66 変化のはじまり
『これからも頑張ろう会』を終えて、オレと兄貴は涼風姉妹を御殿までお送りしたわけだが。
いつ見てもこの邸宅は素晴らしい。上品なたたずまいに綺麗に整備された庭。どことなくヨーロッパな雰囲気を醸し出して……て、ヨーロッパなど行ったこともないので雰囲気としか言いようがないのだが。
きっとこの姉妹には美麗なドレスが似合う。その姿で庭園を散歩。なんと優雅な……などと想像してしまう。
しかしながら、この大きな門のすき間からのぞく広場を見て、オレは『あそこではキャッチボールができるな』とか、『ランニングにもいいな』『周りを気にせず素振りができるな』などとすぐに野球に結びつけてしまうという残念さ。
涼風姉妹と別れて、オレと兄貴は今来た道をとぼとぼと……というわけではなく、楽しく談笑しながら歩いて帰ったのだが。
オレはさっき愛優ちゃんが言いかけた続きが気になって仕方がなかった。
兄貴ならなにか知っているのではないか。だからオレの残念会と優希さんのお祝いも兼ねて『これからも頑張ろう会』としたのではないだろうか。
だけどどう切り出していいものやら。
そうこうしているうちに自宅の近くまで帰ってきたところで、オレはいちいち口に出して言うのは照れくさかったけど、でもどうしても今言いたい言葉を口にだした。もちろん照れがあったから言い方は少し淡泊にはなったけれど。
「今日はありがとな」
オレは感謝の気持ちを込めて真面目に言った。
「なんだよ、急に」
「いや。言いたかっただけ」
「そっか」
照れくさそうに頬を指でかきながらそう答える兄貴の顔は嬉しそうで。
やはり思うことは素直に口に出さなければ伝わらないと感じた。
「さっき聞いたんだけど」
オレは聞いてみることにした。
「ん? なんだ?」
兄はまだ少しニヤけた顔のまま答える。
「さっき、涼風姉妹を送って行った時、家のすぐ手前で愛優ちゃんが言いかけてたんだけど」
「うん」
オレは愛優ちゃんとさっき話していたこと、その気になっている部分を率直に聞いてみた。
すると兄貴は「なあんだ、そのことか」と。
そしてこう続けた。
「確かになかなか会えなくはなるだろうな」
そんなに忙しくなるのだろうか。
まあ、優希さんは兄貴よりひとつ上だから大学3年生だ。就職活動とかあるのだろうか。
そもそも大学生の就活っていつから始まるのかも知らないし、優希さんが将来何になりたいのかも知らない。
野球ばかりでなく、もっと他のことにも目を向けるべきなのかと少し思った。
「忙しくなるんだね」
「まあな。それもあるかもしれないな」
「それも、って。他にもなにかあるの?」
当然の質問を投げかける。
そこで兄は大きくため息をついて呟いた。
「バンドのピアノ。新しいひと探さなきゃな」
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