86 ロッカールームにて
あの交差点での件から数日後、オレはまた部活に励んでいる。
全国高校野球選手権大会、つまり夏の甲子園大会は終了し、大方の予想通り、優勝候補と謳われていた高校が優勝を飾った。
惜しくも準優勝になったチームは、当初、早々の敗退だと殆どの人間は想像していただろう。
しかしひとつ、またひとつと勝ち進み、ピンチが訪れても粘り強く最後まで諦めない姿勢は、次第に観客を魅了し、いつしか話題のチームとなっていった。
それはオレ達のチームが目指すところでもあり、オレもいつの間にかそのチームを応援していた。
準優勝に悔し涙を流す者もいたが、オレにしてみれば、そこまでたどり着けたことは誇りに思うべきことだと思う。
しかしいくら誇るべき準優勝だとしても、試合で負けて得られるというところに、ジレンマがあるのかもしれない。
その悔しさをバネに、次はもう一つ上を目指して頑張るしかない。
オレ達のチームは『高校野球秋季大会』を目指して練習をしている。
それはその後に開催されるセンバツへの出場切符を手に入れるためだ。
秋季大会で優勝して、春のセンバツ高校野球大会への出場を果たす。
それがオレの、チームの、今の一番の目標であるからだ。
甲子園で負ったケガの回復も順調で、現在は普通に練習するにはなんの問題もない。先日の交差点で愛優ちゃんをかばって背中から倒れ込んだときに、少しぶり返した感はあったが、それも今では殆ど感じないほどになっている。
練習が終わり、部室のロッカールーム内にあるシャワーで軽く汗を流す。
こういうとき、スポーツにも力を入れている高校で良かったと思う。
設備は整っているし。
この姿薔薇紫高校の野球部に入れて良かったな。
その後、シャワールームから出て、ロッカー前で着替えていると、後ろのベンチでチームメイトが話しているのが耳に入った。
「なんか最近ちょくちょく耳にするよな」
「しかも名門校のエースだとか、強力なバッターばっかだって」
「強くなりたいとは思うけど、狙われちゃあなぁ」
オレは最後の言葉にひっかかった。
「今の話、詳しく聞かせてくれよ」
ふたりが話していたベンチの所まで行って、横に座って聞いてみる。
「空、知らないの?」
ひとりが発した言葉に、「ああ」と頷く。
するともうひとりが話し出した。
「実はさぁ、あの甲子園大会の頃から、強豪校の目立つ選手ばっかりが狙われてるらしいんだよ」
「狙われてる?」
オレは聞き返す。
「そう。甲子園で目立ったり人気がでたりと、話題になった選手がさ」
そこで彼は少し口ごもる。
「選手が?」
オレは続きを促した。
「交差点で突然押されたり、電車のホームで突かれたり。大事にはならない程度らしいけど」
「それって!」
オレは驚いた。
最近オレが体験したことばかりだからだ。
「そう。妬みかな。よく解んないけど」
「それで犯人は?」
「本人や目撃者の話から、特徴はある程度解っているらしいけど、個人の特定までにはいたっていないらしいよ」
「そっか」
オレを、愛優ちゃんを押したヤツと同じなのだろうか。
一体なぜそんなことをするのだろう。
その理由を、オレは知りたいと思った。
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