インタビュー『ルドフレア・ネクストと――の場合』
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――ということで、一応ボクの分も撮っておかないとね。
大事な資料だし。でもこういうのってなーんか恥ずかしいや。とかいうとこれまで撮ってきたみんなに怒られそうなのでそこはそれ。
ボクの名前はルドフレア・ネクスト。
アルフレド・アザスティアの一人が、天才の後継者として生み出したいわゆる『人造人間』ってやつだよ。
えーと、そうだなぁ、『人造人間』とは言ってもフィクションでよくある寿命が短いとか、人の感情がないとか、そういうのはないかな。あ、生殖機能は必要ないから設計されてないけど。
でもまあそれ以外は普通の人間と変わりないよ。食事も睡眠もできます。
そういう経緯でこの世に生を受けたボクです。
具体的に天才の後継者としてどんな目的を設定されたのかと言われると、まあ第一目標は『天上』に辿り着くことだね。アルフレドの目的がそうだから、ボクも当時はそうだった。
ボクを生み出したアルフレドの分野は人間の器――つまり肉体に関することで、それでどう『天上』を目指していたのかというとね。
要は、自分より何か一つでも優れた存在を作り出す。そして作り出した自分が、さらに優れている自分を作り出す。で、次の自分が次の自分を。そうして本来であれば人類が長い年月をかけて行う進化を『アルフレド・アザスティア』個人で行おうとしたのさ。
そしてボクも次なる後継者を生み出すため、外の世界へ踏み出すことなく研究室という鳥籠の中で日々研究に没頭していた、。
でもある日、そこにレンとセラがやってきたんだ。
その時の二人は、今と比べるとほとんど別人ってレベルで、まだまだ未熟な可愛い子だったなぁ。
レンは自分を探すため、セラはアルフレドを殺すために動いていた。でもあの年頃の――あーえっと、二人は当時一八歳だったかな、で、あの年頃の子は自分の価値観が固まり始める頃合いでしょ?
どんなに小さなことでも影響を受けて、大きな波風に揺らいで、流され、失って。でもその中で何かを掴み始める時期なんだ。二人もそうだった。
詳しい話は時間の都合上省かざるを得ないんだけど、二人は短い時間で一歩ずつ成長していって、そして外を知らないボクに世界を見せてくれて、一歩を踏み出させてくれた。
所詮アルフレドの作り物でしかなかったボクはあの時本当の意味で生まれることができたんだ。
そしてボクは、ボクを受け入れてくれた世界と、その世界で必死に生きている彼らの選択を見届けようと決めたってわけだよ。
ボクの担当はサポート。優秀なガジェットを作ったり、データを解析したり、傷の治療もたまにはやる。魔術は、使えないことはないけどほとんど使ったコトないかな。
さあ――これがボクの前提だ。
そうは言っても、別にここから語ることは多くないけどね。
『起源選定』に関わったことで、ボクはジョイと出会った。直感したんだ。ボクが今回付き合うことになるのは彼女なんだろう、ってね。
クロノは『K』と、アリサはもう一人の自分と、レンはジェイルズと、セラはレベッカと、ミオとスズカは自分自身と、そしてボクの場合はジョイ――って感じさ。
ボクはアンドロイドであるジョイに、自由に生きているか、そう訊ねたことがある。
『作り物は作り手に従うべき』――その考えにかつては囚われていたボクは自由を得て、ボクと同じ状況にあるような『作り物』に自由を与えたいという気持ちを持つようになっていたんだ。
だからジョイがもし『K』に道具として扱われているのなら、選ぶ権利を剥奪されてその場所にいるのなら、彼女に『選択』を与えてあげたいと思った。
それがボクの戦う理由。あ、あと世界も救わないといけないしね。
――こんなところかな。んー、思ったより短く済んじゃったな。ふふーん、でもね、そんなこともあろうと手は打ってあるよ!
常に最悪の状況を考え、常に最善の手を打つ。時に突飛に、ね!
それが天才の系譜ってヤツさ!
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――ハロー、私の名前はジェイルズ・ブラッド。気軽にJBと呼んでくれたまえ。
さて今回は私の相棒であるレベッカが、困ったことに気が乗らないなどと言ってくれたので私が二人分の資料を提供しよう。
早速だが簡単な経歴からだ。私は生まれも育ちもイギリスで、まあそれなりの家に生まれ、それなりの学校に進学し、それなりの仕事に就いたのだが――おっと、これは失礼。今のは偽の経歴だ。
まあそうカメラの後ろで睨むな。
私は若くして、とある独立諜報機関に所属していた。それ以前のことは想像以上にドラマティックではないから、カットだ。さっきの経歴は私が機関に所属している時に使っていたものだよ。君も使ってくれて構わない。
続きを話そう。独立諜報機関とは何か。そうだな。映画は見るか? ジャンルは? アクションか、スパイものは?
――そう、たった今想像した映画のようなことをしていた。いやエンタメ性でいえば映画には到底勝てないのだが、そのイメージで間違いはない。
つまりは――大勢、人殺しをした。
映画でよく、人を殺しすぎて心が麻痺してしまった狂戦士、みたいなものがあるだろう?
あれと同じ状態に私もなった経験がある。だがね、私はそこでは終わらなかった。
ある日、その洗脳とも言える魂の摩耗――人殺しのスイッチがオフになったのだよ。
きっかけは何だっただろうか。公園で遊んでる子供を見たからか。それとも太陽に照らされる花を見たからかな。たまたま食事が美味しかったからかもしれない。もしくは制服が似合わなくなったからかもな。
とにかく本当に突然、我に返ったんだ。
――その日のうちに機関を退職したよ。そのためにまた人を殺したのは、本末転倒と言えるがね。
そうして私は人殺しをせずに、けれど私が持っている唯一の資本――この体を最大限活用できる職を探した。そうして巡り合ったのがボディーガードだ。お得意の警護対象が少女売春をやってるクソ野郎だってことに目を瞑れば、天職だと思ったよ。
今まで命を奪うことしかしてこなかった私が、命を守るために働く。笑えるだろう?
そんな夢のような生活が一年ほど続いたある日。少女売春の被害者がちょっとした軍隊を組織して、私の依頼主に戦争を仕掛けたんだ。銃や魔術や他の組織など、とにかく色々持ち出して来てね。
その組織のリーダーが――レベッカだった。
実のところレベッカとは以前から交流があってね。まあタバコをねだってきてはちょっとした世間話をする、その程度の仲だったが。
私が知るレベッカの経歴だが、彼女は元々名家のお嬢様というヤツだったのだが父親がまあ少し……いや結構欲張りでね。脱税汚職などをしてその罰として結果、多額の財産は無事国に返却された。
そしてレベッカはストリートチルドレンとなった。
彼女が魔術を習得したのは独学だ。ま、そこはお嬢様というだけあって才能に恵まれていたのさ。
同時にレベッカは相手を殺すための術も研鑽を積んできた。問題はそこだ。レベッカには魔術の才能だけでなく殺しの才能もあったんだ。
足音を消し、息を殺し、気配を断って首を取る。相手の行動を完璧に見抜き、的確に急所を突く。
言ってしまえばただものじゃなかった。
だからこそ彼女は崇拝され、搾取され続けた少女たちのジャンヌ・ダルクとなった。
当然、依頼人は私にレベッカの殺しを命じた。だが――迷った。迷ってしまったんだよ。
この時私は、自分が弱く、そしてどうしようもないほどに人間であることを実感した。私はレベッカを助けるために依頼人を裏切った。
かくして私とレベッカは互いに背中を預け合う相棒となった。まあ結局依頼人への謀反は失敗に終わって、二人して追われる身となった。
だがまあ、それなりに楽しい逃亡生活ができたよ。
そして月日が流れ、――ある日、一人の男と出会った。
男は私たちに『答え』を出したくないかと話を持ち掛けてきた。見返りはなんだ、そう問うと、彼は私たちの追手を黙らせてくれたよ。
男の話を聞くと、世界を解放するとか、エルネストだとか、そういったことを聞かされた。
そう、その男が『K』だ。
ぶっちゃけ彼の言っているコトはあまり理解できなかった。それはレベッカも同じだ。
だが彼には恩ができた。
ルールだ。私は自らにルールを課している。人が毎日風呂に入り、歯を磨くのと同じ。私自身の一部としての規律だ。その中にこんなものがある。
――『受けた恩は必ず返す』。
行く当てもなかった私とレベッカは、『K』についていくことを決めた。
そして楽しい日々は少しだけ続いた。
『歩くスーパーコンピューター』というテーマのもと設計されたアンドロイドを奪って仲間にしたりな。
ああ、そう。それがジョイだ。
『K』曰く、ジョイは『ヘヴンズプログラム』の制御に必要な存在とのことだ。
暴走した『ヘヴンズプログラム』は強制的に完成状態に引き上げられ、すべての剣の能力を使用できるようになるらしいのだが、それで自我を失っては話にならない。自らの力を制御できないようでは戦いを行うことはできないからな。
む――ジョイの所感か。まあ美人と私は思うよ。
ああ、誤解のないように言っておくと美人と言っても生命の神秘を内包したものではなくあくまで機械的な、そう、芸術的に作られたという意味だ。
似ているようで、その二つは相容れないものだと私は考えている。
内面的な話をすれば、彼女は見た目とは裏腹にとても幼い。実際に彼女の人格、心と呼ばれるものが生まれてからそう時間が経っていないからね。人間で言えばまだ赤子なのだからそれは当然のこと。
しかし彼女には知識がある。人間が許容できるものの何十倍のデータがね。そしてジョイはルドフレア・ネクストのように自由を求めたわけではない。ただ――いや、これ以上は無粋だろう。
――こんなところだ。ではカメラを止めよう。
他に知りたいとこがあればオフレコでな。シーユー、レイターアリゲーター。