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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第3章 喜びと不安と
29/148

 29 とあるライブにて

 兄のバンドのライブ。

 途中、兄貴はスタンドに立てていたギターを手に取り、ストラップをかけ、客席に語りかけるように静かに弾き語りを始めた。

 他のメンバーは楽器には触れず、兄を見守るように優しい表情を浮かべている。


 アップテンポの曲では大いに盛り上がっていた客席も、『あるひとの為に作った歌』という兄の演奏を歌声を歌詞を聴き逃すまいと今は静まりかえっている。


 兄が爪弾つまびくアルペジオ。その曲名が静かに告げられると、オレの鼓動がひとつ大きく響き、そしてだんだんと速度を速めていった。


 


『不変的感覚(キミを想う気持ち)』


♪ キミが好きなのは

  ボクの中では

 変えようのない事実で

 変わりようのないこと


 キミがボクの中で

 大きな存在に

 なっていることにもう

 気づいてしまったから


 ほんの小さなきっかけで

 キミと出逢うことになって

 毎日の色が変わっていった

 鮮やかないろになった


 モノトーンの出来事さえ

 原色に変えてしまうほどで

  色あせた現実さえ

  パステルカラーになる


 キミが好きなのは

  ボクの中では

 変えようのない事実で

 変わりようのないこと


 ボクの中心に  

 キミがいるのは

 変えようのない事実で

 変わりようのないことだから ♪





 途中、全身に鳥肌が立つ感覚を憶える。



 覚えている。オレは覚えている。


『じゃあ、いくぞ』


 そう言って、オレのベッドの縁に腰かけていた兄。床に座って観客のように見つめていたオレ。


『曲名はまだつけてないんだ』


 そう告げてから歌いだした。

 あの時、オレの部屋で兄貴がオレのために作ったと言って、聴かせてくれた歌だ。



 兄のソロで始まったギターに途中からピアノが入り、それだけの伴奏で静かに語りかけるように。

 サビの部分では情熱的に想いを込めて歌う姿はカッコよくて。


 最後はまた兄のソロで締めくくられた。

 兄は最後のストロークを弾き終わり、余韻とともにゆっくりと右手のひらで弦を押さえ消音した。


 以前聴いた時より少し手を加えられていて、また違った雰囲気で心に沁みる。

 所々に奏でられる『major7』の響きがなんとも言えず心に残る。



 兄の歌が終わると、会場からは大きな拍手が沸き起こる。

 愛優ちゃんは「この歌素敵ね。大好き」と満面の笑みを浮かべて話しかけてきた。

 愛優ちゃんが好きだと言っていた曲がこの曲だったなんて。

 オレは少し照れくさいのもあって、「ああ」とだけ答えたが、その後の「こんな風に言われたら素敵よねぇ」との言葉に、嬉しさが込み上がってくる。


 同じ曲を聴いて同じように感じられる。

 そんなひとにめぐり逢えた気がする。


「ホントだね」


 オレは静かに微笑んでそう答えた。



お読み下さりありがとうございました。


作中の歌詞は作者自身が本作品のために認めた、オリジナル作品です。

次話「30 あるライブにて」もよろしくお願いします!

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― 新着の感想 ―
お兄さんのライブ、とても盛り上がっていて、さすがですね。そしてとっておきの一曲は、部屋で空に聴かせてくれた、あの曲なのですね。これには空も感激している様子が、とても伝わってきました。また、愛優も気に入…
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