76 これからが本番だ
運良くというか、愛優ちゃんとの計画通り、オレと兄貴は涼風姉妹と愛優ちゃんお薦めのカフェで会うことができた。
偶然の出会いに兄貴も優希さんも嬉しそうだ。
たわいない話でも、4人で過ごす時間は楽しくて。
このままずっとこれからもこんな時間が続くんじゃないかと錯覚してしまうほどだ。
先日、兄貴は自分の本心を隠して、大好きな優希さんの夢を応援したいと笑顔で言った。
オレは兄貴の気持ちを尊重したいし、応援したいと思っている。もちろんそんな兄貴を尊敬もしている。
だけど、ふと思ったんだ。優希さんはどう思っているのだろうかって。
そして愛優ちゃんに聞いてみると、『女子の立場から言うと、夢を追いかけたい気持ちはすごくあるし、実現したい。でも、好きなひとには引き留めてもらいたい気持ちもある』との答え。
きっと兄貴のことだから優希さんの夢を応援することを優先して、自分の気持ちに蓋をしているのだろうと考えたオレは、みんなでワイワイと会話しながら、優希さんの本心を兄貴にそれとなく伝えたいと考えた。
これまでのところは順調に進んでいる。
まずお互いの近況から話は始まり、優希さんの留学の話になった。
引っ越しの準備は進んでいるかとか、アメリカのどのあたりなのか、とか。
それからオレは意を決して言ったんだ。
「優希さんはもし兄貴が引き留めたら、どう思うの?」
一瞬、場の雰囲気が凍ったように感じたけれど、それは仕方ない。
聞きにくいことを聞いているのだから、答えにくくて当然だし。
だけど優希さんは笑顔で応えてくれた。
「そりゃあ引き留められれば嬉しいわよ」
やっぱりそうだったのか。
男には解りづらい乙女心。愛優ちゃんの察し通りだな。
「え、そうなのか?」
兄貴には優希さんの返事が意外だったのか、眉をハの字にして聞き返している。
「まあね」
優希さんは、ふふふと笑みを零す。
「だよねー」
と愛優ちゃんとオレは同意した。
次に兄貴がどう言うかが問題だな。
引き留めるのか否か。
「俺が……」
兄貴の言葉に皆が注目して続きを待った。
「俺が引き留めたら、優希さんは留学を止めるのか?」
オレはゴクリと唾を飲んだ。
「え」
僅かな声量で発して、優希さんの表情がみるみるうちに曇っていく。
「俺がアメリカに行くなと引き留めたら、優希さんは夢を諦めるのか?」
兄貴の真剣な眼差しに、抑えた声色に、場に一気に緊張が走る。
優希さんはどう答えるのか。
そしてその答えを聞いて、兄貴はなにを思い、どう応えるのだろう。
重苦しい雰囲気の中、オレがこの場で皆を引き合わせたのが間違いなのか、と不安が過る。
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