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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第3章 喜びと不安と
34/148

 34 とある部活帰り

 準々決勝を2日後に控えたとある日の部活帰り。

 朝から曇り空で降水確率もそこそこあったが、傘を家に忘れて登校したオレは、帰りまで雨が降らないようにと願いながら、投球練習にバッティング練習をこなし、ようやくその日の部活を終え、急ぎ足で帰路についた。


 案の定、大粒の雨が頬を打つ。

 雨粒が頬にかかった、なんていうものではない。

『頬を打つ』という言葉がピッタリなほどの豪雨だ。


 突然に降り出した雨。自分が傘を忘れてきたことを棚に上げ、オレと同じ名前の『そら』をいぶかしげに見上げ、「やっべ。家までもたなかったぜ~」なんてひとり言を言いながら、オレは走り出した。

 いつもの公園の横を通り過ぎて角を曲がれば軒下がある。あの軒下で小雨になるまで雨やどりをしようと懸命に走った。


 そして公園の横を通り過ぎて角を曲がる。もうすぐ。もう少しで……。


 やっとのことで軒下にたどりつき、雨やどりをすることができた。

 大雨に打たれて制服もカバンもびしょ濡れだ。

 オレは部活用にと持ってきていたタオルで、濡れた頭や制服の水分を拭き取った。


 顔や頭は問題ないが、制服はいくらタオルで押さえようとも多少湿り気は残る。

 まあ仕方ないかと顔を上げ、いつまで降り続くのだろうと空を見上げた。


 とその時、オレの心臓は一瞬固まった。

 心臓発作とかじゃない。いくら急に走りだしたからといっても、現役高校生。しかも甲子園出場を目指している野球部員だ。健康に気を付けて……とそんなことを考えている場合じゃない。


 遠目にもわかるクラスメイト、涼風すずかぜ愛優あゆを見つけて、心臓だけでなく思考回路までフリーズしたのだ。


 その彼女が、クラスでほとんどの男子が憧れの眼差しを注いでいる彼女が、前方から歩いてくるではないか。


 どうする?


 デジャビュ? デジャブ……。デジャヴ? どれだっけ?

 まあいいや。既視感。


 以前にもこのようなことがあった。

 あの時はオレが傘をさして通りかかり、彼女に差しだしてそのまま帰ろうとすると、「一緒に入ろ」などと天使のような提案をしてくれて、ふたりで『相合い傘』で帰ったのだ。


 突然のことでドキドキが止まらず、折角のチャンスを活かしきれなかったが。



 あのころに比べて少しは親しくなったものの、最近はオレの方が試合で忙しく、あまり話をしたりする時間もなくなっていた。それで少し距離があいた気がしていたから、なんとなく自分から話しかけにくく感じていた。

 だって、ほら。

 オレ、シャイだから。

 それに奥手なんだ。

 硬派なんだ。



 なんてことを考えている間にも、彼女との距離はどんどん縮まってくる。


 空、どうする?



お読み下さりありがとうございました。


次話「35 とある部活帰りに」もよろしくお願いします!

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