表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第4章 大切な人たち
50/148

 50 暑さと熱さ(1)

 開会式リハーサル前日の午後、白日のもとにさらされながら、アスファルトからの照り返しを浴びながら、やっとたどり着いた駅前広場。

 そこに設置されたミストシャワーでホッとひと息ついたのも束の間。今度はまた別の熱さが襲う。

 

 偶然にも愛優ちゃんとこんなところで会えるなんて。

 その上、暑さでまいってしまって。いや、愛優ちゃんの可愛さについ「冷たいものでも飲み行こっか」だなんて。我ながらスラスラと言えたものだと内心感心しつつ、今ふたりで肩を並べて歩いているなんて。


「ほんと暑いね~」って言いながら、相変わらず彼女は右手でパタパタと顔を仰いでいる。

 なんて愛らしいんだ。

 このままずっとこうしていたい。

 とは言うものの。


 やっぱり暑さと熱さには勝てず、冷たいもので乾いたのどを潤わせたい。

 

 だけど。


「どこ行こっか」


 男同士ならいつものファストフード店で炭酸飲料をがぶ飲みしたいところだが、愛優ちゃんとだったらどこに行けばいいんだ?


 だって、ほら。

 オレ、シャイだから。

 それに奥手なんだ。

 硬派なんだ。


 女子高生が行きたがるような、オシャレなカフェなんて知らないし。

 ううっ。こんなことなら兄貴にいざという時のために、気の利いたお店のひとつでも教えてもらっておくんだった。


「どこでもいいよ」


 にっこり笑う彼女の優しい返事。

 どこどこに行きたいと主張せず、相手に合わそうとしてくれる気づかい。

 でも今回ばかりは、彼女が普段どんなお店に行っているのか知りたいな、なんて。


「愛優ちゃんのお薦めのお店に行ってみたいな」


 やはり今日はスラスラと言葉が勝手に出てくるぞ。

 どうした、空。

 いや、でかした。

 調子良いじゃないか。


「ほんと?」


 嬉しそうに両手を胸の前で合わせ、満面の笑みを浮かべる彼女。

 オレは彼女をお慕い申し上げています。


「まあ」


 なんだ。その返事は。

 やっぱ彼女に見つめられると、いつものぶっきらぼうが顔を出してしまう。

 それでも彼女は嬉しそうに「じゃあ」と言ってオレの手首をもって引っ張りながら、どんどん歩いて行く。


 って。

 え?


 ええー!


 いやいやいや、お嬢さん。

 オレ、なんだか手首掴まれて、引っ張られているんですけど?

 いいのか?

 いいのか?


 高校球児。エースで4番。一応スポーツやってて、細いながらもそれなりに力はあるし、筋肉は多少はついているつもりですけど。

 そんなオレがおぼつかない足取りで、グイグイ引っ張られているんですが?


「ちょ……」


 オレは声にならない声を上げる。


「いいからいいから」


 彼女はニコニコしながら、ズンズン進んでゆく。


 オレは「あの~」なんてこころの中で言いながら、一応困った様子を見せながら。


 でも、なんだかちょっと嬉しい。



お読み下さりありがとうございました。


次話「51 暑さと熱さ(2)」もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] だって、ほら。 オレ、シャイだから。 ↑ここ面白かったです。 オレは「あの~」なんてこころの中で言いながら、一応困った様子を見せながら。 ↑実は嬉しい感じがよく伝わってきて素敵ですね。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ