61 夏の甲子園(3)
夏の甲子園。
どちらも譲らないまま接戦が繰り広げられた。
スコアボードには『0』の行進が続いている。
9回の表、オレはピッチャーマウンドに立ち、あと3人。
あと3人投げきって、この後の9回裏の俺たちの攻撃で1点をたたき出して必ず勝利してやる、と意気込んでいた。
だがピッチャー返しにあい、左足を負傷してしまう。
監督はピッチャー交代を示唆したが、オレは拒んだ。
何としても最後まで投げきりたい。そう思った。
コールドスプレーを吹きかけて、腫れているところを冷やす。
少し痛みが治まった気がしたので、「大丈夫」と声を掛けてもう一度マウンドに立つ。
9回の表。ワンアウト。あと2人。
オレは渾身の力を込めて、ボールを投げた。
1球目は様子を見るために誘い玉を投げたが、相手もよく見ていてバットは振ってくれない。
オレの方も軸足を負傷したといえど、コントロールも影響なさそうだし、投げるのに影響はなさそうだ。
1球、また1球と丁寧に投球していく。
気持ちが高揚しているからか、もう痛みは感じない。
どうやら俺は、窮地に追い込まれる方が、燃えるようだ。
投げて、投げて、投げ抜いた。
そしてツーアウト、フルカウント。
そう思うと急に軸足に痛みが走る。
あと1球投げきれるか。コントロールをはずすことなく。
だがここでヒットもフォアボールも出すわけにはいかない。
ムリは禁物。解っている。解っているさ。
そう。ムリはしない。……だけど。
その時のオレには先のことは考えられなかった。
この後の自分たちの攻撃で1点。1点を入れれば勝利だ。延長戦はない。
そう信じて。延長戦で投げることを想定しないで、ただ今を、今だけを頑張り抜くことにだけ集中していた。
そして最後の1球を投げきった。
「ストライーク。バッターアウト!」
主審の声が脳内にこだまする。
その声を聞いて安堵して、一瞬遠のきそうな意識を呼び戻した。
ズキズキと痛む左足を気にしつつも、仲間に心配をかけまいと、元気よく「よっしゃー」とガッツポーズをしてみせる。
ベンチに戻ると監督や仲間が「大丈夫か?」「よくやった」「あんまムリすんなよ」などと、口々に声をかけてくれる。
ああ、良いチームに恵まれたなと実感する瞬間だった。
いよいよ9回の裏、オレたちの攻撃の番だ。
「頑張ってくれよ」と、打席に向かうチームメイトの背中に投げかけた。
なんとしても1点を入れて勝利を掴みたいものだ。
応援団の応援にも熱がこもる。
オレは祈るような気持ちで試合の行方を見守った。
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