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『戦う理由/Focus that only suits me』

 時刻はお昼を過ぎた頃。昨夜の戦いの疲れが抜けない黒乃(くろの)たちは、その反動かどこか弛緩した空気の中で生活していた。ベッドで眠り起きて、各々がリビングに揃ったのは三十分前のこと。

 今はスズカを中心にして、少し遅い昼食を作っているところだ。


 献立はカレー。普段から料理を担当しているスズカを中心に、黒乃と(みお)とフレアでそれを手伝い、フィーネ、ヴォイド、セラはビリヤードを嗜んでいる。

 アリサはまだ体調が悪いようで部屋に籠っていて、黒乃が昼食の誘いに行ったのだが断られてしまった。

 (れん)はと言えば、キャラバンを通じて東京の街に繰り出し、ちょっとした買い物をしていた。


「あ、フレアくんそれはもう沸騰しています! 早く火を弱火にしてください!」


「えー? 焦げないよう管理すれば大丈夫だって。こっちのほうが早くできるんだしさ!」


「強火でも火の通りが早くなるわけじゃないぞ、フレアー。つーか、玉ねぎで目が……」


「というか具材の準備ができてないのにルーを作らないでください!」


「まーまー、これも時短時短。それに、未知への挑戦は科学者の性なのさ! 常識に囚われないのは天才の特権ってね!」


「ダメって言ってるじゃないですかー! 澪ちゃんも早く準備を進めてください……!」


 苦労するスズカを横目に、黒乃は食器の準備とテーブル周りを片付ける。

 それから数分後、火を弱めなかったばっかりに鍋の中身が溢れ出し、ルドフレアは鍋係を解雇された。


「――とりあえず、後は煮込むだけなので、黒乃くんも向こうで楽にしてていいですよ」


「それじゃあお言葉に甘えるよ。本当にお疲れ様」


 苦労だらけのスズカを労い、黒乃はリビングに戻る。するとほぼ同じタイミングで、蓮が帰ってきた。


「ただいま。新聞を買ってきたが、読みたい人は?」


「あ、読みたいな」


 入院していた時は毎日欠かさず読んでいたので、黒乃はなんとなく習慣で受け取る。


(四コマ漫画が好きなんだよなあ。あと『モノクローム』の一件がどうなっているのかも確認したいし)


「澪、前にシャンプーが切れそうだと言っていたから、ほら」


「え? なに、買ってきたの? あー……まあ、ありがと。つか、なんでアタシが使ってるやつ知ってるんだ……?」


「それとスズカ、アニメ誌が売っていたから買ってきた」


「本当ですか! うわぁ、あとで絶対見ます‼」


 すごい食い気味の返答だった。その勢いに圧倒された蓮は戸惑った様子でアニメ誌を近くの棚の上に置いた。

 蓮が持っていたコンビニ袋にはもう一つ、求人ジャーナルが入っていたがそれについて言及することはなくテレビ前の机の上に袋ごと置いた。


「さて……『モノクローム』のことは、と」


 四コマ漫画をさっとチェックし、一枚、また一枚と捲っていく。あれだけ大きな出来事だったのだ。てっきり見出しが大きく載せられているのかとも思ったがそんなこともなく。

 もしかしたら意外と小さなところにあるかとも思ったが、結局、『モノクローム』のことを書いた記事はどこにもなかった。


「テレビでも一切報道がされていない。SNSでは少し話題になっているが、時期にそっちも規制されるだろう。おそらく財団と、『組織(アセンブリー)』による圧力だな」


「うへー、権力ってのは怖いね……」


「そこの坊ちゃんが言うことかよ」


 顔を引きつらせる黒乃に澪が突っ込む。


「そんな実感ないんだけどね。ほぼほぼ勘当されてるし、財布の中身もほとんど空だし……」


 実は蓮とラーメン屋巡りをした時に、口座を覗いてみたのだ。財布に入っていたのは一万円札だけだったし、ラーメンだけでなく服を揃えるとなれば軍資金はあった方が助かると思って、確認した残高。

 その額は……正直思い出したくなくても思い出してしまうほど少なかった。

 まさかあの一万円が虎の子のそれだった……。おかげで服の方は古着を揃えることになった。


「そういえば結局、『モノクローム会合』ってのは行われなかったことになるのかな。それって未来が変わったってこと、なんだよな?」


「ああ。本来なら今回の一件で財団とその当主である剣崎惣助(けんざきそうすけ)――お前の兄は『組織(アセンブリー)』から報復を受けるところだっただろうが、結果としてジェイルズ・ブラッドにより会合相手は全員殺害された。惣助には『組織(アセンブリー)』からの監視が付くことになるだろうが、一応敵対組織のボスをまとめて葬るきっかけを作ったんだ。悪いようにはされないだろう」


 剣崎惣助――黒乃の兄。罵詈雑言を浴びせられたこともあってあまり良い印象はないが、同時多発テロはこれで防がれた。その点は素直に喜ぶべきだろう。

 まあ、未来を変えたのがジェイルズ・ブラッド、ひいてはあの仮面の男『K』であることを思い出すと、やはり複雑になるのだが。


「にしても黒乃の兄貴はなんで魔術の世界に触れようとしたんだろうな。それも裏の、さ」


「……さあ。どうせ利益のためだと思うよ」


 興味などなかった。あれほどまでに嫌われている理由は分からない。世間からは、黒乃が父親の愛人の子であることが原因だとも言われているが、それでもあそこまで露骨な態度を見せるだろうか。

 もしかすれば他に理由があるのかもしれない――が、もうどうでもいい、というのが本音だった。


 そうして他愛のない話を続けること三十分。リビングにはカレーのスパイシーな匂いが立ち込めていた。スズカの一声で全員が食卓を囲み、白飯を用意した黒乃たちはまるで給食の配膳のように、鍋から盛り付けられるカレーを待つ。


「……そういえば、アリサの姿が見えないようだが」


 蓮が部屋を見回して呟く。


「体調が悪いみたい。部屋で寝てるよ」


「そうか」


 納得した蓮はカレーを片手に席に着く。直後、黒乃は何かカレーとは違う良い匂いを感じた。

 ふと横を向くと、席にはアリサ――ではなくフィーネが座っていた。


「――――」

 

 顔を見ればフィーネだと判別できるが、背丈や髪の長さもほぼ同じで後ろ姿のみだと見分けが付かなくなる、というのが素直な感想だ。


(フィーネさん、アリサのお母さんというよりも姉に見えるほど年齢が分からないな。肌とか髪とかつやつやだし)


「――私の顔に何かついています?」


「ああ、や、綺麗だなって。……いやいや、変な意味じゃないですよ⁉」


 思わず口走ったことを弁解する。が、それが逆効果であることは言ってから気付いた。

 フィーネは一瞬だけとても妖しい笑みを浮かべてから、照れたように両手で顔を覆った。


「こんなおばさん口説いたって、何にも出ませんよ。それとも黒乃くんは――年上好きなんですか?」


 ちらりと、両手の隙間から紫色の瞳が姿を見せる。

 からかわれていることはすぐに分かったが、一度主導権を握られてしまうと、取り戻すのは困難だ。


「へ⁉ いや、その……アリかナシかで言えば……」


「言えば?」


「…………アリです」


 ヴォイドが深いため息を吐いた。


「これはアリサに報告ね」


 セラの鋭い言葉が黒乃の胸を刺し貫く。


「ふふ、ごめんなさい。黒乃くんたら、若い時の惣一朗(そういちろう)くんにそっくりなんですよ。だからつい」


「……惣一朗、って父さんを知ってるんですか?」


「ええ。私には一つ上の姉がいたのですが、姉と惣一朗くんは同じ学校の同級生で、よく私も会っていました。黒乃くんと同じイケメンさんでしたよ」


「……そ、そうだったんですね……それは、どうも……」


「まさか黒乃だけでなく、その父親もエルネストと関わりがあるとはな」


「でも彼が『起源選定(きげんせんてい)』に関わることはありませんでした。……と、それよりもカレーを食べませんか? 冷めてしまったは勿体ないです」


 その言葉をきっかけに、食事は始まった。全員で『いただきます』を言って、全員で『ごちそうさまでした』と言う。そんな賑やかな食卓が黒乃は心から嬉しかった。


 しかしこの場にアリサが居たらもっと楽しいんだろうな、と思う気持ちが、頭のどこかでずっと引っかかっていた。


(アリサ……)


 昼食を終えてしばらくすると、(れん)はセラと(みお)をテラスに呼び出した。理由は分からないが、こんなところに呼び出す以上は聞かれたくない話なのだろう。


 海の見える二階のテラス――景色は悪くない。いや、とても良いと思う。ここへ来るのは初めてではないが、何分これまでゆっくりする時間は無かった。だから気づくのが遅くなってしまった。


「――――」


 セラは手摺りに背を預けて目蓋を閉じ、波の音を聞きながら潮風に当たる。長いこと居座ればきっと髪がべたついてしまうだろうが、どこか物悲しさを覚えるこの感じも悪くはないと今は思えた。

 隣には澪。澪は趣味で絵を描く。だからきっとここを訪れたこともあるだろうし、兄のことを考えながら黄昏る表情を浮かべるのも初めてではないだろう。


 扉を開ける音がする。目蓋を空けて振り返ると、蓮がいた。


「待たせたな」


 セラは軽くかぶりを振って、澪は無言のまま視線を下げた。


「それで、私と澪を呼び出して何の用かしら?」


 ぶっきらぼうな言い方に聞こえるかもしれないが、別に他意はない。これがセラの普通なのだ。

 一方で澪は、賑やかではない場所で蓮と向かい合うことがまだ苦手な様子だ。手摺りに背を預けたまま、身を守るように腕を固く組んでいた。


(少しは兄妹の仲も深まっているのかと思ったけれど、あくまでも皆がいる前だけみたいね)


 セラがそう思い、蓮もその様子から何かを察したように澪から少し距離を取った。

 夜代兄妹の関係は少し特殊だ。一度離れた心の距離は、そう簡単には縮まらない。それでも二人なりに努力をしているようだったが、もう一歩足りないようだ。

 しかし、それは今話すべきことではない。蓮は澪を一瞥してから、セラに向けて言った。


「――次の、目的地のことだ」


「もう決まっているの?」


「ああ」


 その眼差しは真っすぐだ。

 蓮は昔、自分の意見というものを表に出さないような臆病な人間だった。しかし遠静(えんじょう)鈴華(すずか)との出会いをきっかけとして、一年ほど前から彼は劇的に変わった。

 スズカ、セラ、澪、ルドフレアをメンバーとするチームのリーダーとして先陣を切り、損な役回りを引き受けてきた。


 その中で全員に辛い選択を強いることもあった。彼は問う。――お前の覚悟は決まっているか、と。

 そして、その問いを投げる時は決まって真っすぐに相手を見つめる。今と、同じように。


「次は青森にある――アルフレドの研究施設に向かう」


「ッ――」


 アルフレド、という名前にセラはほぼ反射的に反応した。それから見開いた目を徐々に鋭くして問う。


「なぜ?」


「過去、あの施設で『ヘヴンズプログラム』の名前を見たことがある」


「ただの気のせいって線は?」


「否定はしない、が、他の手掛かりもないからな。どんなに僅かな可能性でも見逃せない」


 蓮は一呼吸おいてから言葉を続けた。


「それで――セラと澪には、東京に残ってもらいたい」


「は――?」


 これまで黙っていた澪が声を上げ、セラもすぐに言葉を紡ぐ。


「どういうこと? アルフレドの研究所だからと言って気を遣っているのかしら? 私はもうあいつの呪縛から解放されて――」


「そうじゃない。二人には東京に残って、『K』の動きを探って欲しい。ヤツがまた東京で動く可能性はある。『ダーカー』のこともあるし、反抗組織が動く可能性もな」


 そんな可能性がほとんどないことなどすぐに判った。そして蓮の本当の目的も。嘘を吐いているわけではないが、しかし語らない真意があるのは事実だ。

 それでいてその眼に迷いはない。それは相手のためになると確信したエゴの押し付けか、または――単に相手を見ていないだけなのか。


「何日で戻るんだよ」


「予定では往復で一日。調査に最大で四日といったところだ」


「……そっか、分かった」


 澪はそれ以上何も言わず、静かにこの場を去った。


「………」


 蓮たちが研究所へ向かったあとの東京では何も起こらない。そうなると偵察の名目で東京に残った二人に何があるのか。答えは簡単だった。

 何も起こらないということは、誰とも戦わないということ。

 そう、セラと澪は『平和な日常』というものを四日間も送ることができるのだ。

 それが、それこそが――蓮の目的。


「セラは……どうだ?」


 セラも、澪も、他人によって『平和な日常』を奪われ、そして今まさにそれを取り戻すチャンスが目の前にぶら下げられているのだ。


 セラは『スズカの記憶のため』という理由を除けば、戦う理由がない。世界の命運は確かに大事だが、そもそもとしてセラはそんな大業を背負うような義務感を持っていない。

 澪もまた、記憶を失う前のスズカと面識があるわけでもなく、世界を解放したいという気持ちが強いわけでもない。

 つまり二人とも胸を張って言える『戦う理由』というものを持っていないのだ。


 だから蓮は、一度ゆっくりと考えろと言っている。


「卑怯よ。だって私や澪が戦っているのはアンタがまだ諦めてないから! スズカの記憶を取り戻せると信じてまた傷だらけになっているからなのよ! それなのに……どうして……」


 セラの中の冷めた自分がこう囁いた。『それは結局、戦う理由を蓮に押し付けているだけじゃないのか』と。図星だ。だから余計に否定したくなった。

 

 セラは心のどこかで思っていたのだ。この辺りで一度、戦う理由を見直すべきなのではないかと。

 それは暗にスズカの記憶を諦めていることを認めてしまっているのかもしれない。

 ――自分はなんて最低なんだろう。そう、セラは唇を噛む。


「……すまない。だが考える時間も必要だと思ったんだ」


 夜代蓮――。彼はいつも誰かに支えられて、困難に直面する度に折れそうになりながら、それでもセラや澪、ルドフレアを救ってきた。だが、そんな彼の目は、今にも何かを諦めてしまいそうに見えた。


 辛いのは蓮も同じだ。二年間の戦いの中で彼は、時に仲間を失い、時に自分(しき)を失い、時に期待を裏切ってきた。

 何よりも、一番初めの約束――スズカの記憶を取り戻すという誓いを、ずっと果たせずにいる。

 彼も彼なりの苦しみを抱えているのだ。


 それを理解した瞬間、血の気が引いていくような感覚を覚えて、たった一言、その言葉だけで感情のすべてを塗りつぶされていた。


「……ごめんなさい」


 逃げるように、セラは扉を開けて館内へと入った。

 その際、渇いた唇を潤すように舌でなぞると、まるで涙のような塩の味がした。


 午後、全員がリビングへと集まった。スズカがいつも通りお茶を用意し、黒乃(くろの)とフィーネがそれを手伝う。今日はハーブティではなく日本茶だ。特に理由はない。

 全員の手にお茶が行き渡ったのを確認し、(れん)はブリーフィングを始めた。


「早速だが次の目的地が決まった。俺たちはキャラバンを使い青森に行く」


「それはまた随分な遠出だな。目的は?」


 ヴォイドの質問に、蓮は先ほどセラと(みお)に話したことをそのまま伝える。


「青森のほぼ中心点にある山の中には、アルフレド・アザスティアの研究所が隠されている。目的はその研究所だ。以前そこで『ヘヴンズプログラム』の名前を見たことがある」


 あらかじめ話を聞いていたセラと澪以外の表情が変わる。特に黒乃だ。自身に秘められた未知の力、それを知るための手掛かりが現れたのだから当然の反応だろう。


「だが当時、この時代から見れば数年後の未来では、研究所は既に廃棄されもぬけの殻だった。『ヘヴンズプログラム』と書かれた資料も僅かな紙片に過ぎず、それ以上の情報は得られなかったが、どの魔術にも該当しないソレの情報があったことは事実だ。もし解析に成功すれば『K』に対抗する手段も判明すると思われる。よって、俺たちは青森へと向かう」


「待て。この時代の研究所が既に廃棄されているという可能性は?」


 ヴォイドが疑問を提起する。


「無事を証明できるものはない。だが腐ってもあそこはアルフレドの研究所だ。ここにある装置よりも黒乃に宿る『ヘヴンズプログラム』の解析ができると思われる。もちろん無駄足になる可能性はあるが、次の手がかりがない以上は、とにかく動くしかない。それでいいか?」


 全員が頷く。蓮の言う通り、次の手がかりはない。姿を消した『K』が次にどのような行動を起こすかは不明だし、もしまた戦うことになればあの男への対抗手段が必要になる。

 ――黒乃の、『ヘヴンズプログラム』が。

 人数では勝っていても、実力や情報においてはまだ『K』の方が上手と言える。なら、世界の未来を取り戻すためにも、何としても反撃の手札を増やさなければならない。


 そして――蓮は言葉を続けた。


「なお今回、澪とセラは東京に残ってもらい『K』の動きや他のエルネストについて探ってもらう。既に二人には了承してもらっている」


「そうなんだ。頑張って、二人とも!」


「ああ、サンキュー」


「ええ」


 黒乃の応援の言葉に、二人は軽く返事を済ませた。


「とりあえず俺からは以上だ」


 蓮はルドフレアに視線で合図をする。


「じゃあ、こっからはボクからの報告だよ。『モノクローム』の地下駐車場でミオが破壊した機械兵のパーツ解析が終わったんだけどね、案の定――『ダーカー』で使われるパーツとコアの欠片を検出したんだ」


 ルドフレアは珍しく声のトーンを幾分落として話を続ける。


「『ダーカー』とはなんですか?」


 フィーネが訊く。その質問にはセラが答えた。


「『ダーカー』とは二〇一〇年後半に実戦投入され、たった半年で『アセンブリー』から製造と使用を禁止する条約が発表された、曰く付きの魔術機械兵よ。一機で並みの魔術師を百人殺すと言われた悪魔の兵器で、私たちも何度か戦ったことのある途方もない兵器」


 ルドフレアが重い表情で頷く。いつもハイテンションでムードメーカーなところがある彼だからこそ、不意に見せるそれに説得力がある。『ダーカー』――悪魔の兵器。


「どっかの馬鹿がテロを起こす時は、大体こいつを作ろうとするんだよ。死神みたいに黒い鎌を両手に付けて、火、水、風、雷とか大体の魔術は使えてさ。製造にはそれなりのコストがかかるけど、それを考慮しても『殺しのコストパフォーマンス』がいいのさ」


「『ダーカー』の性能がどれほどのものかは、みんな分かったよね。ボクも一人の科学者としてとても恐ろしく思うよ。で、察しはついていると思うけど、ボクとミオが相手をしたアイツは『ダーカー』のプロトタイプだ。もしまた『K』と戦うことになったら、今度はモノホンが出てくる可能性だってあるってこと。レンやミオたちはそれなりに相手してきたから一応単独でも撃破できるけど、クロノやヴォイドたちは無理に戦おうとしないでね」


「分かった」


「ああ、留意しよう」


 黒乃とヴォイドが頷く。


「でも戦場は理不尽だ。きっと戦いを避けられない場合もあると思う。もしどうしても戦わなければならなくなった場合は、頭部を一瞬で落とすか、内部のコアを凍結させて無力化させて欲しい。『ダーカー』のコアは高濃度の魔力が圧縮されたもので、動力であり強力な爆弾にもなるんだよ。特攻兵器にもなるってわけだね。それを起動させないためには、コアそのものを無力化するか、回路を切るしかない」


「その回路をまとめて断てるのが首というわけよ」


 『ダーカー』は人型の機械だ。その命令系統は人間と同じように頭部にある中枢システムからの命令で行動するようになっている。つまり脳を潰せば命令を出す機構が消えて無力化できる、というわけだ。


「その点で、ミオがプロトタイプを『魔弾(まだん)』で凍結破壊したのはファインプレーだったよ!」


「『魔弾』?」


「アタシの魔術さ。――銃は剣より強い、ってね」


 澪は親指と人差し指を拳銃に見立て、銃口にふっと息を吹きかけた。


「でもぶっちゃけ、無効化したら下手に破壊とかしない方がいいからね。あのプロトタイプは爆弾になるほどの魔力が込められてなかったから大丈夫だったけど! ま、とにかく『ダーカー』には注意してって話だ! ボクからは以上!」


 普段の活気を取り戻したルドフレアは満面の笑みを浮かべて、お茶を一息で飲み干した。


「――では話は以上だ。他に何かあるものは……いないな。よし、早速だが俺たちは研究所に向けて出発する。二人とも、いいな?」


 蓮はセラと澪に視線を投げた。


「ええ、荷物なら整っているわ」


「右に同じ」


「何かあったら連絡する」


 二人は自分に言い聞かせるように何度か小さく頷いて、リビングを後にした。

 それから数分してキャラバンは東京の街を出発する。目的地は青森。アルフレド・アザスティアの研究所。

 『K』に対抗する手段――『ヘヴンズプログラム』に関する情報を求めて、旅は続く。


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