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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第4章 大切な人たち
48/148

 48 開会式リハーサル前日(1)

 8月4日。

 午前中に自主トレを済ませたあと、軽くシャワーを浴び汗を流した。軽めの昼食を摂って「ちょっと出かけてくる」と、家を後にする。


 べつにどこかに行く目的はない。

 ただなんとなく街を歩きたかった。それだけ。


 真夏の太陽が照りつける中、なにもこんな時間帯にわざわざ出かけなくてもいいようなものだが、どうせ家にいてもダラダラと過ごすのなら、歩くだけでも運動になるし。


 明日の開会式を前に少し緊張しているのをほぐしたかったのもある。

 そしてこの街の人々から期待の目を向けられているとひしひしと感じた。


「甲子園出場おめでとう!」


「頑張れよ!」


「応援しているよ」


 知り合いに出くわすと、みな口々にそう言って笑顔を投げかけてくれる。

 改めて気を引き締めて頑張らねばと思った。



 しばらく歩くとある広場にさしかかる。

 ここは子供の頃、兄貴とよくキャッチボールをした広場だな、なんて懐かしく眺めていると、ボールがころころと転がってきて、オレの足元でピタッと止まった。


 そのボールを拾い、声のする方向に目をやる。


「すみませーん。投げ返してもらえますか~」


 遠くから大きく手を振る少年。

 オレはボールを手に高く上げて、「いくゾ」と声をかけゼスチャーをして見せた。


「はーい」と声を発した少年にボールを投げ返す。


 ボールを受けた少年は「おお!」と驚いていたが、これでもオレはピッチャーだよと心の中で微笑んだ。


 軽く手を振りきびすを返してオレは広場を後にする。


 またあてもなくブラブラと歩いていると、後から「あの~」と申し訳なさそうな声色で呼び止められた。

 振り返ると、先ほど広場でキャッチボールをしていた少年たちではないか。


 彼らふたりは申し訳なさそうに近づいてきて、お互いをひじでつつきあっている。

 しばらく様子を見ていたが、「どうしたの?」と声をかけると、少年たちはピッと気を付けのポーズで答える。


「僕らに野球を教えて下さい」


 そう言って腰を90度に曲げてお辞儀をするではないか。

 あまりに突然の申し出にオレは驚いたが、彼らの真剣な様子と「お願いします」と何度も言われてほだされたというか。


「仕方ないな」


 気づけばそう発していた。


「でもオレも自分の練習があるから、その合間にたまにしかできないけど、それでもいい?」


 オレの言葉にぱあっと明るくなった少年たちの表情に、オレも笑顔になる。


「はい! お時間のあるときに、よろしくお願いします!」


 礼儀正しい少年たちは、小学5年生と3年生の兄弟ということだが、ふたりとも野球が好きで上手くなりたいとか。でも、周りに教えてくれるひとはいないし、少年野球チームに入ると両親に負担をかけるから申し訳ないなんて、今時の小学生はなんともしっかりしているな、と感心することしきり。


 オレの部活の合間を縫って空いている時間でよければと、夏休みの間に数回練習に付き合うと約束を交わした。



お読み下さりありがとうございました。


次話「49 開会式リハーサル前日(2)」もよろしくお願いします!

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