51 暑さと熱さ(2)
高校球児。エースで4番。一応スポーツやってて、細いながらもそれなりに力はあるし、筋肉も多少はついているつもり。
そんなオレがおぼつかない足取りで、グイグイ引っ張られている。
愛優ちゃんのお薦めのお店に一緒に行くことになったわけだが。
手首を掴まれて引っ張られているオレは、他人にはどう見られているんだろう。
頼りなさげ? 困っている風? それともにやけてる?
そりゃそうだろ。
手首をぎゅって。
いわゆる軽いボディータッチどころか、しっかりと握られているんだよ?
シャイで奥手で硬派なオレは、そんなの慣れてないから足取りはおぼつかないし、引っ張られてるから頼りなさそうだし、そう見られているかと思うと困り顔にもなる。
しかし、しっかりと握られているんだよ、手首を。
軽いボディータッチでも、偶然手が触れあうだけでも充分ドキドキするっていうのに、しっかりと握られていたら……絶対ににやけてるよな。
でも、願わくば『手首を掴まれてる』状態じゃなく、『手を繋いだ』状態でゆっくりと隣を歩きたかっ……いや、まだ早い。オレと愛優ちゃんは別に付き合ってるわけでもないんだから、まだその段階じゃない。
告白もしてないし、てか告白なんてできねぇし。
野球の試合じゃ『ここぞ』というときに勝負に出られるんだが、恋愛となるとダメなオレ。
でも。まあ。今はこれくらいの距離感が心地良いっていうか。急ぐこともないっていうか。
第一、彼女の気持ちも解んねぇしな。
なんてことを考えながら引っ張られることしばらく。
愛優ちゃんはあるお店の前で、急に歩みを止めるもんだから、オレは危うく彼女にぶつかりそうになった。
「うおお」
ヘンな声が思わず漏れる。
が、気を取り直して聞いてみた。
「このお店?」
しかし彼女からの返事はなく、彼女は店のある一点を見つめたまま動かない。
「愛優ちゃん?」
オレの問いに、ハッと気づいた風な愛優ちゃんが、少し困った顔をした。
「どした?」
オレが聞くと、「あの人」と店の中にいるある人物を指さす。
見ると、背は170ちょっとくらい。スポーツとは縁がなさそうな細身の男子、制服姿なので高校生だろう。しかも我が校の制服じゃないか。
ということは……。
どういうことだ?
お読み下さりありがとうございました。
次話「52 暑さと熱さ(3)」もよろしくお願いします!




