2 とある雨の日に
とある雨の日に偶然見かけたクラスメイト。
部活の帰りに空腹のため、少々参っていたオレの目に飛び込んできたその姿。
急な雨に彼女は傘を持っていないのか、軒下で雨やどりをしているようだ。
オレは今朝母親に手渡された傘をさしている。
さあ、どうする?
彼女はクラスでも一、二を争うほどの秀才だ。その上美人ときてる。
しかもそれを鼻にかけることなく、その名の通り誰にでも笑顔で、誰にでも優しい。
そんな女神のような彼女を好きにならない男はいないだろう。
かく言うオレも例に漏れず、というか当然彼女をお慕い申し上げている。
どうする?
考えるうちに今度は鼓動が大急ぎで駆け出した。
どうする?
声をかけてみるか?
それとも会釈だけして通り過ぎるか?
いや、そんなことはできない。
きっと彼女は急な雨に打たれて、あの軒先で雨やどりをしているに違いない。
ならば答えはひとつ。
オレは彼女の立っている軒先に向かった。
「おう」
「あ」
「これ使えよ」
そう言って傘を差しだした。
ぶっきらぼうに言ったのは照れくさかったから。
「え、でも」
はじめは遠慮していたが、オレは彼女になんとか傘を持たせて、「じゃ」とひと言発してその場を後にしようと背中を向ける。
そのとき、背中越しに彼女の声がした。
「一緒に……」
その後の言葉は雨の音に遮られたが、確かに聞こえた。
オレは振り向いて彼女を見つめる。
ヤバい。心臓が暴走しそうだ。
「え?」
努めて冷静に振る舞うオレ。
「一緒に入ろ。ダメ?」
少しはにかんで言う彼女の言葉に、嬉しい気持ちを悟られまいと、素っ気なく返す。
「べつにいーけど」
ふふ、と笑いながら傘を広げてオレの横に立つ彼女のカバンから、折りたたみ傘がのぞいている。
このまま気づかぬフリをしていよう。
今日が雨でよかった。
オレの鼓動が雨音にかき消されて、彼女には伝わらないだろうから。
お読み下さりありがとうございました。
次話「3 ある雨の日」もよろしくお願いします!
明日更新します!