18 それではお茶でも
オレにとっては嬉しい偶然。
突然の出来事に、お互い「あ」と声が漏れる。
オレ達の前に颯爽と現れたのは……いや、これは夢かもしれない。
それとも実際にはいないひとが目に浮かぶ、幻かもしれない。
若しくは他人のそら似かもしれない。
あまりの偶然に我が目を疑い、取りあえず右手でほっぺをつねってみる。
「いってぇ」
やっぱ夢じゃない。現実なんだ。そうだ、本物だ。
「何やってんだお前」
兄からのツッコミに「いや、なんでも」と苦笑いで答え、遅れてやって来た彼女の方に目をやる。
「やっぱり会えたね」
涼風愛優は、世界中から太陽の光を集めてきたのかというくらいに目映い笑顔でそう仰る。
「いや、ほんっとビックリだよな」
いくら試験後の雑談で「会えるかもね」なんて言われたからって、ドラマじゃあるまいしそんな都合良く会えるわけがないと半ば諦めていた。
まあ、少々の期待はなかったと言えば嘘になるが、まさか本当に映画館で会えるなんて思ってもいなかったので、はじめは嬉しいというよりは、まずびっくりした。
そしてジワジワと喜びがふくらんできて、きっと今のオレはにやけた顔つきになっているに違いない。
しかしふたりきりでないからか、案外スッと言葉がでてきた。
今日はなんだか調子いいぞ。
「なんだ君たち知り合いなのかい?」
妙な言葉づかいで、まるで学校の先生のような口調の兄貴。
「ああ。同じ学校のクラスメイト」
ドキドキを悟られまいと、至ってフツーにオレが答えると「ふうん」と言いながら、ニヤリとする。
兄貴がこの表情をするときは、何かを企んでいるときだ。
嫌な予感がする。いや、嫌な予感しかしない。
とここでオレにはひとつの疑問が生じた。
「あの……」
オレの言葉に3人がこちらを向く。
「あの、お二人は知り合いなんですか?」
だってそうだろ?
兄貴のバンドのピアノ担当のお姉さまに涼風が「おまたせ」って。
確かにさっきそう言って現れた。
「あれ? お前まだ気づかねぇの?」
「なにが?」
すると兄貴はお腹を抱えながら大爆笑している。
彼女たちはふたりで顔を見合わせながら「ふふ」と笑っているし。
「姉と妹。まあ、俗に言う姉妹ってやつだな」
そうか、お姉さまと涼風は姉妹か。なるほど。
って、ええー!
そういうことだったのか。どうりでお二方ともお美しい。
「じゃ、ここで偶然会ったのも何かの縁。ということで、取りあえずお茶でも行きましょうか」
え。お茶?
兄貴の提案に、にこやかに頷く美人姉妹。
「それって4人で?」
オレは信じられなくて、確認してみる。
「そりゃそうでしょ」
おー、のー。
嬉しすぎるぜ。
そして兄貴は続けた。
「お前行かないのか?」
「そんな。滅相もございません。お供しますとも。それではお茶でも、とまいりましょうか」
兄貴が一緒のせいか、言葉がするするでてくるぞ。
オレの言葉で4人は歩き出したが、そこで傍に寄ってきた兄貴に小声で突っ込まれた。
「今日は調子良さそうだな」
お読み下さりありがとうございました。
主人公『空』もクラスメートの愛優とふたりの時は、緊張のあまり言葉少な目でしたが、
仲良しの兄『海』と一緒なら、案外言葉がするすると出てくるようです。
今後どうなっていくのでしょうか。
次話「19 意外な展開に」もよろしくお願いします!




