88 簡潔に!
まあ、倉井の言いたいことも解るけど、オレの件と高校野球界で注目されている選手の件とでは、ちょっと違う気もするけれど。
と、そこで倉井は続けた。
「そこでですね。他の方との件と空くんの件を比較してみまして……」
これは長くなりそうだと、オレは口をはさんだ。
「難しい話はいいからさ、考察の結果を聞かせてくれる?」
倉井は眼鏡の端を左手でクイッと上げる。
「そうですね。よろしいですよ」
倉井が答えると、オレはすかさず言う。
「簡潔に!」
倉井の話は説明が多く、小難しい場合が多い。
頭の良いヤツだが、かみ砕いて話してくれるから内容は理解しやすいのだけれど、とにかく長い。
それがネックだな。
すると倉井は小さく頷き、眼鏡の端を左手でクイッと上げる。
そして大きく息を吸い込んで、一気に話した。
しかし倉井の話は驚くほど簡略化されていて、しかも解りやすいものだった。
いつもこうならいいのに、と思ったのはきっとオレだけじゃないだろう。
隣で話を聞いていた愛優ちゃんも、えらく感心しているというか、ホッとしたような表情を浮かべているから。
「なるほど」
やはりオレと高校球界の注目選手との件は、関係なさそうだ。
同じような状況だったのでどうなのかと思ったが、倉井の調査の結果、オレに対しての妬みであることは確かなようだ。
てか、凄い調査網というか、どうやって調べたのかが謎だけれど。
倉井の話では、オレや愛優ちゃんを危ない目に遭わせた人物に、大体の見当がついたということだ。
「なんだって!」
「そうなの?」
オレも愛優ちゃんも、少々興奮気味で聞き返した。
「はい。多角的に考察し、聞き込みを行い、それらを整理しながら突き詰めた私の独自調査によりますと、ほぼ間違いないかと」
倉井は自信ありげに眼鏡の端を左手でクイッと上げる。
「それで?」
オレが聞くと倉井は「誰がやったかということですか?」と聞き返す。
そんなにもったいつけなくても。
「そうだよ」
「それを聞いてどうしますか?」
真剣な面持ちで尋ねる倉井に、オレは正直な気持ちを話した。
「別に相手にどうのこうのっていうんじゃないんだよ。ただ、オレも愛優ちゃんも危ない目に遭って、怖い思いをした。しかも自分たちの不注意ではなく、誰かが故意にとった行動でだ」
「そうですね」
「だから、その理由を知りたいんだよ」
「理由ですか」
「そう。なぜ、オレと愛優ちゃんにああいうことをしたのか、その理由を」
「聞いてどうするのですか?」
「どうもしないよ。ただ、知る権利はあるんじゃないかな」
「もっともですね」
ここでオレは愛優ちゃんにも聞いてみた。
「愛優ちゃんはどう思う?」
「私?」
突然話を振られて驚いたような色を滲ませたが、彼女はキッパリと放った。
「倉井くんが言いたくないのでなければ、ぜひ聞きたいわ。空くんに賛成です」
愛優ちゃんの真剣な言葉を聞いて、倉井は「解りました」と眼鏡の端を左手でクイッと上げる。
「実は……」
倉井はゆっくりと話し出した。
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