93 とある昼下がりの決断
オレはこの話にケリをつけたかった。
理由もわかったことだし、いつまでも引きずりたくはない。
悟は今回自分がしたことについて正直に話してくれたし、ちゃんと謝ってくれた。
それを悟の本心と信じたい。
いや、信じよう。
オレは悟の話、というか願いを最後まで聞かずに、答えを告げた。
「じゃあ、許す!」
皆は驚いた表情で口々に「えっ」と発しながら、一斉にオレを見た。
オレは続ける。
「安心しろ、悟。警察にも学校にも言わないよ。警察とか学校とかそういう問題じゃないんだよ。オレの気持ちの問題なんだ。
ケガもなかったことだし。大事にしなくても、友人同士の悪ふざけっていうことでいいんじゃないか?」
「それでいいのですか?」
そう言って、倉井は眼鏡の端を左手でクイッと上げる。
「本当に?」
悟はオレの言葉を確かめるように、しかし小声で言う。
それに対し、オレはハッキリとした口調で答えた。
「ちゃんと謝ってくれたし、もうしないと誓ってくれた。だから許す」
そして愛優ちゃんにも確認する。
「愛優ちゃんもそれでいい?」
彼女はにっこりと笑って言った。
「私はいいと思う」
「サンキュ」
オレは愛優ちゃんに微笑みを返す。
そして悟に言っておきたいことを言うことにした。
「それと。これからはなにか不満があったら、ちゃんとオレに直接言ってくれ。聞く耳は持ってるから」
悟はゆっくりと頷いた。
オレは続ける。
「それに、誰かを羨ましい、嫉ましいと思ったら、相手を蹴落とすんじゃなくて、自分が相手より上に行くための努力を惜しまず、頑張っていくことの方が大事だし、建設的だよ」
「全くもってその通りですね」
倉井は眼鏡の端を左手でクイッと上げる。
「それから……」
オレが続けて言おうとすると、「まだなにか?」と倉井が聞いてくる。
倉井の方にこくりと頷き、オレは悟に向かってキッパリと言い切った。
「これからも良き友人であり、ライバルでいてくれよ」
オレの言葉を聞いて、悟の頬に透明なものが流れてゆく。
その様子を見て、解ってくれたのだとオレは安堵した。
しばらく噛みしめるように泣いていた悟だが、顔を上げ、震える涙声でオレに問う。
「あんなことをしたのに許してくれるのか? しかもまだ友だちだと言ってくれるのか?」
オレの返事は決まっている。
「あったり前じゃん。名前の通り、オレは器の小さいことは言わないよ」
「ふふふ。『空』くんだもんね」
「広大ですねぇ」
冗談っぽく言ったけど、こう思えるのは兄貴のおかげかもしれない。
オレはいつも兄貴の背中を追いかけて生きてきたんだ。
兄貴の聡明さ思慮深さ、他にも……そして自分に厳しく、他人には優しい。そんな兄貴はオレの自慢であり目標だ。
兄貴が名前の通り『海』の広さで周りを見つめるなら、オレは『空』だ。
小さいことはいちいち気にしない。
それよりも、もっと前向きに進んで行きたい。
「……ありがとう」
悟はとうとう泣き崩れてしまった。
それを見て愛優ちゃんは「あら、まあ」と、倉井はふうと息を吐いた。
オレは空気を変えるべく明るく言う。
「じゃあ、そういうことで。今後もよろしく」
オレが悟の肩をポンとたたくと、悟は顔を上げ「おう。こっちこそよろしくな」と笑ってみせた。
その後は4人で楽しく喋った。何事もなかったかのように。
その帰り道……。
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