63 帰宅
緑のツタが絡まる阪神甲子園球場の外観。
つい先程までオレたちはこの球場で、全国の高校球児が憧れるこの甲子園球場で試合をしていた。
結果は1回戦敗退と残念ではあったが、次なる目標が定まっているから気持ちを切り替え頑張ろうと思う。
目の前には阪神高速道路の高架があり、近くにはショッピングセンター。
駅や駅付近はリニューアルされ、新しい建物が次々と建てられているようだ。
この景色を目に焼き付けておこう。
そして来年の春、必ずもう一度ここで投げてやる。
絶対に勝利してやる!
意気込んで、学校が用意してくれたバスに乗り込む。
ステップに右足をかけ、振り返り呟いた。
「待ってろよ」
オレの、オレたちの夏の甲子園はこうして終わった。
* * *
街に帰ると皆、笑顔で「お疲れさま」「よく頑張ったな」と労いの言葉をかけてくれる。
暖かいひとたち。腑甲斐ない結末ではあったが、オレは笑顔で応えた。
一生懸命ベストを尽くした結果だ。
応援してくれたひとたちには申し訳ない思いで一杯だが、試合に関しては後悔していない。
後悔していつまでも思い悩む時間があれば、その経験を次に活かせるよう練習に励む方が有意義だ。
家に帰ったオレは、バットを取り出し、庭で素振りをはじめた。
っ!
その時、さっきの試合で痛めた左足に激痛が走る。
悔しい気持ちが芽生えてきた。
「今すぐに練習したいのに」
オレは言葉に出して、拳を握った。
しかしムリをして今以上に状態が悪化しては、今後に影響がでる。
幸い歩く分には支障はなく、素振りのような足をひねる体勢の時だけ痛むようだ。
オレはひとまず素振りをやめて、他の、足に負担をかけないトレーニングをすることにした。
試合で疲れたなどと言っているヒマはない。
1日でもトレーニングを怠ることはできない。
軽く身体を動かしたあと、汗を流すためにシャワーを浴びる。
その後部屋着に着替えて、「ああ~、お腹すいたぁ~」とリビングの扉をバンと開けて、その光景に息を呑んだ。
オレはそのとき目にした光景に、一瞬全身が固まってしまった。
思考回路までフリーズしたのだ。
そのため、「ごはん……食べ……」と機械のように口を動かすだけの動作になってしまう。
ただ心臓だけはバクバクと急ぎ足で波打っているのだが。
デジャビュ? デジャブ……。デジャヴ? どれだっけ?
まあいいや。既視感。
以前にもこのようなことがあった。
お読み下さりありがとうございました。
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