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『べつにいーけど』   作者: 藤乃 澄乃
第1章 はじまり
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  2 とある雨の日に

 とある雨の日に偶然見かけたクラスメイト。

 部活の帰りに空腹のため、少々参っていたオレの目に飛び込んできたその姿。


 急な雨に彼女は傘を持っていないのか、軒下で雨やどりをしているようだ。

 オレは今朝母親に手渡された傘をさしている。


 さあ、どうする?


 彼女はクラスでも一、二を争うほどの秀才だ。その上美人ときてる。

 しかもそれを鼻にかけることなく、その名の通り誰にでも笑顔で、誰にでも優しい。

 そんな女神のような彼女を好きにならない男はいないだろう。

 かく言うオレも例に漏れず、というか当然彼女をお慕い申し上げている。



 どうする?


 考えるうちに今度は鼓動が大急ぎで駆け出した。


 どうする?

 声をかけてみるか?

 それとも会釈だけして通り過ぎるか?


 いや、そんなことはできない。

 きっと彼女は急な雨に打たれて、あの軒先で雨やどりをしているに違いない。

 ならば答えはひとつ。

 オレは彼女の立っている軒先に向かった。


「おう」


「あ」


「これ使えよ」


 そう言って傘を差しだした。

 ぶっきらぼうに言ったのは照れくさかったから。


「え、でも」


 はじめは遠慮していたが、オレは彼女になんとか傘を持たせて、「じゃ」とひと言発してその場を後にしようと背中を向ける。

 そのとき、背中越しに彼女の声がした。


「一緒に……」


 その後の言葉は雨の音に遮られたが、確かに聞こえた。

 オレは振り向いて彼女を見つめる。

 ヤバい。心臓が暴走しそうだ。


「え?」


 努めて冷静に振る舞うオレ。


「一緒に入ろ。ダメ?」


 少しはにかんで言う彼女の言葉に、嬉しい気持ちを悟られまいと、素っ気なく返す。


「べつにいーけど」


 ふふ、と笑いながら傘を広げてオレの横に立つ彼女のカバンから、折りたたみ傘がのぞいている。

 このまま気づかぬフリをしていよう。


 今日が雨でよかった。

 オレの鼓動が雨音にかき消されて、彼女には伝わらないだろうから。



お読み下さりありがとうございました。


次話「3 ある雨の日」もよろしくお願いします!

明日更新します!

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― 新着の感想 ―
雨の日に偶然見かけたクラスメイトを目の前にして、照れ隠しをしながらも、勇気を出して傘を差し出す主人公は、ぶっきらぼうだけれど優しいですね。 心臓の鼓動を、雨がかき消すように。その情景もとても印象的で…
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