籠っています。そしてあの人と同じ、時を跳躍する能力が。放たれた銃弾は過去、現在、未来に偏在する貴方をどこまでも追いかけ、必ず撃ち抜く。どれだけ世界の意志が貴方を生かしたがっても、貴方は遥さんと同じ所へ誘われる。――いい、ですか……?」
「答えるまでもねえな。一番綺麗な夜明けを見届けられたんだ。もう何も言うことは――あ、や、待て。そういや言い忘れてたぜ」
葉巻を銜えたまま、レイヴンは両手を広げた。風に巻き上げられたハットが宙を舞うが、伸ばした手は掴むためのものではない。受け止めるためのものだ。
どこか誇らしさを宿したその瞳は、真っすぐに蓮を射抜き――澪を、スズカを、セラを、スズカを、ルドフレアを、アリサを、黒乃を、この世界に生きるすべての生命を視て。
「――さらば、我が子たちよ」
刹那――撃鉄は落とされる。
世界の始まりは『イノセント・エゴ』。そして生命の始まりは『オルター・エゴ』。
すべてはこの結末に辿り着くため、あらゆる宿命がこの男から紡がれた。
銃声は鎮魂歌。
今、罪も愛も、その背に負ったものを静かにおろして――男は、満足そうに笑って逝った。
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砂浜――そこはアリサとソフィが一つの『選択』をした場所。言うならば存在の分岐点だろうか。
朝陽に照らされる青い海を眺めながら、波打ち際に佇むソフィ。
彼女は祈っていた。
今、還った命がある。ソフィは彼についてあまり詳しいことは知らないが、それでも満足して死を受け入れた部分が、どこか兄であるヴォイドと重なった。
だからどうか、安らかに眠れるようにと祈ったのだ。
「……ねえ」
そして祈りを終えたら、あとはまた進むだけ。
「――――む?」
ソフィの後ろにいた『K』に差し出されたのは、手。
「……さっきも言ったけど、やっぱり私はあなたを赦さない。でも『夢幻世界』では文字通り世界中があなたの敵で、そこで私はたった一人の味方として背中を預けなくちゃいけないんでしょ? なら、握手くらいしとかないと」
「ノット。私もいます」
静かに抗議するジョイ。
「……というかそれなんだけど、あなたって剣持ってないんだよね? 『一番目の剣』の効果範囲って剣を持たない人も大丈夫なのかなぁ? 着てる服とかは大丈夫っぽいけど……」
「な! ここまで来て私は行けないというのですか! 断固として認めません!」
「……となると……、自我データを持ち運べるちっちゃな何かに移して……とか?」
「か、体は置いていくということですか⁉ それでは『K』のお世話が……」
「……『お・世・話』~~~~~~?」
じろりと、ソフィが『K』を見つめる。
「それほど反応するな。……ジョイ、今の私は過去の傷がほとんど治っている。この左目は戻らなかったが生活にも支障はない。それに向こうの世界はとても危険だ。自業自得と言われればそれまでだが、私は君を失いたくない。平和になるまでは私の『ヘヴンズプログラム』の中からサポートしてくれないか?」
「『K』がそう仰るのなら、是非もありません」
『K』の一声であっさりと納得したジョイに、ソフィは僅かながらの不満を覚えたがそこはそれ。
気を取り直して、再び手を出した。
「……それで、どうするの?」
差し出された手を『K』は言葉もなく見つめたまま――掴んだ。
「味方をしてくれるというのなら、私は全力で君を守ろう。それがきっと私の存在証明になる」
果たせなかった約束がある。忘れてしまった想いがある。
きっと二度と手が届くことはないだろう。時はもう戻らない。やり直すことはできない。
だからせめて、彼女が新たな光を手に入れるまでは守ってみせよう。
『K』は――そう、誓った。
「君のことは何と呼べばいい」
「……私はソフィ。あなたは?」
「好きに呼んでくれ。『K』はコードネームに近いから、本当に何でも構わない」
「ふむ」
何でも構わないと言われると、それはそれで困る。
「……よくよく考えればあなたは十歳年上なんだし……、クロノ、さん……とか?」
「君がそう呼びたいなら、そうすればいい」
「……よし。じゃあそれで決定! それじゃあ行きましょうか――世界を救いに!」
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――アゲハ蝶が飛んでいる。
実体はない。手を伸ばしても届かない。その存在は蜃気楼。
緑色の粒子を纏い、光の粒が固まってできたようなその姿。
五人の時間旅行者は未来へと帰還。
ソフィと『K』、そして『ヘヴンズプログラム』へと器を移したジョイはもう一つの世界へと飛んだ。
アリサはジェイルズ、レベッカ――そして黒乃の体と共に桐木町へ帰郷。
黒乃の体は『組織』の監視下に置かれることになり、再びあの病室で入院生活を送ることになった。
預けられた財布を見ると、そこにはキャッシュカードと暗証番号が書かれたメモが入っており、一応確認してみるとなんと一生遊んで暮らせるだけのお金が入金されていた。
アリサは必ず返すと心に決めて、ヴォイドやフィーネのお墓を建てるお金、そしてジェイルズたちの給料を拝借。その後、黒乃が使っていた部屋で一人暮らしを始めた。護衛の二人にはアリサとヴォイドが暮らしていた部屋を使ってもらっている。
最初は毎日のように黒乃のお見舞いへ行った。
そのうちただ待つだけではだめだとアルバイトを始め。
スズカに言われたように料理を学んだ。
時にはジェイルズとレベッカを連れて遠くに旅行へいった。彼が帰ってきたら沢山思い出話をしてやって、驚かせてやるんだという小さな野望があった。
そうして時が流れた。流れた。流れた。流れた。流れた。流れた。
七年の時が――流れた。