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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第4章 大切な人たち
53/150

 53 暑さと熱さ(4)

「だって好きなんだもん」


 彼女の放った言葉が、眩しい笑顔とともに発せられた台詞セリフが、オレの脳天を直撃して、脳内にこだまする。


 それは、たとえオレに向けられた言葉でなくとも。それがアイスココアを指し示す言葉であったとしても。愛優ちゃんの『だって好きなんだもん』は、小首をかしげて口角を持ち上げた可愛い仕草と相まって。

 高校2年。そう、シャイで奥手で硬派な男子高校生に対する破壊力はハンパない。


 オレは彼女をお慕い申し上げています!



「ご注文は?」


 せっかく盛り上がっていたオレの気持ちを吹き飛ばすように、店員の淡々とした言葉が耳に入る。


「あ」


 オレは冷静の皮を被って、「じゃあオレは……」と炭酸系飲料を注文した。


「メニューをお下げします」


 と、ふたりの間に置かれた冊子を持ち上げ、軽く会釈をしてその場を去って行った店員の後ろ姿を見送る。


 そこでもう一度話をもとに戻して。


「愛優ちゃんはココアが好きなの? それともアイスココアが好きなの?」


 うん。我ながら素晴らしい質問だ。


 思惑通り、「うふっ」と可愛く微笑んで彼女は答える。


「どっちも好き」


 言葉のあとにハートマークが見えたのは、気のせいだろうか。



 それからあーだこーだと下らない話をしながらも、きっとオレの顔は熱さに溶けかけたゴム製品のように緩んでいたに違いない。


 暑さと熱さで喉の渇きもマックスになりかけた頃、ようやくふたりが注文した飲み物が運ばれてきた。


「わあ。美味しそう」


 と両手を胸の前で合わせて喜んでいる姿は、もうオレのハートを直球で攻めてくる。

 しかし、一つ気になることが……。


 でも、まあ。


 取りあえずは勢いよくストローの袋を破いて、炭酸系飲料の入ったコップに突き刺すように入れる。

 愛優ちゃんはゆっくり、そっとストローをコップに滑り込ませた。


「かんぱ~い」


「お疲れ~」


 なんか訳のわからないテンションで、ふたりはお互いのグラスをカチンと触れさせる。


 オレは一気にゴクゴクと半分ほど飲んで、ぷはぁ~と息を吐く。

 その様子を見て、愛優ちゃんがケラケラと笑う。

 そのキラキラと眩しく輝く笑顔にクラクラ。


 窓の外からさす日差し。この熱さに、この暑さに店内の観葉植物にも水をやりたいくらいだ。


 そして彼女も可愛い口もとにストローを。


「ゆっくり飲んだ方がいいよ」


 一応オレは言ってみた。


「ん?」


 眉をハの字にして彼女が聞き返す。


「余計にのど乾くんじゃない?」


「大丈夫」


 にっこり笑う彼女の笑顔が眩しくて。


「なにが大丈夫なの?」


 そんな疑問など。


「だって好きなんだもん」


 宇宙の彼方に吹き飛んでしまう。




 だけど……。



お読み下さりありがとうございました。


次話「54 暑さと熱さ(5)」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
[良い点] デート! これはもう間違いなくデート! くっ、羨ましくなんかないんだから! いやー熱い、熱いわー。
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