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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第4章 大切な人たち
52/150

 52 暑さと熱さ(3)

 愛優ちゃんが指さした先にいたのは、我が校の制服を着た男子学生。


「アイツがどうかした?」


 オレが聞くと、愛優ちゃんは苦笑しながら、少し言いにくそうに話し出した。


「あの人、隣のクラスの倉井くらいくん」


「倉井? そんなヤツいたっけ?」


「うん。学年トップで、超がつくほど真面目なタイプ」


 そういえばそんなヤツいたっけな。


「ああ、思い出した。ヤツがどうかしたか?」


「ちょっと苦手……」


 愛優ちゃんがそんなこと言うなんて。


「オレはちょっと意外」


 そう。ちょっと意外だ。


「え?」


 だって。


「愛優ちゃんに苦手なひとがいるなんて」


 誰とでも仲良く話せる彼女にも、苦手なヤツがいたとは。


「うん。悪いひとじゃないんだけど、成績の件でやたらと張り合ってくるっていうか、いちいち聞いてくるというか」


 なるほど。


「ああ、そういうことね」


 愛優ちゃんは学年2番だからな。


「ちょっと面倒くさいかな」


「そだな」


 なにかと自信ありげな倉井の評判は、誰にでも容易に想像できるだろう。

 根は悪い奴じゃないだけに、少し残念な気もするが。

 ものの言い方を考えればいいのかな、なんて思ったりする。

 まあ、オレも他人ひとのことは言えないが。


 って、あれ?

 気づいたら愛優ちゃんと普通に話せているぞ。

 この店の前まで来る間は、ぶっきらぼうにしか話せていなかったのに。

 倉井のことで普通に話せていたなんて。ある意味、この店にいた倉井に感謝かな。


「せっかく空くんと楽しくお話しようと思ってたのにな」


 彼女は店に入るのを躊躇ためらっているようだ。


「入んないの?」


 オレが聞くと、「どうしよっかなぁ」って。


「愛優ちゃんのお薦めの店、オレは入ってみたいな」


 お! オレ、なかなか素直な言葉が出せるじゃん。

 いい感じだ。

 オレは素直な自分に、心の中でうんうんと頷きながら続けた。


「じゃ、入るぞ」


 そう言ってオレは店のドアを開ける。


 水色に塗られた木製のドアは、見た目よりは軽くスッと開く。

 ドアの振動で、上部に取り付けられていた鈴のようなものが、チリリンと軽やかな音を立てて来客を知らせた。


 すると一瞬、あちらこちらからの視線を感じたが、またそれぞれに自分の時間や友人などとの時間を楽しむ動作にもどる。


 外の蒸し暑さとは打って変わって、冷房の風が心地良い。


「いらっしゃいませ。何名さまですか?」


「あ、ふたり」


 可愛らしいエプロンをつけた店員に聞かれ、答えた。


「では、あの窓際のお席にどうぞ」


「あ、はい」


 店員に促され、明るい窓際の席に着く。


「涼しいなぁ」


 つい言葉が漏れる。


 水とおしぼりを持ってきた店員に、注文は決まったかと聞かれ愛優ちゃんの方を見た。


「決まった?」


 オレが聞くと、「うん」とうなずき店員に「アイスココア」と注文している。

 ん? とオレの中でハテナマークが広がった。


「余計にのど乾くんじゃない?」


 アイスココアを注文して嬉しそうな彼女に、一応聞いてみる。


「そっかなぁ? でも、大丈夫」


 にっこり笑う彼女の笑顔が眩しくて。


「なにが大丈夫なの?」


 そんな疑問など。


「だって好きなんだもん」


 宇宙の彼方に吹き飛んでしまう。



お読み下さりありがとうございました。


次話「53 暑さと熱さ(4)」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。暑い夏の日に、空にとってはさらに熱い展開、シャイなはずが、いつになくスラスラと言葉が出て来て、愛優とも自然に話せていますね。 愛優の不意の一言で、宇宙の彼方に吹き飛ん…
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