34 とある部活帰り
準々決勝を2日後に控えたとある日の部活帰り。
朝から曇り空で降水確率もそこそこあったが、傘を家に忘れて登校したオレは、帰りまで雨が降らないようにと願いながら、投球練習にバッティング練習を熟し、ようやくその日の部活を終え、急ぎ足で帰路についた。
案の定、大粒の雨が頬を打つ。
雨粒が頬にかかった、なんていうものではない。
『頬を打つ』という言葉がピッタリなほどの豪雨だ。
突然に降り出した雨。自分が傘を忘れてきたことを棚に上げ、オレと同じ名前の『そら』を訝しげに見上げ、「やっべ。家までもたなかったぜ~」なんてひとり言を言いながら、オレは走り出した。
いつもの公園の横を通り過ぎて角を曲がれば軒下がある。あの軒下で小雨になるまで雨やどりをしようと懸命に走った。
そして公園の横を通り過ぎて角を曲がる。もうすぐ。もう少しで……。
やっとのことで軒下にたどりつき、雨やどりをすることができた。
大雨に打たれて制服もカバンもびしょ濡れだ。
オレは部活用にと持ってきていたタオルで、濡れた頭や制服の水分を拭き取った。
顔や頭は問題ないが、制服はいくらタオルで押さえようとも多少湿り気は残る。
まあ仕方ないかと顔を上げ、いつまで降り続くのだろうと空を見上げた。
とその時、オレの心臓は一瞬固まった。
心臓発作とかじゃない。いくら急に走りだしたからといっても、現役高校生。しかも甲子園出場を目指している野球部員だ。健康に気を付けて……とそんなことを考えている場合じゃない。
遠目にもわかるクラスメイト、涼風愛優を見つけて、心臓だけでなく思考回路までフリーズしたのだ。
その彼女が、クラスでほとんどの男子が憧れの眼差しを注いでいる彼女が、前方から歩いてくるではないか。
どうする?
デジャビュ? デジャブ……。デジャヴ? どれだっけ?
まあいいや。既視感。
以前にもこのようなことがあった。
あの時はオレが傘をさして通りかかり、彼女に差しだしてそのまま帰ろうとすると、「一緒に入ろ」などと天使のような提案をしてくれて、ふたりで『相合い傘』で帰ったのだ。
突然のことでドキドキが止まらず、折角のチャンスを活かしきれなかったが。
あのころに比べて少しは親しくなったものの、最近はオレの方が試合で忙しく、あまり話をしたりする時間もなくなっていた。それで少し距離があいた気がしていたから、なんとなく自分から話しかけにくく感じていた。
だって、ほら。
オレ、シャイだから。
それに奥手なんだ。
硬派なんだ。
なんてことを考えている間にも、彼女との距離はどんどん縮まってくる。
空、どうする?
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