79 とある日の午後
オレの大きな頷きに大笑いしている愛優ちゃんを見ていて、『ずっとこんな風に隣で笑っていてほしい』という思いが過る。
彼女の笑顔を見ていたい。傍にいてほしいと。
だけどシャイで奥手で硬派なオレは、愛優ちゃんとの縮まりそうでなかなか近づけない微妙な距離に、自分でも振り回されている感は否めない。
そんなことを思いながらも少し歩き出したとき、愛優ちゃんが口を開く。
「これからどうしよっか」
「そうだな」
オレは時間を確認した。
お昼をとっくに過ぎている。どうしようと言われても、何も浮かばない残念なオレ……。
「なんか予定とかある?」
「特にないけど」
今日の日の計画のためにいろいろ案を練ったけれど、兄貴達と別れて愛優ちゃんとふたりになるなんて想定外の出来事で、これからどうしようかなんて急に言われても何も浮かばない残念なオレ。
「ちょっとお腹すかない?」
彼女の問いかけに、お腹の虫がぐうと答える。
「確かに」
そう言ってふたりで顔を見合わせて笑い合った。
「じゃ、軽くなにか食べに行きましょうか」
「さんせーい」
とは言ったものの、どこで何を食べればいいのか。
当てもなく歩き出したオレ達に真夏の太陽は容赦なく照りつける。
「どこ行く?」
オレは愛優ちゃんに聞いてみた。
どこか行きたいところがあれば、愛優ちゃんの意見を尊重しようと思ったからだ。
「そうねぇ」
うーんと考え込む彼女に「何か食べたいものとかある?」と聞くと、「空くんは?」って。
「オレは別に」
「じゃあ、帰る?」
そ、そんなぁ。
せっかくふたりで食事ができると思ったのに。
「え? 帰りたいの?」
思わず口から出た言葉。
「そういうワケじゃないけど。こう暑いと食欲もわかないね」
それもそうだな。
そこでオレは閃いた。
「じゃあ、ざるそばとか食べる?」
「それいいね!」
でも。この辺にそば屋なんてあったっけ?
オレは頭の中をくるくる回して近くのそば屋を探した。と、その時。
「こっちこっち」
そう言うと彼女はまたもやオレの手首を掴んで、颯爽と歩き出した。
「え、ちょ、ちょっとどこ行くの?」
オレが思わず聞くと、「いいからいいから」と彼女はにっこり笑うだけ。
いや、でもね。
でもね、お嬢さん。今日2回目のボディータッチに流石のオレも動揺を隠せないんですが?
なにをそんなに涼しい顔でサッサと歩みを進めているのですか?
相変わらず彼女に引っ張られるように、おぼつかない足元で歩くオレ。
周りから見るとどう映っているのだろう。
少し恥ずかしい気もするが、ちょっと慣れてきた気もする。
とにかく、どんな状況だったとしても、オレの顔は思いっきりニヤけているに違いない。
だって、愛優ちゃん、オレはあなた様をお慕い申し上げているのですから。
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