74 優しい兄貴
数日後、オレは愛優ちゃんとの計画通り、兄貴と駅前に出かけた。
愛優ちゃんお気に入りのカフェに兄貴を連れて行くつもりで。
そう。そこで偶然にも涼風姉妹と遭遇するという手はずだ。
* * *
兄貴を連れ出すのには骨が折れた。
「なあ、兄貴。駅前にオシャレなカフェがあるから、行ってみない?」
「はあ? こんな暑い日にわざわざカフェに行くために出かけるのか?」
「そのお店の雰囲気がいいから、兄貴にも見せたいなと思って」
「じゃあ、夕方に行こう」
「いや、今行こう」
「飲み物なら家で飲めばいいじゃないか」
「愛優ちゃんに教えてもらった、彼女のお気に入りのお店なんだ」
「ふうん。それで?」
「いつも彼女はアイスココア、オレはアイスコーヒーを注文するんだけど、今度彼女と行くまでに他の美味しい飲み物を発掘したいんだよ」
「それで話が弾むっていうこと?」
「そうそう! なあ兄貴、頼むよ。オレ、愛優ちゃんとふたりだと、緊張して思うように話せないんだ。なにか話のきっかけがあれば大丈夫な気がする」
「仕方ないなぁ。可愛い弟の恋のためだ。じゃ、行くか」
とまあ、こんなやり取りの末、兄貴は重い腰を上げた。
* * *
愛優ちゃんとあのカフェで待ち合わせをしている。
オレは兄貴と、愛優ちゃんは優希さんとそれぞれ同じ時間にカフェに着くようにして、偶然に出会ったように。
そこでオレ達は同じテーブルにつき、たわいない話で盛り上がり、頃合いをみて、優希さんにアメリカ留学の話を振る。
それから愛優ちゃんにそれとなく、「私だったら夢を追いかけたい気持ちと、好きなひとには引き留めてもらいたい気持ちがあるんじゃないかな」とかなんとか言ってもらう。
その時の優希さんと兄貴の反応を見つつ、優希さんはどうなのかとオレが聞く。
優希さんが本心を上手く伝えてくれるか、兄貴が優希さんの気持ちに気づいてくれるか。
これがオレが考えた直球勝負だ。
てか、オレと愛優ちゃんで上手く連携プレーができるかどうかだが。
あくまでも自然に、違和感なく。
そこが難しいところではあるが、兄貴と優希さんのため、頑張ろうと思う。
いささか緊張するが、今から兄貴と駅前のカフェに向かう。
玄関で靴を履き、いざ出発! と意気込んでドアを開ける。
一歩外に踏み出せば、真夏の太陽が容赦なく照りつける。
「うわっ。あっつ」
兄貴はいきなり顔をしかめてそう放つ。
「まあ、夏真っ盛りだからね」
爽やかに笑ってみせたものの、内心オレもこの暑さに一瞬にしてぐったりしてしまった。
「やっぱやめよっかな」
おいおい兄貴、それはないよ。やっと説得したのに。
「いやいや、それは困る」
「は? カフェに行かないぐらいで、なんか困ることがあるのか?」
「え?」
す、鋭い。
兄貴に行ってもらわないと折角の計画が台無しだ。
でも、それを悟られちゃいけない。
「空~」
うわっ。兄貴は勘がいい。
なにか疑いの眼で見られているような気もするが、気にしない。
「愛優ちゃんとの約束までに、今日しか行く時間がとれないんだよ」
苦し紛れの言い訳。本当は愛優ちゃんとふたりでカフェに行く約束なんてしていないのに。
「そっか。なら仕方ないな」
やっぱり兄貴は優しい。
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