65 不思議な感じ
今回の残念会は、また兄貴の提案で開かれたということだ。
落ち込んでるんじゃないかと、さりげなく気づかってくれるところに兄貴の優しさを感じる。
そしてそこで兄貴が口にしたひと言で、その会はもうひとつの意味をつけ加えられることとなった。
優希さんが近々実家を出て、一人暮らしをすることになったというのだ。そのお祝い的な?
残念会とお祝いとだなんてなんだかおかしな取り合わせだが、オレ達は美味しいご飯が楽しく食べられればそれで充分なんだ。
でも、もっと学校に近いところに引っ越し……て、そんなに遠くないはずだけど。
それに、誰がどう見ても涼風姉妹は箱入り娘に映るのだが、よくご両親が一人暮らしを許したものだな。
ふとそんなことが過った。
少し不思議な感じもしたが、敢えてそのことについて口をはさむのはやめておいた。
この場でわざわざ言わなくても、また折を見て兄貴か愛優ちゃんにでも聞けばいいだろう。
なにはともあれ、この目の前のご馳走を堪能しつつ、涼風姉妹との再会を噛みしめたい。
『残念会』は、『これからも頑張ろう会』に名前を変えて、みんなで楽しいひとときを過ごすことができた。
お腹もふくれてデザートまで食べると、そろそろいい時間になったので、前回のようにオレと兄貴で涼風姉妹を邸宅までお送りすることになったわけだが。
4人で歩く道程は楽しく、またちょくちょくこんな風に歩きたいな、なんて思ってしまう。
オレと愛優ちゃん、その前を兄貴と優希さんで並んで歩いた。
前を行くふたりは仲よさそうで、それはそれは仲よさそうで。
「あのふたり、ホントお似合いだね」
以前から思っていたが、本当にお似合いのカップルだ。
愛優ちゃんの声にオレはうんうんと、大きく頷いた。
そういえば。兄貴は告白したのだろうか。もし告白したのだったら、返事はどうだったのだろう。
兄貴はあれ以来何も言わない。甲子園開会式リハーサル前日、公園でのキャッチボールのあと、夕食後に話すと言っていたが、結局「また今度にしよう」と兄貴がオレに気をつかってそう言った。
聞いてもいいのだろうか。
「愛優ちゃん、お姉さんが一人暮らしするんだったら、寂しくなるね」
オレは仲のいい姉妹が離れるなんて、どちらかが結婚でもして家を出て行く以外には考えられないから、突然のことに愛優ちゃんが寂しいだろうと、そう言った。
「そうだね」
愛優ちゃんは切ない表情を滲ませる。
「でも、まあ。会おうと思えばいつでも会えるし、姉妹なんだから疎遠になることもないだろうし」
オレは慌てて言葉を繋いだ。彼女の寂しげな顔を晴らしたかったから。
「なかなか会えなくなると思う」
だけどますます寂し気な面持ちで呟く彼女。
「でも」
「まあ、嬉しいことなんだけどね」
にっこりと微笑みながら言う彼女にオレは聞き返した。
「えっ、それってどういう……」
と、そこで涼風姉妹の豪邸に到着したため、前のふたりが振り返った。
オレはそれ以上発することができなかった。
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