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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第5章 気力
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 77 意表をつく返答

「俺がアメリカに行くなと引き留めたら、優希さんは夢を諦めるのか?」


 重苦しい雰囲気の中、オレがこの場で皆を引き合わせたのが間違いなのか、と不安がよぎる。

 兄貴の問いかけに、優希さんはどう答えるのだろう。

 そして優希さんの答えを聞いて、兄貴はなにを思い、どう応えるのだろう。


うみくんはどう思う?」


「え?」


 眉間にしわを寄せて、兄貴は聞き返す。


「海くんが行くなって言うと、私はどうすると思う?」


 優希さんの返答は意表をつくものだった。

 それを聞いて、兄貴はしばらく優希さんを見つめていたが、一度目線を下に落とし、そしてもう一度優希さんの目を見据えて答えた。

 

「それを俺に聞いてどうする」


 オレと愛優ちゃんは、ふたりが喧嘩してしまうのではないかとハラハラしながら行方を追いかけている。

 

 すると優希さんはフッと笑みをこぼし、「それが私の答えよ」と放った。


 兄貴は一瞬目を細めたが、「そうか」と返した。


 オレにはふたりの会話の意図がさっぱり理解できない。

 てか、ふたりはこれでお互いの言いたいことが解ったのか?

 超能力者か! とツッコミを入れたい気分だ。


「オレ、どういうことかさっぱり解らないんだけど、ふたりはお互いの気持ちが解ったの?」


 オレは率直に聞いてみた。

 すると優希さんがふふふと笑いながら答えてくれた。


「引き留められれば嬉しいわよ。それだけ想われているって確認できたようで。でも、それで夢を諦めるかというと、それはないわ。お互いの気持ちを尊重しつつ、それぞれの道を歩んでゆく」


「それでふたりの気持ちが離れたりはしないの?」


 オレには未知の領域だから、聞きたいことが沢山ある。


「それで夢を簡単に諦めてしまうようなひとなら、俺は好きになっていなかったと思うよ」


 兄貴の言葉に「ふうん。そんなもんなのかぁ」と返しつつも、半分解ったような解らないような。

 それを察したのか、兄貴は続ける。


「要するに、恋愛が人生の全てではなくて、人生の一部ってこと」


「人生の一部?」


「そう。ひとそれぞれに人生を歩んでいく。その中で家族と過ごしたり友だちと過ごしたり、仕事や学校で勉強をしたり趣味に励んだり遊んだり」


「うん」


「恋愛もその人生の一部ってことだよ。確かに誰かを好きになって、そのひとを大切に想い、ともに歩んでいきたいと考えるのは素晴らしいことだし、そんな風に想える相手にめぐり逢えることは奇跡に近い。だけどそれだけが全てじゃない。」


「それぞれに自分の人生を生きながら、お互いを尊重しつつ、想い合えるっていうことが大事なのよ」


 なんと! 目からうろこだった。

 正確には目から鱗が落ちる、というのだろうが。

 愛優ちゃんも兄貴と優希さんの言葉に目を丸くしている。

 きっと彼女も目から鱗だったのだろう。


「ま、高校生のふたりにはまだ早いお話かな?」


「なんだよ、兄貴。3歳しか違わないじゃないか」


 と言いつつも、大学生って大人なんだなと感心することしきり。



お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。兄と姉のことを想っての、空と愛優の作戦。無事に四人でカフェに行くところまでうまくいって、そこからはこちらまで見守る側になって引きこまれました。 優希は、しっかりとした…
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