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インタビュー『夜代澪の場合』

 ――さて、今度はアタシの番か。緊張するなぁ。

 何せこういうインタビューみたいなのって初めてだからさ。まあでも話すことはちゃんと決めてきたから、真面目にやるよ。


 アタシの名前は夜代(やしろ)(みお)夜代(やしろ)(れん)の妹だよ。年は二歳差で身長は五センチ差。趣味嗜好は合ったり合わなかったりって感じの普通の兄妹さ。

 

 アタシらは日本の南西の方にある小さな町で生まれ育ったんだ。その町は黒乃(くろの)やスズカが暮らしていた『都会と田舎の中間のような町』よりは田舎で、かといってセラが暮らしていた村よりは都会の、まあ、おそらく田舎と言われて世間一般がイメージするような町かな。


 両親がちゃんといて、学校の成績もそれなりに良くて、友達もいて、将来の夢もある。そんな掛け替えのない日常を送っていたアタシらなんだけど、兄貴が高校三年に進学しアタシが高校生になったばかりの時期。

 兄貴はとある神様と出会ってしまったんだ。

 あ、その神様っていうのは『天上』のほうの神様ね。アレの別人格って言えばいいかな。


 とにかくその神様とちょっとしたお遊戯をすることになった兄貴は、必死になって町中を走り回っては、柄にもなく熱血っぽく振る舞い、ある罰ゲームを回避するために奔走した。


 けど残念というか、仕方ないというか――まあ当然、兄貴はゲームに負けた。

 そんで罰として、神の力の具現である『夜代(やしろ)(しき)』を自身の別人格として宿すことになったんだよ。

 その力の元を辿ると『心象の具現化能力』って呼ばれるモノに行きつくらしいんだけど、詳しくは知らないからカット。


 続きなんだけど、兄貴が罰ゲームを受けたその時、アタシは兄貴を庇って神様、ああ今度は別人格じゃない方ね。そっちに逆らったんだ。

 そのことを兄貴が知るのはそっから一年半後のことだから――まあこれもカット。


 その後、兄貴が久遠(くおん)(はるか)によって『組織(アセンブリー)』へ連れてかれた裏で、アタシは神様に逆らった罰として魂をバラバラに砕かれた。仕組みとしてはスズカが記憶喪失になったのと同じ感じ。だから多分向こう側には、何かをした意識なんてないだろう。


 魂が砕かれるってことは即ち、人としての心を失くすってことでさ、しばらくしてアタシは兄貴と同じように久遠遥に保護されて、久々に兄と感動の再開を果たした。

 けどその時のアタシは碌な言葉一つ話せないようなヤツになっていたのさ。


 そしてスズカの記憶、セラの復讐、フレアの業を抱えていた兄貴は、アタシの魂のことまで背負った。


 で、『そうなった』経緯を説明するのは難しいからこれまた省くんだけど、再び因縁の神様の『防衛機構』と対峙した兄貴は自身の内に宿る『到達存在(ヘヴンリード)』としての証――つまりは織と引き換えに、アタシの魂を取り戻してくれた。


 それはなんて言うのかな。兄貴にとって織を失うってことは自らの分身を切り捨てることであり、スズカの記憶を取り戻す手掛かりを捨てることであり、兄貴が何でもない普通の人間に戻るってことだった。


 ――要はそれだけ重い決断だったんだ。

 

 けど、そうまでして取り戻したアタシの魂は元には戻らなかった。いや、魂として機能するようにはなったんだぜ? 

 こうして感情を取り戻して、言葉を話せて、幸せとは何かなんてことを考えられるようになった。


 ――でもさ、一度壊れたものは二度と元に戻らないんだよ。


 実はアタシにはアタシに関する昔の記憶っていうのが、忘れたわけじゃないけど朧気で、どんなに可愛げのない子供だったかなんて思い出せなくてさ。

 でも兄貴が言ってたんだ。アタシは兄貴の後ろに隠れているような控えめな性格で、虫も殺せないような優しいやつだったらしい。

 今とは真逆だろ。


 この男口調は、アタシの魂を繋ぎ直してくれた織の力の名残なんだ。織はなんていうか宿主と真逆の性質になる性質を持っているっていうか、ほら、この世界は『一つのものに二つの性質が宿っている』ことが正しい姿っていう常識というか、決まり……みたいなものがあるから、織は宿主に宿るもう一つの性質として『正しい在り方』を体現するんだ。


 誰かと喧嘩することもなかった兄貴に対して、織は誰にでも挑発をするようなお転婆だったり、兄貴が初めて人を殺して命の重みを忘れたときは、逆に織が自らの命の重さを学習していた、とか。

 まあそんな感じ。


 それがあるからアタシは昔と真逆の自分になった、そんな絡繰りさ。


 思い出のアタシと現在のアタシ。そのギャップにどれだけ兄貴が驚いたのかは分からない。でも大きすぎる代償を払った結果がこれだなんて――きっと、そう思ったに違いない。

 少なくともアタシ自身はそう思った。負い目に似たものを覚えちまった。


 だから余計にだよ。兄貴から、お前は戦いをやめてもいいって言われて、アタシの心は揺れた。


 別に兄貴のせいじゃないさ。スズカと今のアタシは知り合ってまだ日が浅いし、世界の行く末にも興味はない。だからいずれ迷い悩むことになるのは決まってた。

 そう、アタシはあの時、兄貴を納得させられるだけの『戦う理由の言語化』を強いられた。

 セラと同じように、兄貴がくれた『数日間の日常』で答えを出したんだ。


 ――さて、こんなところ? もういいかな。え、もう少し?


 そうは言ってもこれ以上は決めてないや。


 んー、昔から背は高かった。その割には胸が小さかった。カップ麺が好き。意外と一人で作るときの料理は上手い。私服は兄貴の影響で割と派手かも。たまーにパンク系も着てあげる。性癖は実は顔が良ければ男でも女でも構わない。特殊な目を持ってる。特別、勘がいい。


 ――あ、兄貴が誕生日にくれたこの髪留めは宝物だね。宝物だから、これを付けて戦いに出る時は絶対に無傷で勝利するってのが自分ルールってやつさ。


 とまあこれが夜代澪(アタシ)という人間だよ。


 ――あ、もういい? それじゃカメラ止めるぜ。


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