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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第6章 転機
92/148

 92 とある昼下がりに

 友人だと思っていたさとしがオレと愛優ちゃんを危ない目に遭わせた。


 悟は理由は2つあると言った。

 ひとつは、友人であるオレとクラスの男子憧れの的である愛優ちゃんが、仲良くなっていくのが羨ましくも嫉ましかったのだと。

 それは悟も愛優ちゃんに好意を持っていたからだ。


 そしてもうひとつは、地方大会初戦から2年生ながら『エースで4番』を任されたオレに、嫉妬したということだ。


 悟はベンチ入りは果たしたものの、結局甲子園終了まで出番はなかった。

 だからあの日。交差点でオレではなく愛優ちゃんを押した、と。

 なぜオレじゃなく彼女を押したのか。


 それはオレの性格上、咄嗟とっさに彼女を助けるだろうと思ったから。

 ついでにケガのひとつでもしてくれれば、自分にも試合出場のチャンスが巡ってくるかもしれないと考えたからだということだ。


 羨ましく嫉ましい気持ちは解る。


 でも。


 だからといって、その相手を傷つけていい理由にはならない。

 幸い大事にはならなかったけど、一歩間違えれば大けがをしていたかもしれない。

 それに友人だと思って信用していた人間が、そんな気持ちであんなことをしたなんて、オレ達のこころは傷ついた。


 オレにも悟には言っていないことで、いろいろと悩んだり苦しいこともあるのに。悟には、オレが何もかも順調だと見えていたらしい。それが羨ましくも嫉ましかった。それを少しだけ壊したいと思ったということだ。

 大ケガをさせるつもりはなかった、ただ、少し怖い思いをさせたかっただけだと悟は力説していた。



「友人だと思ってたのに。そう思っていたのはオレだけだったようだな。残念だよ」


 オレが静かにそう言うと、悟は言葉を失ったように苦い顔で唇を噛んだ。

 愛優ちゃんは少し眉をハの字にし、俯いてじっとテーブルの一点を見つめている。

 倉井は「仕方がないですね」と発した。


 すると悟は「そう言われても仕方がないけど、俺は空を友人だと思ってたよ」と呟いた。


「じゃあどうして?」という倉井の問いに「友人だからだよ」と悟は呟いた。


 友人だから羨んだり嫉妬するのは、まあ、解るとしても。友人だから危ない目に遭わせるというのは理解できない。

 しかし悟は友人だという言葉を選択した。


「意味わかんねぇよ」


 オレは言った。


「友人だと危ない目に遭わせてもいいということですか?」


 そう言って、倉井は眼鏡の端を左手でクイッと上げる。


 悟は、全く関係ないヤツだったら、然程さほど気にはしなかったと。

 仲の良いオレだから、自分だけ置いてけぼりにされた気がして、悔しかったと言った。


 オレはなんだか複雑な心境になったが、正直に語った悟の話を聞いて、しばらく考えた。

 そして決めた。


「ちゃんと謝ってくれよ。そして、もう二度としないって誓ってくれよ」


 オレはこの話にケリをつけたかった。

 理由もわかったことだし、いつまでも引きずりたくはなかったからだ。


「ごめん。もうしないよ」


 悟は少し間を置いて、ハッキリとそう言った。


「絶対だな。信じていいんだな」


「ああ。約束する。だから警察と学校には言わないでくれ。野球部を退部になったら俺……」


 オレは悟の話を最後まで聞かずに、答えを告げた。



お読み下さりありがとうございました。


空は悟になんと告げたのでしょうか。


次話「93 とある昼下がりの決断」もよろしくお願いします!


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― 新着の感想 ―
[良い点] 92 とある昼下がりに 読みました。 なんだかとても共感できるお話でした。 大抵、後ろ向きなことを口にせず順調そうに見える人こそ、色々抱えていたりするものなのに……。 これから彼らの関係が…
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