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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第5章 気力
62/148

 62 涕泣(ていきゅう)

 結局。

 9回の裏、オレたちの攻撃はサヨナラのランナーをセカンドまで進めることはできたが、その後の打線が続かず、スコアボードにまた“0”の花を添えることとなった。


 延長戦に入り、再び訪れた攻撃に、相手チームの気迫が伝わってくる。

 オレは痛む足を引きずってでも投げ続けたかったが、監督からベンチに残るように宣言される。


 『最後まで投げきりたい』


 その思いで一杯だったが、オレのこれからの野球生活に影響がでるといけないということで、オレの願いもむなしく、監督に推しきられるカタチとなった。


 オレはピッチャーの名前を告げるアナウンスに、悔しい気持ちが込み上げそうになるが、頑張ってくれと心底願った。

 彼は初めての甲子園で、いきなりこんなに大事な場面で投げることに、かなり緊張していたようで、そこを相手チームの打線に上手く突かれるカタチで、簡単に得点を与えてしまった。

 応援団から悲鳴に似た落胆の声が上がる。


 ベンチで痛めた足を冷やしながら、オレは拳を強く握った。


 あの時。もう少しオレが早くピッチャー返しに反応できていれば……そんな思いが脳裏をよぎる。


 結局2点を取られて、その後の10回裏の攻撃でも我がチームは得点を入れることができなかった。


 最終打者が打ち上げた球はライトに飛んでいき、甲子園名物の浜風に押されるカタチでグングン伸びたが、その行方はライトフライとなり、相手のグローブに収まった。



 試合終了のサイレンとともに、喜び勇んでピッチャーの元に駆け寄る相手チームの姿を尻目に、オレたちは落胆の影を落とし、しばらくその場を動くことができなかった。


 監督に促されて、オレたちはゆっくりとホームプレートをはさんで整列する。


 審判の合図とともに、両チーム全員がかぶっていた帽子を取り、一斉に「ありがとうございました!」と声を出し、礼をする。

 相手チームと握手を交わしながら、「次も頑張れよ」と声をかける。


 その後、相手チームの校歌を聴いているときの悔しさ。

 自然と涙が込み上げる。


 応援席で応援してくれた人たちのところまで、全員かけ足で行き整列し、期待に応えられなかった悔しさと、暑い中、一生懸命応援してくれたことへの感謝の気持ちが入り交じって、涙が止まらなくなる。


 オレたちは帽子を取って姿勢を正し、「ありがとうございました!」と感謝の一礼を深々とした。

 応援席からの惜しみない拍手に、「お疲れさま」という温かい言葉に胸が詰まる。





 みんなは『甲子園の土』を靴袋や巾着に詰め込んでいる。

 オレも……と手にした土を、その場に戻した。


 オレは兄貴と約束したんだ。

『甲子園の土は持って帰らない』

 次来るまでお預けだ。


 それでいいだろ? 兄貴。


 そしてもう泣くまい。

 泣いているヒマがあったら、悔やんでいるヒマがあったら練習しろ!

 そう心に言い聞かせた。


 気持ちは常に前向きに。


『高校野球秋季大会』


 そこを目指して頑張ろう。

 そして秋季大会で優勝して、春のセンバツ高校野球大会への出場を果たす。


 振り返って立ち止まっている時間はない。


『頑張れ空』


 自分に言い聞かせる。



涕泣ていきゅう:涙を流して泣く

この言葉に込められた意味を感じて下さると嬉しいです。


お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] アイスココア、良いですね〜。 詩を読んでいたら、飲みたくなってきました。 甲子園が出てくるところが良かったです。 結果は残念でしたが、また次を目指そうと切り替えられているところが素晴らしい…
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