64 デジャヴ?
軽~くトレーニングした後、シャワーを浴びてリビングに向かう。
トレーニングと言ってもピッチャー返しで痛めた左足を使わずにできる、上半身の筋トレに重点をおいて行うだけに留めたのだが。
それでもこの時期は汗だくになる。
汗を流してすっきりしたらお腹もすくもので、いつものように「お腹すいた」と元気よくリビングの扉を開けた。そしてそこに広がる世界に、俺の頭の天辺からつま先までが、その機能を停止したんだ。
驚きの光景に、またスイッチが入るのに少しの時間を要した。
機械仕掛けの人形のような、いやアニメやなんかにでてくるロボットのような動きでまた動き出す。
みんなはそんなオレをみてクスクスと笑うだけ。
オレはその中で微笑むある人物を、これでもかというぐらいに大きく見開いた目で見つめる。
「うふふ。来ちゃった」
満面の笑みを浮かべたそのお方は宣う。
この光景は紛れもなく。
デジャビュ? デジャブ……。デジャヴ? どれだっけ?
まあいいや。既視感。
てか。いやいや、あのね。
そのセリフ、またまたこんな時に使うの?
でも、『うふふ。来ちゃった』ってはにかむ姿、悪くない。いや寧ろ好みだ。
愛優ちゃん。オレはあなたをお慕い申し上げています!
「そっか」
だけどオレはついそっけなく返してしまう。
するともうひとりが口を開いた。
「うふふ。来ちゃった」
え? ってまたまた、あのね。
あなたまでそんなことを言いますか?
でも、流石姉妹。
お姉さまの『うふふ。来ちゃった』もなかなか素敵ですぞ。
「そんなところにつっ立ってないで早く座れば?」
兄に促されて自分の席につく。
テーブルの上には所狭しとご馳走が並べられている。
「え、でもどうして?」
いや、嬉しいけど素朴な疑問をぶつけてみた。
「まあ、残念会ってとこかな」
兄貴の言葉になるほどと頷く。
「今回は残念だったけど、また次頑張りなさい」
そう言った母親に「もちろん」と返す。
すると父親は「まあ、ほどほどにな」と。
これも父の優しさからのセリフだと知っている。
「ほどほどにね」
オレはニヤリとしてそう答えた。
「ホント、あんま無茶すんなよー」
と隣に座る兄に冗談交じりに言われ、「無茶なんかしねーよ」と軽く返事をした。
きっと兄貴は、今日の試合のことを言ってるんだろう。
無茶したつもりはないけれど、兄貴は多分試合中に足に受けたピッチャー返しのことを気にしてくれているのだと思う。
兄貴のさりげない優しさを悟り、
「心配かけたな」
オレは苦い顔でそう口にした。
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