21 夏祭りの日
夏祭り当日。
部活から帰ったオレは、玄関のドアを勢いよく開けて「ただいま」と声をかける。
と、そこへ待ってましたと言わんばかりにやってきた母が、ちょっと隣町の親戚の家へ届け物をしてほしいと。
「いや、オレ今部活から帰ってきたところだし、夕方また出かけるから」
そう言って断ったのだが、夕方出かけるなら用事を済ませてからでも充分間に合うと。
いやいや、オレは夕方の“おでかけ”に備えての準備がある……とは言えずに、渋々引き受けることにした。
今から大急ぎで行って帰ってくれば時間には間に合うと判断したからだ。
それにいつも美味しい弁当を作ってくれているので、感謝の気持ちも込めておこう。
まあ、下手に断ってそのあとグズグズ言われるのも面倒くさいってのもあるけれど。
オレは私服に着替え、玄関で母から親戚への届け物とことづけを預かり、「行ってきます」とドアを開ける。
照りつける太陽が、嫌でも夏を感じさせる。
駅までの道程もこの時間帯は長く感じる。
駅に着いてホームでひと息、と言いたいところだが、日差しは屋根で遮られてはいるものの、ムッとした風は歩いた後の身体にまとわりつくようにつきまとう。
身だしなみにと持ち歩いているハンカチが汗を吸い取るも、またすぐにじわりと滲んでくる。
そんな中電車を待っていると、うしろから不意に肩を叩かれた。
「よお」
声の主の方を見ると、クラスメイトで部活も同じ野球部の江崎悟が立っていた。
悟とはよく一緒に帰ったりすることもあり、普段から割と仲良くしている。
試験最終日である一昨日、帰る前に愛優ちゃんと話をした後にやって来たのも彼だ。
「おお」
短い挨拶を交わし、今日の花火大会の話題になる。
「お前、今日の花火大会、行くのか?」
悟に聞かれ、「まぁな」と答える。
すると「誰といくのか」とか「何時頃行くのか」なんてことを根掘り葉掘り聞かれて、隠す必要もないので正直に答えた。
「お前すげぇな。愛優ちゃんだなんて呼び方できて。しかも兄弟同士が知り合いだなんて」
「いや、たまたまだよ」
「一緒に花火大会なんて夢のようじゃないか!」
「ひょっとしてお前、愛優ちゃんのこと好きなのか?」
あまりにも悟の声に力がこもっていたので、聞いてみた。
「お前は?」
「いやいや、オレが聞いてんだよ」
「好きにならない訳がないだろ」
まあ、そうだな。
「なるほど」
「で、お前は?」
「まぁな。でも好きとかっていうよりは憧れに近いかも。遠くから見つめてるっていうか」
確かに今まではそんな感じだった。
「抜け駆けすんなよ」
冗談っぽく言う悟の目がいつになく鋭く感じるのは、気のせいだろうか。
「お前こそ」
まあ、取りあえずはそう言って笑い合った。
お読み下さりありがとうございました。
次話「22 とある夏祭り」もよろしくお願いします!
本日更新します!




