50 暑さと熱さ(1)
開会式リハーサル前日の午後、白日のもとにさらされながら、アスファルトからの照り返しを浴びながら、やっとたどり着いた駅前広場。
そこに設置されたミストシャワーでホッとひと息ついたのも束の間。今度はまた別の熱さが襲う。
偶然にも愛優ちゃんとこんなところで会えるなんて。
その上、暑さでまいってしまって。いや、愛優ちゃんの可愛さについ「冷たいものでも飲み行こっか」だなんて。我ながらスラスラと言えたものだと内心感心しつつ、今ふたりで肩を並べて歩いているなんて。
「ほんと暑いね~」って言いながら、相変わらず彼女は右手でパタパタと顔を仰いでいる。
なんて愛らしいんだ。
このままずっとこうしていたい。
とは言うものの。
やっぱり暑さと熱さには勝てず、冷たいもので乾いたのどを潤わせたい。
だけど。
「どこ行こっか」
男同士ならいつものファストフード店で炭酸飲料をがぶ飲みしたいところだが、愛優ちゃんとだったらどこに行けばいいんだ?
だって、ほら。
オレ、シャイだから。
それに奥手なんだ。
硬派なんだ。
女子高生が行きたがるような、オシャレなカフェなんて知らないし。
ううっ。こんなことなら兄貴にいざという時のために、気の利いたお店のひとつでも教えてもらっておくんだった。
「どこでもいいよ」
にっこり笑う彼女の優しい返事。
どこどこに行きたいと主張せず、相手に合わそうとしてくれる気づかい。
でも今回ばかりは、彼女が普段どんなお店に行っているのか知りたいな、なんて。
「愛優ちゃんのお薦めのお店に行ってみたいな」
やはり今日はスラスラと言葉が勝手に出てくるぞ。
どうした、空。
いや、でかした。
調子良いじゃないか。
「ほんと?」
嬉しそうに両手を胸の前で合わせ、満面の笑みを浮かべる彼女。
オレは彼女をお慕い申し上げています。
「まあ」
なんだ。その返事は。
やっぱ彼女に見つめられると、いつものぶっきらぼうが顔を出してしまう。
それでも彼女は嬉しそうに「じゃあ」と言ってオレの手首をもって引っ張りながら、どんどん歩いて行く。
って。
え?
ええー!
いやいやいや、お嬢さん。
オレ、なんだか手首掴まれて、引っ張られているんですけど?
いいのか?
いいのか?
高校球児。エースで4番。一応スポーツやってて、細いながらもそれなりに力はあるし、筋肉は多少はついているつもりですけど。
そんなオレがおぼつかない足取りで、グイグイ引っ張られているんですが?
「ちょ……」
オレは声にならない声を上げる。
「いいからいいから」
彼女はニコニコしながら、ズンズン進んでゆく。
オレは「あの~」なんてこころの中で言いながら、一応困った様子を見せながら。
でも、なんだかちょっと嬉しい。
お読み下さりありがとうございました。
次話「51 暑さと熱さ(2)」もよろしくお願いします!
 




