46 告白(3)
「俺、優希さんと付き合うことにした」
兄の唐突な言葉に一瞬耳を疑う。
しかしここは敢えて普通に返すことにした。
「そうなんだ」
すました顔でサラッと言ってのけるなんて兄貴らしい。
「驚かないのか?」
「驚かないよ。お似合いだから」
「そっか」
少し顔を赤らめながらそう言う兄貴はまるで高校生のようだ。
「前に好きなひとがいるって言ってたの、優希さんのことだったんだね」
「まあな」
「兄貴から告白したの?」
オレは「参考までに」とつけ加えて聞いてみた。
「え、してないよ」
はい? 今なんと?
「ええー!」
「そこは驚くんだ」
いやいやお兄様。そこは驚くところでしょう?
「いや。だってさ。兄貴が告白したのかと思ったよ」
「そうか?」
相変わらずのんきだな。
「……て、もしかして告白された方?」
それなら話はわかる。
「そう思うか?」
「いや、だって……『付き合う』って断言してたから」
兄貴が言ってないなら言われた方かと思うよな。
「それもまだだけど」
「じゃあ、お互いの気持ちも解んないのに付き合うって言ってるの?」
「まあ」
「付き合うって、告白から始まるんじゃないの?」
「やっぱそう思うか」
「そう思うよ」
「でも、相手の気持ちが解んないと告白するのが躊躇われるっていうか」
その気持ちはよくわかる。
「そうだな。でも、一歩前に踏み出さないとなんも変わんないよ」
オレは偉そうにそう言ってしまった。自分ではできないくせに。
「そうだよ。空、解ってんじゃないか」
「頭ではね」
そう。頭ではようく解ってる。
「解ってるならいいさ」
兄貴はフッと息を漏らしながらそう言った。
「それに優希さんと兄貴お似合いだと思うよ」
「そっか?」
嬉しそうに前のめりでオレに聞き返すその姿は、まるで高校生だ。
「愛優ちゃんともさっき話してたんだ」
「そっか」
ますます口もとがほころびてくる。
「そうだよ。それくらい奥手な俺にだって解るよ」
「今まではただのバンドのメンバーってだけでもよかったんだ。だけどいろいろあって、だんだんと彼女のことを想うようになってきた」
兄はそう述べた後つけ加えた。
「今はまだお互いの気持ちは話していないけど、オレは『好き』だっていう気持ちを伝えようと思うんだ。さっきお前も言ってたとおり、やっぱりこういうことはちゃんと口に出して伝えないといけないと思うんだ」
「そうだよ!」
オレは言葉に力を込めて同意した。
「キチンと言葉にしないとな」
兄貴はそう言って、また前を向き歩みを続けた。
兄貴は『オレが彼女の支えになりたい』と言っていた。
いろいろあったとも言っていたけど、一体なにがあったんだろう。
気になるところではあるが、兄貴のタイミングで話してくれるのを待とう。
兄貴が優希さんを想う気持ちは本物だと思うから。
お読み下さりありがとうございました。
次話もよろしくお願いします!




