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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第5章 気力
61/150

 61 夏の甲子園(3)

 夏の甲子園。

 どちらも譲らないまま接戦が繰り広げられた。


 スコアボードには『0』の行進が続いている。


 9回の表、オレはピッチャーマウンドに立ち、あと3人。

 あと3人投げきって、この後の9回裏の俺たちの攻撃で1点をたたき出して必ず勝利してやる、と意気込んでいた。


 だがピッチャー返しにあい、左足を負傷してしまう。

 監督はピッチャー交代を示唆したが、オレは拒んだ。

 何としても最後まで投げきりたい。そう思った。


 コールドスプレーを吹きかけて、腫れているところを冷やす。


 少し痛みが治まった気がしたので、「大丈夫」と声を掛けてもう一度マウンドに立つ。



 

 9回の表。ワンアウト。あと2人。

 オレは渾身の力を込めて、ボールを投げた。

 1球目は様子を見るために誘い玉を投げたが、相手もよく見ていてバットは振ってくれない。

 オレの方も軸足を負傷したといえど、コントロールも影響なさそうだし、投げるのに影響はなさそうだ。


 1球、また1球と丁寧に投球していく。

 気持ちが高揚しているからか、もう痛みは感じない。

 どうやら俺は、窮地に追い込まれる方が、燃えるようだ。


 投げて、投げて、投げ抜いた。


 そしてツーアウト、フルカウント。

 そう思うと急に軸足に痛みが走る。

 あと1球投げきれるか。コントロールをはずすことなく。

 だがここでヒットもフォアボールも出すわけにはいかない。

 

 ムリは禁物。解っている。解っているさ。

 そう。ムリはしない。……だけど。


 その時のオレには先のことは考えられなかった。

 この後の自分たちの攻撃で1点。1点を入れれば勝利だ。延長戦はない。

 そう信じて。延長戦で投げることを想定しないで、ただ今を、今だけを頑張り抜くことにだけ集中していた。

 

 そして最後の1球を投げきった。


「ストライーク。バッターアウト!」


 主審の声が脳内にこだまする。


 その声を聞いて安堵して、一瞬遠のきそうな意識を呼び戻した。


 ズキズキと痛む左足を気にしつつも、仲間に心配をかけまいと、元気よく「よっしゃー」とガッツポーズをしてみせる。


 ベンチに戻ると監督や仲間が「大丈夫か?」「よくやった」「あんまムリすんなよ」などと、口々に声をかけてくれる。

 ああ、良いチームに恵まれたなと実感する瞬間だった。


 

 いよいよ9回の裏、オレたちの攻撃の番だ。

「頑張ってくれよ」と、打席に向かうチームメイトの背中に投げかけた。


 なんとしても1点を入れて勝利を掴みたいものだ。

 応援団の応援にも熱がこもる。

 オレは祈るような気持ちで試合の行方を見守った。



お読み下さりありがとうございました。


次話もよろしくお願いします!

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