35 とある部活帰りに
彼女、涼風愛優との距離がだんだんと短くなってくる。
久しぶりに見る彼女は、こんな雨の中でも日が差したようにきらきらと輝いて、まるでそこにだけスポットライトがあたっているようだ。
ああ、眩しさでクラクラする。
きっと今のオレは口もとが緩んで、締まりのない顔をしているに違いない。
そう。オレは彼女をお慕い申し上げている。
だけど今は夏の甲子園出場をかけた地方大会のまっただ中。
シャイで奥手で硬派なオレは、愛だ恋だにうつつをぬかしている場合ではない。
しかも準々決勝を目前に、気を引き締めて……ってやっぱりダメだ。
そんなオレが気づかぬフリなどできるはずもない。
オレの方はお慕い申し上げているので、彼女のことは遠目にも解る。
だが彼女の方はどうなんだろう。
オレに気づいているのだろうか。
だんだん近づく距離。
だんだん高まる鼓動。
はたして彼女にはオレはどう映っているのだろう。
少しは……いや、期待はするまい。
今は何も解らない彼女の気持ちを想像してあれこれ思うよりも、オレの気持ちが大事なんだ。
ウダウダと考えていてもしょうがない。
もう、すぐそこまで近づいている彼女。
10メートル……5メートル……。
彼女はオレが雨やどりをしている軒先に一直線に近づいてくる。
だがその表情は傘に隠れて見て取ることはできない。
3メートル、2メートル。
さあ、どうする? 空。
とそこで彼女はさしている傘の前方を上にあげ、可憐な笑顔をその下に覗かせた。
うっ。目映い。
オレは口もとを動かし、声にならない言葉で少しだけ頭を揺らしながら、「おう」とだけ発した。
すると彼女はイタズラっぽい表情を浮かべながらオレのことを見上げる。
「雨やどり?」
金属製の風鈴のような軽やかで澄んだ声がこだまする。
オレの鼓動は一気に山頂まで駆け上がる。
「まぁな」
それ以上はとても言えねぇ。
なんか知んないけど、めちゃキンチョーしてるぞオレ。
「急に大雨になっちゃったからね」
「ああ」
せっかく少しは仲良くなれたと思っていたけど、日にちがあくとまた逆戻りな態度になってしまう。
ぶっきらぼうに答えたのは、照れ隠しのため。
そんなオレの気持ちに彼女は気づいているのだろうか。
彼女は振り返り空を見上げて言う。
「なかなか止みそうにないね」
「そうだな」
オレも空を見上げて言う。
本当に厚い雲に覆われていて、なかなか止みそうにない。
「どうするの?」
そう言われても答えようがない。
「そうだな」と答えてまた空を見上げた。
「じゃ、私帰るね」
彼女の言葉に「おう」と答えて、「気を付けて」と右手をあげる。
彼女は軽く会釈をし、くるりと後を向いた。
そして一歩を踏み出して振り返り、輝く微笑みとともに発したのだ。
「一緒に入ろ」
オレは答える。
「べつにいーけど」
ぶっきらぼうに答えたのは、照れくさかったから。
今日の雨に感謝しよう。
あの日と同じ。
今は夏の甲子園出場をかけた地方大会のまっただ中。
シャイで奥手で硬派なオレは、愛だ恋だにうつつをぬかしている場合ではない。
しかも準々決勝を目前に、気を引き締めて……って今日ぐらいはいいよな。
お読み下さりありがとうございました。
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