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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第6章 転機
93/150

 93 とある昼下がりの決断

 オレはこの話にケリをつけたかった。

 理由もわかったことだし、いつまでも引きずりたくはない。


 さとしは今回自分がしたことについて正直に話してくれたし、ちゃんと謝ってくれた。

 それを悟の本心と信じたい。

 いや、信じよう。


 オレは悟の話、というか願いを最後まで聞かずに、答えを告げた。


「じゃあ、許す!」


 皆は驚いた表情で口々に「えっ」と発しながら、一斉にオレを見た。

 オレは続ける。


「安心しろ、悟。警察にも学校にも言わないよ。警察とか学校とかそういう問題じゃないんだよ。オレの気持ちの問題なんだ。

 ケガもなかったことだし。大事おおごとにしなくても、友人同士の悪ふざけっていうことでいいんじゃないか?」


「それでいいのですか?」


 そう言って、倉井は眼鏡の端を左手でクイッと上げる。


「本当に?」


 悟はオレの言葉を確かめるように、しかし小声で言う。

 それに対し、オレはハッキリとした口調で答えた。


「ちゃんと謝ってくれたし、もうしないと誓ってくれた。だから許す」


 そして愛優ちゃんにも確認する。


「愛優ちゃんもそれでいい?」


 彼女はにっこりと笑って言った。


「私はいいと思う」


「サンキュ」


 オレは愛優ちゃんに微笑みを返す。

 そして悟に言っておきたいことを言うことにした。


「それと。これからはなにか不満があったら、ちゃんとオレに直接言ってくれ。聞く耳は持ってるから」


 悟はゆっくりと頷いた。

 オレは続ける。


「それに、誰かを羨ましい、嫉ましいと思ったら、相手を蹴落とすんじゃなくて、自分が相手より上に行くための努力を惜しまず、頑張っていくことの方が大事だし、建設的だよ」


「全くもってその通りですね」


 倉井は眼鏡の端を左手でクイッと上げる。


「それから……」


 オレが続けて言おうとすると、「まだなにか?」と倉井が聞いてくる。


 倉井の方にこくりと頷き、オレは悟に向かってキッパリと言い切った。


「これからも良き友人であり、ライバルでいてくれよ」


 オレの言葉を聞いて、悟の頬に透明なものが流れてゆく。

 その様子を見て、解ってくれたのだとオレは安堵した。


 しばらく噛みしめるように泣いていた悟だが、顔を上げ、震える涙声でオレに問う。


「あんなことをしたのに許してくれるのか? しかもまだ友だちだと言ってくれるのか?」


 オレの返事は決まっている。


「あったり前じゃん。名前の通り、オレは器の小さいことは言わないよ」


「ふふふ。『空』くんだもんね」


「広大ですねぇ」


 冗談っぽく言ったけど、こう思えるのは兄貴のおかげかもしれない。

 オレはいつも兄貴の背中を追いかけて生きてきたんだ。

 兄貴の聡明さ思慮深さ、他にも……そして自分に厳しく、他人ひとには優しい。そんな兄貴はオレの自慢であり目標だ。


 兄貴が名前の通り『海』の広さで周りを見つめるなら、オレは『空』だ。

 小さいことはいちいち気にしない。

 それよりも、もっと前向きに進んで行きたい。


「……ありがとう」


 悟はとうとう泣き崩れてしまった。

 それを見て愛優ちゃんは「あら、まあ」と、倉井はふうと息を吐いた。

 オレは空気を変えるべく明るく言う。


「じゃあ、そういうことで。今後もよろしく」


 オレが悟の肩をポンとたたくと、悟は顔を上げ「おう。こっちこそよろしくな」と笑ってみせた。

 その後は4人で楽しく喋った。何事もなかったかのように。

 


 その帰り道……。



お読み下さりありがとうございました。


次話「94 とある昼下がりの」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。何と犯人は…意外と近しい関係の方が深い思いを抱いたりすることもあるのかも知れませんね。 でも、危ないこと、いけないことでもあって。それでも許そうとする空は、文字通り「…
[良い点] 予想外の身近な犯人に愕きましたが、これにて一件落着でしょうか。 空くんの相変わらずの懐の深さに見ていて気持ちの良い主人公だなと感じさせられます。 個人的に89話の倉井君の「企業秘密です」…
[良い点] 93 とある昼下がりの決断 読みました。 取り敢えず丸く収まって良かったです。 心の広さは大切ですね。 [気になる点] 続きです。(^-^) 帰り道にまた事件が起こるのか……? というとこ…
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