表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第4章 大切な人たち
54/148

 54 暑さと熱さ(5)

 だけどオレには気になることがある。

 多分愛優ちゃんも気づいているはず。

 てか注文するときに、オレ言ったよな? 『余計にのど乾くんじゃない?』って。


 いや、普段ならいいよ。甘くて美味しいしチョコ飲んでるみたいだし、オレもたまに飲むよ。

 でも、あんまり喉が渇いてるときに、アイスココアを一気飲みでもしたら……まあ、想像はつくよな。


 ふと見ると、愛優ちゃんは嬉しそうにアイスココアを一気に3分の1ほど流し込んでいる。

 そう。生クリームがたっぷりのったアイスココアを。


 そして咳き込む。


「大丈夫か?」


 オレが聞くと、彼女は苦笑を浮かべながら答える。

 

「やっぱよけい喉渇くね」


「暑い時には不向きだよな」


 オレが言うと、肩をすくめて小首をかしげながら口角をちょっと持ち上げる彼女。


 その全てが愛おしい。


 だけど。


「だから言わんこっちゃない」


 オレは冷静の皮を被り直して言う。


「やっぱ大丈夫じゃなかっただろ?」


 すると彼女はコクリとうなずき、オレの心に微笑んだ。


 オレは涼風愛優ちゃんをお慕い申し上げています!



「なるほど」


 オレがせっかく盛り上がっているところに、背後から男声が忍び寄る。

 なんだなんだと振り返ると、そこにはアイツが。


 アイツ――隣のクラスで背は170ちょっとくらい。スポーツとは縁がなさそうな細身の男子。学年トップで、超がつくほど真面目なタイプの倉井はオレ達をみつけて、この癒やしの空間に近寄ってきて、いきなり早い口調で話しだす。

 いや、あーだこーだと早口でまくし立てる。


「暑さで喉が渇いているときに、チョコレートやココアのような甘い飲み物を一気に飲むと、そのとろみが喉に絡みついて余計に喉が渇いてしまう。結果咳き込むということを解っていながらも」


 ヤツは眼鏡の端を左手の中指でクイッと上げながら続けた。


「なぜか大丈夫だと思い注文してしまう。そして予想通り咳き込み、そこで『ああ、やっぱり』と納得する。人生の縮図を見た気分ですね」


「はあ? なに言ってんだ?」


 オレは呆れて聞き返した。


「人生の縮図を見たと」


「なんだって? たかだかアイスココアで咳き込んだくらいで大袈裟な」


「解りませんか? だからスポーツ頭は固いのですよ。もっと物事を多角的に捉えないと」


「いやいや、オレだってね、一応名門と言われている野球部のエースで4番を任されているんですけど。スポーツだって頭をフル回転させて、その都度戦略を考えながらその時々に一番合った方法で攻撃したりしているんですけど?」


 オレはついムキになって、アイツと同じように早口になる。


「ふむ。なるほど」


「それに。一応勉強だってそこそこできるつもりですけど!」


 全く。ここまで言って、なににそんなにムキになってるのか、自分でも引っ込みがつかなくなってきた。


「解りました。それは失礼しました。私の言い方が悪かったようですね」


「いや、解ってくれたならいいんだけど」


 倉井は頷く。頭が固そうに見えるのは眼鏡のせいか? 


「てか、人生の縮図ってなんだよ?」


 オレがヤツに問いかけると、愛優ちゃんは伏し目がちに小さくため息をついて、僅かに首を左右に振った。



お読み下さりありがとうございました。


次話「55 人生の縮図?」もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ